結論
株式会社パレスホテル、九州電力、クラフティア(旧・九電工)の3社は2026年10月14日、神奈川県箱根町仙石原の旧「パレスホテル箱根」跡地でホテルの建て替え工事に着工したと発表しました。起工式は10月13日。新しいパレスホテル箱根は2029年秋の開業予定で、全69室(スイート6室、ヴィラ5棟を含む)のマウンテンリゾートになります。旧ホテルは建物の老朽化で2018年1月に営業を終えていたので、閉館から再開業まで11年あまりかかる計算です。
このニュースは、老朽化したリゾートホテルを抱える運営者にとって、次の3つの点で参考になります。
- 国立公園のホテルは「公園事業」として環境大臣の認可で営業している。建て替えで規模や経営の方法を変えるには認可の変更が要り、廃業すれば原状回復を命じられることがある
- 単独で建て替えず、資本の出し手と組んだ。所有は特定目的会社、運営はパレスホテル、そこに電力会社のグループが加わる三社体制をとった
- 客室を絞り、1室を広くした。客室は57〜250㎡で、環境省が国立公園の宿泊施設に求める「小規模で高付加価値」の方向と重なる
はじめに
「閉館」のニュースは、その後どうなるかまで追いかけられることがあまりありません。閉館したホテルの跡地が更地のまま何年も残る例もあれば、建物が残ったまま廃屋になる例もあります。とくに国立公園の中では、廃業したホテルや旅館の建物が残されることが、環境省自身が「廃屋問題」と呼んで対策を進めている課題です。
パレスホテル箱根は、閉館から長い空白期間を経て、ブランドを保ったまま建て替えにこぎつけた例です。本記事では、3社の発表資料をもとに計画の中身を整理し、自然公園法の仕組みと環境省の資料を読みながら、老朽化したホテルを抱える運営者が何を確かめておくべきかを考えます。2026〜2027年に営業を終えるホテルの一覧は閉館・営業終了するホテル一覧にまとめています。
発表の中身:全69室のマウンテンリゾート
旧パレスホテル箱根は、国立公園の宿舎事業の認可を受け、1960年に前身の「箱根観光ホテル」として開業しました。建物の老朽化により2018年1月に営業を終了しています。今回の再開発は、株式会社パレスホテルに、国立公園内での事業実績を持つ九州電力とクラフティアが加わった三社体制で、「新たなプロジェクト」として始まったと説明されています。
発表資料に載っている概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開業 | 2029年秋予定(起工式は2026年10月13日) |
| 所在地 | 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原(富士箱根伊豆国立公園内) |
| 敷地・延床面積 | 敷地約17,450㎡ 延床面積12,850㎡ |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造 地上4階・地下1階 |
| 客室 | 69室(スイート6室、ヴィラ5棟を含む) 57〜250㎡(露天風呂付きテラスを含めると69〜271㎡) |
| 料飲・ウェルネス | オールデイダイニング、ラウンジバー、スペシャリティレストラン スパ、プール、フィットネスジム |
| 所有者 | 箱根仙石原特定目的会社 |
| 設計・施工 | 設計:三菱地所設計 施工:鹿島建設 デザイン:タラ・バーナード&パートナーズ |
株式会社パレスホテルは1961年に丸の内で「パレスホテル」を開業し、2009年から建て替えて2012年に「パレスホテル東京」としてグランドオープンさせた会社です。2020年には大阪・堂島浜に宿泊主体型の「Zentis Osaka」を開業しています。社長のコメントでも、箱根は「フラッグシップである『パレスホテル東京』に続く」プロジェクトと位置づけられています。
九州電力は2019年に、福岡・東京・大阪・京都のホテルを取得する私募ファンド(規模約190億円)に出資してホテル事業に入りました。2026年5月には沖縄県古宇利島のホテル開発にコンソーシアムの一員として参画しています。今回の発表では、ラグジュアリーホテルを「地域の魅力と価値を高める重要な基盤」と位置づけ、パレスホテルとの協働で開発・運営の知見を深めるとしています。
国立公園のホテルは「公園事業」として営業している
発表資料に「国立公園の宿舎事業認可を受け」とあるのは、自然公園法の公園事業のことです。国立公園では、宿舎・野営場・博物展示施設といった利用のための施設の位置が公園計画で決められていて、そこで民間が宿泊施設を営むには環境大臣の認可を受けます(自然公園法第10条第3項)。認可を受けた事業者は、国に代わって公園の利用者にサービスを提供する立場とされ、一般の建築に必要な特別地域の行為許可とは別の基準で審査されます。
