結論
ラックレート(Rack Rate)とは、ホテルが客室ごとに定めている正規の定価のことです。「正規料金」「公示料金」とも呼ばれます。一方、BAR(Best Available Rate、ベスト・アベイラブル・レート)は、その日に、条件を付けずに誰でも予約できるいちばん安い一般向けの料金で、需要に合わせて日々動きます。
- いまのホテルで、実際の販売の基準になっているのはBAR。ラックレートで泊まる人はほとんどいない
- ラックレートは、割引の基準や客室に置かれた料金表、法人契約の上限として残っている
- 「通常料金◯円→◯%OFF」のようにラックレートと比べた表示は、実際にその値段で売っていなければ、景品表示法の二重価格表示として問題になるおそれがある
泊まる側は「定価」の数字よりも、その日のBARと、キャンセル条件の違いを見て比べるのが賢い選び方です。
はじめに
ホテルの客室に置かれた案内ファイルを開くと、自分が予約した値段よりずっと高い宿泊料金が書かれていて驚いた、という経験はないでしょうか。あれがラックレートです。予約サイトで「通常料金」として取り消し線付きで表示されている高い数字も、ラックレートかそれに近い料金であることがあります。
ホテルの社内では、「ラックはいくら?」「今日のBARは?」という会話が日常的に交わされます。新しく予約やフロントの担当になった人が最初につまずくのが、この2つの言葉の違いです。この記事では、ラックレートとBARの意味、どう使い分けられているか、泊まる側とホテルの側がそれぞれ気をつけたいことを解説します。
ラックレートとは:ホテルの「定価」
ラックレートは、ホテルが客室タイプごとに定めた、割引をしていない基準の料金です。ホテルが一年を通じて大きくは変えない「看板の数字」で、実際に販売するときの料金は、ここから下げて設定するのが一般的です。
名前の由来は、かつてのフロントで客室の状況を管理していた「ラック(棚)」にあるといわれます。客室ごとの札を差したラックに、その部屋の料金も書かれていたことから、定価を「ラックレート」と呼ぶようになったという説明が広く知られています。
登録ホテルは料金を届け出て、客室に掲示する
日本では、国際観光ホテル整備法にもとづいて観光庁に登録した登録ホテル・登録旅館について、料金の決まりがあります。同法第11条では、登録ホテル業を営む者は、宿泊料金などの料金と宿泊約款を定めて、実施前に観光庁長官に届け出、それを公示しなければならないとされています。
公示の方法は施行規則第9条で決められていて、玄関またはフロントにはその料金を、客室にはその客室の料金を、日本語と外国語で記載して備え置くか掲示することになっています。客室の案内ファイルに高い宿泊料金が載っているのは、こうした決まりや慣習によるものです。登録していないホテルでも、同じように客室の案内に正規料金を載せていることがあります。
BARとは:その日いちばん安い一般向けの料金
BARは、ホテルの料金設定の中心になる料金です。ポイントは次の3つです。
- 条件が付かない:会員限定、事前決済のみ、連泊限定、早期予約限定といった条件が付かない、誰でも予約できる料金
- その時点でいちばん安い:条件の付かない料金のうち、その日に予約できる最も安いもの
- 日々変わる:需要の予測や予約の入り具合、周辺のホテルの料金を見て、日ごと・時点ごとに上げ下げする
注意したいのは、BARは「全料金の中でいちばん安い料金」ではないことです。キャンセル不可の事前決済プランや会員限定料金は、BARより安く設定されることがよくあります。BARはあくまで、条件なしで買える料金の基準です。公式サイトで「スタンダードプラン」「素泊まりプラン」などの名前で売られている、キャンセル無料の期限がある料金が、BARにあたることが多いでしょう。
ラックレート・BAR・その他の料金の違い
ホテルの料金は、いくつかの層に分かれています。代表的なものを並べると次のとおりです。
| 料金 | 意味 | 変動 | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| ラックレート | ホテルが定めた割引なしの正規料金 | ほぼ固定(年に1回程度の見直し) | 料金表・割引の基準・契約の上限 |
| BAR | 条件なしで誰でも予約できる、その日いちばん安い料金 | 日ごと・時点ごとに変動 | 販売の基準。各種割引の計算のもと |
| 条件付きの割引料金 | 事前決済、早期予約、連泊、会員限定などの条件を付けた料金 | BARに連動して変動することが多い | 需要の先取り、直販の促進 |
| 法人契約料金(コーポレートレート) | 企業と契約して決める出張者向けの料金 | 固定額、または「BARから◯%引き」 | 出張需要の囲い込み |
| ネットレート(卸値) | 旅行会社などに卸す、販売手数料を除いた料金 | 契約による | パッケージ旅行・団体向け |
数字で見るとどうなるか(仮の例)
関係が分かりやすいよう、架空のホテルのダブルルームで例を作ります。
| 料金 | 閑散期の平日 | 繁忙期の土曜 |
|---|---|---|
| ラックレート | 40,000円 | 40,000円 |
| BAR | 16,000円 | 34,000円 |
| 事前決済割引(BARの10%引き) | 14,400円 | 30,600円 |
| 法人契約(BARの10%引き、上限あり) | 14,400円 | 販売停止(満室見込みのため) |
ラックレートは同じでも、BARは日によって2倍以上違います。割引料金や法人料金はBARを基準に計算されるので、BARを決めることが、実質的にその日の料金全体を決めることになります。このように、需要に応じて料金と販売する客室を調整し、売上を最大化する考え方をレベニューマネジメントと呼びます。料金の結果を測る指標については用語解説 : 稼働率・ADR・RevPARとは、0円で使う客室を稼働率やADRにどう数えるかは用語解説 : ハウスユースとはで解説しています。