運営者が押さえておきたいのは、認可を受けた後の決まりです。
| 場面 | 自然公園法の定め |
|---|---|
| 認可の申請 | 施設の種類・位置・規模に加え、管理または経営の方法を書く(第10条第4項) |
| 規模や経営方法の変更 | 軽微なものを除き、変更の認可が要る(第10条第6項) |
| 事業の譲渡 | 譲渡する側と譲り受ける側があらかじめ承認を受ければ、地位を引き継げる(第12条) |
| 休業・廃業 | 事前に届け出る(第13条) |
| 施設が古くなったとき | 環境大臣は施設の改善などを命じることができる(第11条) |
| 廃業した後 | 環境大臣は原状回復(建物の撤去など)を命じることができる(第15条) |
つまり国立公園のホテルは、街なかのホテルのように「売る」「貸す」「休む」「やめる」を所有者の判断だけでは進められません。建て替えて客室数や運営の形を変えるなら変更の認可、運営会社を替えるなら承継の承認、休業するなら届け出が必要になります。2009年の法改正では、申請書に管理・経営の方法を書くことを法律に定め、改善命令や原状回復命令に違反したときの罰則を加えるなど、国の監督が強められました。
環境省が「廃屋問題」と呼ぶもの
環境省は2018年9月、有識者の検討会での議論をもとに「国立公園の宿舎事業のあり方について」をまとめました。そこでは、国立公園の宿泊施設が廃屋になっていく流れが次のように書かれています。
- 1980年代から1990年代前半に、団体旅行向けの新設・改修へ大きな投資をした
- バブル崩壊で団体旅行が減り、大きな施設の維持費をまかなえなくなった
- 金融機関の融資も厳しくなり、個人旅行に合わせた設備の更新や適正な規模への縮小ができないまま老朽化した
- 経営破綻した施設が廃屋として放置され、観光地全体が衰えた印象を与える
原則では、宿舎事業者が破綻したら廃止を届け出て、別の事業者に建物を引き継ぐか、撤去して原状回復します。ところが資料は、原状回復命令を出しても相手がすでに履行する力を失っていることがほとんどで、行政代執行も過去に実施した例はほとんどない、と認めています。環境省が持つ土地では、建物収去・土地明渡しの訴訟を起こして強制執行した例もありますが、手続きに長い時間がかかります。
資料はさらに、これからは廃屋を生まない仕組みのほうが重要だとしています。いまの制度では、最初に認可した後、国が事業者の経営状況を定期的に確かめる仕組みがなく、休廃業しない限り、経営がどうであれ認可は続きます。建物や設備は、つくった当初は上質でも、更新の投資を怠れば老朽化して客の満足度が下がり、経営の悪化、最悪の場合は廃屋につながる、という見立てです。そのうえで、事業者が国に代わって事業を行う公的な立場にあることを改めて認識してもらい、経営状態を継続的に把握する体制や、質の高いサービスを評価する仕組み、地域金融機関などとの連携を検討するとしています。国立公園の宿舎事業者は、今後は「営業を続けていること」だけでなく、更新投資を含めた経営の中身を見られる方向にあると考えておくべきでしょう。
この問題に、いままさに取り組んでいるのが十和田八幡平国立公園の十和田湖・休屋(やすみや)地区です。環境省は2026年5月29日、廃屋を撤去した跡地の国有地(約8,062㎡)で宿泊施設を設計・整備・運営する事業者の公募を始めました。土地は原則50年間の貸し付けで、企画競争で選びます。予定では、参加表明を9月30日に締め切り、10月上旬に一次審査の結果を通知、11月30日に企画提案書の締切、12月下旬に事業者を決めます。廃屋の撤去から新しい宿の誘致まで、国が主導して何年もかけている例といえます。
パレスホテル箱根の計画から読み取れる3つのこと
1. 単独ではなく、資本の出し手と組んだ
新しいホテルの所有者は「箱根仙石原特定目的会社」です。特定目的会社(TMK)は、不動産を持って収益を投資家に分配するための器として使われる会社です。所有はTMK、運営はパレスホテル、そこに九州電力とクラフティアが加わる形で、建物を持つ主体と運営する主体が分かれています。
環境省の2018年の資料は、ホテル業界で所有・経営・運営の分離が進む一方、公園事業は所有と直営が一体の形を主に想定してきたと指摘し、誰が事業を執行するのか、自然公園法上の責任をどう明確にするのかを整理する必要があるとしていました。今回の計画は、そうした分離型の体制で国立公園の宿舎事業を進める例でもあります。
老朽化したホテルの建て替えには多額の資金がかかり、建設費の上昇も続いています。自社の財務だけで抱え込まず、建物の持ち手を別に立て、運営会社は運営に集中するという分担は、地方のリゾートホテルの再生でも選択肢になります。
2. 客室を絞り、1室あたりの価値を上げた
新しいパレスホテル箱根は、延床面積12,850㎡に69室です。客室は57㎡からで、露天風呂付きテラスのある部屋もあります。旧ホテルの客室数は今回の資料には書かれていないため単純に比べられませんが、少ない客室を広くつくり、レストラン3つとスパ・プールを備える構成は、1泊の単価と滞在中の消費で稼ぐ形です。
環境省の資料も、国立公園の新しい宿泊体験の例として「小規模で高付加価値なホテル」を挙げ、アマネム(28室)や星のや竹富島(48室)を紹介しています。団体客向けに大きくつくった施設が縮小できずに廃屋になった、という反省の裏返しです。
3. ブランドを保ったまま空白期間を越えた
閉館から再開業まで11年あまりかかる一方、新しいホテルの名前は「パレスホテル箱根」のままです。長い空白期間があっても、名前と立地の記憶が残っていれば、開業時の集客や採用の足がかりになります。閉館の時点で「いつ、どんな形で戻るか」が決まっていなくても、跡地と名前を手放さなかったことが、今回の再出発につながったと読むことができます。
老朽化したホテルの運営者が今のうちに確かめること
国立公園の中にあるかどうかにかかわらず、築年数のたったリゾートホテルや温泉旅館の経営者は、次の点を確かめておくと、建て替えや事業承継の判断が遅れずに済みます。
- 自館の立地にかかる規制を確かめる:国立公園・国定公園の区域内か、公園事業の認可を受けているか。認可書に書かれた施設の規模や管理・経営の方法を、いまの運営の実態と照らし合わせる
- 「やめるときの費用」を見積もる:解体・撤去の費用を一度見積もっておく。国立公園では廃業後に原状回復を命じられることがあり、資金が尽きてからでは打つ手がなくなる
- 設備の更新計画を作る:空調・給排水・電気などの設備は建物より早く寿命が来る。更新を先送りすると客室の評価が下がり、資金繰りが苦しくなる悪循環に入る(目安はホテルの耐用年数を参照)
- 規模を見直す:団体客向けにつくった客室数や宴会場が、いまの需要に合っているかを確かめる。全館を維持するより、客室を減らして広くする、使わない棟を閉じる、といった縮小も選択肢に入れる
- 引き継ぎ手と資本の出し手を探す:後継者がいない、建て替えの資金がない場合は、運営会社への委託、所有と運営の分離、ファンドや異業種の事業会社との共同事業を検討する。公園事業なら、譲渡には事前の承認が要る
- 休業する場合は、戻り方を先に描く:休業・廃止の届け出が必要か確かめたうえで、従業員、取引先、常連客に、いつ・どの形で戻るのか(戻らないのか)を説明できるようにしておく
箱根のホテルにとっての意味
開業は2029年秋の予定なので、競合として客室が増えるのは3年ほど先です。仙石原やその周辺で高価格帯の旅館・ホテルを営む運営者にとっては、海外の富裕層や国内の高所得層に向けた受け皿が一つ増えることになります。知名度の高いブランドの開業は、エリア全体の注目を高める面もあれば、上位客の取り合いになる面もあります。
もう一つ見ておきたいのが人材です。69室にレストラン3つ、スパ・プールを備えるホテルは、客室数のわりに多くのスタッフを必要とします。開業が近づけば、料理人、スパのセラピスト、宿泊部門の経験者の採用が周辺で始まるでしょう。いまのうちに自館の待遇やキャリアの道筋を見直しておくことは、競合の開業を待たずにできる備えです。2027年に開業する主なホテルは【2027年】新規開業ホテル一覧にまとめています。
まとめ
- パレスホテル箱根は2026年10月13日に起工式を行い、2029年秋に全69室のマウンテンリゾートとして開業する予定。旧ホテルは2018年1月に営業を終えていた
- 国立公園のホテルは公園事業として環境大臣の認可を受けて営業している。規模や経営方法の変更、譲渡、休廃業には手続きがあり、廃業後は原状回復を命じられることがある
- 環境省は、団体客向けの大きな施設が縮小できずに廃屋になる流れを「廃屋問題」と呼び、十和田湖・休屋では廃屋の撤去跡地に新しい宿を誘致する公募を進めている
- 新しいパレスホテル箱根は、所有と運営を分け、異業種の資本と組み、客室を絞って1室の価値を上げる形をとった
- 老朽化したホテルの運営者は、規制、撤去費用、設備の更新、規模、引き継ぎ手を、体力があるうちに確かめておきたい
まずは自館の立地が国立公園・国定公園の区域に入っているか、入っているなら公園事業の認可書に何が書かれているかを確かめるところから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 新しいパレスホテル箱根はいつ開業しますか?