BARはどうやって決めるのか
BARを決めるときに見るのは、主に次の情報です。
- オンザブック(予約の入り具合):その日の予約がすでに何室入っているか。去年の同じ時期の同じ時点と比べて多いか少ないか
- 需要の予測:曜日、季節、周辺のイベントや学会、連休などから、これから入る予約を見込む
- 競合の料金:立地やグレードが近いホテル(コンプセット)がいくらで売っているか
- 残りの日数:宿泊日までの日数(リードタイム)が短くなるほど、空室を残すか値下げするかの判断が迫られる
ホテルによっては、あらかじめ「BAR1=34,000円、BAR2=28,000円、BAR3=22,000円……」のように段階を用意しておき、日ごとにどの段階を適用するかを切り替える運用をしています。レベニューマネジメント用のシステム(RMS)を使うホテルでは、こうした判断の一部をシステムが提案します。
料金を毎日動かす判断がどれほど難しいかは、hotelx.techの体験ゲームホテルRMチャレンジで試せます。90日分の販売期間を数分に縮め、料金をどう動かせば売上が最大になるかを体験できます。
泊まる側が知っておきたいこと
- 「通常料金からの割引率」より、その日の実際の料金を比べる:割引率の大きさは、基準にした料金の高さで決まる。複数のホテルや予約サイトを、実際に支払う金額で比べる
- BARと割引料金の違いは「条件」:安い料金ほど、キャンセル不可や事前決済などの条件が付いていることが多い。予定が変わる可能性があるなら、BARのほうが結果的に得になることもある
- 「ラックレート」「正規料金」と名の付いたプランは条件を確認する:割引をしていないことを示すだけの名前なので、特典やキャンセル条件を見て選ぶ
- 客室の料金表の金額を請求されるわけではない:請求されるのは、予約時に確定した料金。料金表は基準として載っているだけ
注意点:ラックレートと比べた「◯%OFF」表示
ホテルの側がいちばん気をつけたいのが、ラックレートを比較対象にした割引表示です。「通常40,000円のところ16,000円(60%OFF)」のような表示は、二重価格表示と呼ばれ、景品表示法の対象になります。
消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)では、過去の販売価格を比較対照価格にする場合、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であれば不当表示にあたるおそれはないとしています。その目安として、セール開始時点からさかのぼる8週間のうち、その価格で販売されていた期間が過半を占めていることを挙げています。ただし、その価格で販売されていた期間が通算2週間未満の場合や、その価格で最後に販売してから2週間以上たっている場合は、これにあたらないとしています。
ほとんど売られていないラックレートを「通常料金」として並べ、大きな割引に見せる表示は、この考え方に照らすと問題になるおそれがあります。比べる場合は、その料金がいつ、どのくらいの期間売られていたかを正確に示すか、比較表示そのものをやめるのが安全です。
まとめ
ラックレートはホテルが定めた割引なしの正規料金で、BARはその日に条件なしで予約できるいちばん安い一般向けの料金です。料金を日々動かすのが当たり前になった今、販売の基準はBARで、ラックレートは料金表や割引・契約の基準として残っています。
泊まる側は、割引率の大きさではなく実際の料金と条件で比べること。ホテルの側は、BARを中心に料金の体系を組み立て、ラックレートを使った割引表示は景品表示法の考え方に沿っているかを確かめること。この2つを押さえておけば、料金をめぐる誤解やトラブルを防げます。
関連する用語解説
ホテル業界でよく使われる略語・専門用語はホテル業界用語集で一覧にしています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラックレートとはどういう意味ですか?
ホテルが客室タイプごとに定めた、割引をしていない正規の料金です。「正規料金」「公示料金」とも呼ばれます。実際の販売価格は、これより低く設定されることがほとんどです。
Q2. BARとは何の略ですか?
Best Available Rate(ベスト・アベイラブル・レート)の略です。会員限定や事前決済などの条件を付けずに、その日に誰でも予約できるいちばん安い一般向けの料金を指します。
Q3. ラックレートとBARの違いは何ですか?
ラックレートはほぼ固定の定価で、BARは需要に合わせて日々変わる実際の販売価格の基準です。割引料金や法人料金も、いまはBARを基準に計算することが多くなっています。
Q4. 客室の料金表に書かれている金額を払う必要がありますか?
ありません。請求されるのは予約時に確定した料金です。登録ホテルなどでは、決まりにもとづいて客室に正規の料金を掲示しているため、実際の料金より高い金額が載っていることがあります。
Q5. 「ラックレートプラン」はお得ですか?
名前は割引をしていないことを示しているだけなので、それ自体がお得というわけではありません。特典の有無やキャンセル条件を、ほかのプランと比べて選んでください。
Q6. ラックレートはなぜ実際の料金よりずっと高いのですか?
ラックレートは割引の基準や契約の上限として使うため、需要の大きい日の料金も収まるよう高めに決めておき、日々の販売はBARで調整するのが一般的だからです。料金表と実際の料金がかけ離れすぎていないか、定期的に見直すことも大切です。
Q7. ホテルがラックレートと比べて割引率を表示するのは問題ですか?
比べる料金が実際に一定期間販売されていたものであれば問題になりにくいですが、ほとんど売られていない料金を「通常料金」として比べると、景品表示法の二重価格表示として問題になるおそれがあります。消費者庁の価格表示ガイドラインの考え方を確認してください。


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