2029年秋の予定です。2026年10月13日に起工式(安全祈願祭)を行い、建設工事に着工しました。開業日や料金は、今回の発表では示されていません。
Q2. 旧パレスホテル箱根はいつ閉館しましたか?
建物の老朽化により、2018年1月に営業を終了しました。前身は1960年に開業した「箱根観光ホテル」です。
Q3. 新しいホテルの規模はどのくらいですか?
全69室(スイート6室、ヴィラ5棟を含む)で、客室の広さは57〜250㎡です。延床面積は12,850㎡、地上4階・地下1階で、オールデイダイニング、ラウンジバー、スペシャリティレストランの3つの料飲施設と、スパ・プール・フィットネスジムを備えます。
Q4. 九州電力がなぜ箱根のホテルに関わるのですか?
発表資料では、キューデングループが経営ビジョンで掲げる「地域共創による価値創造と成長」に向けて都市開発事業に取り組んでおり、ラグジュアリーホテルを地域の魅力と価値を高める基盤と位置づけていると説明されています。九州電力は2019年にホテル特化型の私募ファンドへ出資し、2026年5月には沖縄県古宇利島のホテル開発にも参画しています。
Q5. 国立公園の中でホテルを営業するには、どんな手続きが必要ですか?
公園計画に位置づけられた宿舎を民間が営む場合は、自然公園法第10条第3項に基づいて環境大臣の認可を受けます。宿泊施設として営業するための旅館業法の許可も必要です。認可後に規模や経営の方法を変えるときは変更の認可、事業を譲るときは事前の承認、休廃業するときは事前の届け出が求められます。具体的な手続きは、所管の地方環境事務所に確認してください。
Q6. 国立公園のホテルが廃業したら、建物はどうなりますか?
原則は、別の事業者に引き継ぐか、撤去して原状回復することです。環境大臣は廃業した事業者に原状回復を命じることができます(第15条)。ただし環境省の資料によると、事業者がすでに資金を失っていて命令が実行されず、廃屋のまま残る例が多いのが実情です。
Q7. 国立公園のホテルを別の会社に譲ることはできますか?
できます。自然公園法第12条により、譲渡する側と譲り受ける側があらかじめ環境大臣の承認を受ければ、譲り受けた会社が公園事業者の地位を引き継ぎます。承認を受けずに建物だけを売っても、宿舎事業の地位は引き継がれない点に注意が必要です。運営を委託する場合や所有と運営を分ける場合も、認可書に書いた管理・経営の方法が変わるなら変更の認可が要るため、早めに地方環境事務所に相談してください。
※注1:公園事業…国立公園・国定公園の公園計画に基づいて行う、保護や利用のための施設の事業。宿舎、野営場、園地、博物展示施設などがある。
※注2:特定目的会社(TMK)…資産の流動化に関する法律に基づく会社。不動産などの資産を持ち、そこから得た収益を投資家に分配する器として使われる。
出典:株式会社パレスホテル・九州電力株式会社・株式会社クラフティア「パレスホテル箱根 2029年秋 開業予定 2026年10月13日起工式を実施、ホテル建替工事に着工」(2026年10月14日)、九州電力「九州・関東・関西におけるホテル事業への進出を決定しました」(2019年12月3日)、九州電力「沖縄県古宇利島におけるホテル開発プロジェクトへの参画を決定しました」(2026年5月15日)、自然公園法(e-Gov法令検索)、環境省自然環境局国立公園課「国立公園の宿舎事業のあり方について」(2018年9月)、環境省「十和田八幡平国立公園 休屋宿舎事業の事業者を公募します」(2026年5月29日)

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