結論
オーバーブッキングとは、ホテルが実際の客室数より多くの予約を受けることです。予約しても連絡なく来ない客(ノーショー)や直前のキャンセルが一定の割合で出るため、その分を見込んで多めに予約を受け、空室を減らすのが目的です。航空会社も同じ考え方で座席を販売しています。
見込みが外れて客室が足りなくなると、ホテルは予約していた客を近くの別のホテルに案内します。これを業界ではウォーク(walk)と呼びます。多くのホテルの宿泊約款のもとになっている「モデル宿泊約款」では、契約した客室を提供できないときは、客の了解を得て、できる限り同じ条件の別の宿泊施設をあっせんすること、あっせんできないときは違約金相当額の補償料を払うことが定められています。
泊まる側は、もし当たってしまったら、慌てずに代わりのホテルの条件(同等以上か)、移動の手段と費用、料金の差額をどちらが負担するかを確かめることが大切です。到着が遅くなるときにホテルへ連絡しておくことも、トラブルを避ける基本です。
はじめに
「予約したはずのホテルに着いたら、満室なので系列のホテルに移ってほしいと言われた」——ホテルのオーバーブッキングは、旅行者にとっては突然のトラブルですが、ホテルにとっては日々の販売の中で意図して行っている、収益管理の手法の1つです。
この記事では、オーバーブッキングの意味と、ホテルがあえて予約を多めに受ける理由を、具体的な数字で解説します。さらに、客室が足りなくなったときの「ウォーク」の流れ、宿泊約款での決まり、そして泊まる側が知っておきたい対処法までまとめます。
オーバーブッキングとは
オーバーブッキング(overbooking)は、英語で「予約の受けすぎ」を意味します。ホテルの場合、たとえば100室のホテルが、ある日の予約を103件、105件と、客室数を超えて受け付けている状態を指します。
注意したいのは、次の2つが同じ言葉で呼ばれることがある点です。
| 種類 | 中身 | 原因 |
|---|---|---|
| 計画的なオーバーブッキング | キャンセルやノーショーを見込んで、意図して多めに予約を受ける | 収益管理の判断 |
| 意図しない予約の重複(ダブルブッキング) | 複数の予約サイトで同じ客室が同時に売れてしまう | 在庫の連携の遅れや設定ミス |
この記事で主に扱うのは前者です。後者は、楽天トラベル、じゃらん、Booking.comなど複数の予約サイトの在庫を一元管理する仕組み(サイトコントローラー)の設定や、システムの連携の遅れで起きることがあります。仕組みは徹底解説:ホテル用サイトコントローラー(チャネルマネージャー)で解説しています。
なぜホテルはオーバーブッキングをするのか
理由は、予約どおりに客が来るとは限らないからです。予約が満室でも、当日になると次のような理由で空室が出ます。
- ノーショー:連絡なく来ない
- 直前のキャンセル:前日や当日のキャンセル。無料でキャンセルできるプランが増え、直前の取り消しは起きやすくなっている
- 予定の短縮:連泊の予定を切り上げて早く帰る
ホテルの客室は、売れ残っても翌日に持ち越せません。今夜の空室は、明日になれば価値がゼロになります。満室の予約が入っていたのに当日5室が空けば、その5室分の売上はそのまま失われます。そこで、過去の実績から「この日はおよそ何室が空きそうか」を予測し、その分だけ多めに予約を受けて、空室を減らそうとするのです。
何室多く受けるかの考え方
多めに受ける室数は、「1室多く受けて売れたときの売上」と「あふれてウォークしたときの費用」を比べて決めます。単純化した例で考えます。
- 平均の客室単価(ADR):1万5,000円
- ウォークの費用(代わりのホテルの差額、タクシー代、お詫びなど):1人あたり3万円
あと1件多く予約を受けるかどうか迷っているとき、その1件のせいで客室があふれる確率が20%なら、あふれたときの費用の見込みは3万円×20%=6,000円です。一方、あふれずに済めば(80%)、1万5,000円の売上が得られるので、見込みは1万2,000円。売上の見込みのほうが大きいので、受けたほうが得、という判断になります。あふれる確率が高くなり、費用の見込みが売上の見込みを上回ったところで、追加の予約を止めます。
実際には、曜日、季節、イベント、予約経路(団体か個人か、無料キャンセルのプランかどうか)ごとに、ノーショーやキャンセルの割合は大きく違います。そのため、データを見ながら日ごとに上限を変えるのが一般的です。稼働率や単価の考え方は用語解説 : 稼働率・ADR・RevPARとはで解説しています。
あふれたらどうなる?「ウォーク」の流れ
予測が外れて、来館した客の数が客室数を上回った場合、ホテルは一部の客を別のホテルに案内します。これをウォーク(walk、ウォーキングとも)と呼びます。一般的な流れは次のとおりです。
- 当日の状況の確認:到着済みの客、まだ来ていない予約、延泊の申し出、販売できない客室(故障など)を確かめ、何室足りないかを把握する
- 代わりのホテルの確保:近くの、できるだけ同等以上のグレードのホテルを手配する。系列のホテルや、あらかじめ協力関係を結んでいるホテルに頼むことが多い
- 誰にお願いするかの判断:1泊だけの客か、連泊の客か、ホテルの会員か、などを見て、影響が小さく済む客を選ぶ
- 客への説明とお詫び:到着した客に事情を説明し、了解を得る
- 費用の負担:代わりのホテルへの移動のタクシー代や、料金の差額をホテルが負担するのが一般的。翌日以降も連泊する客は、翌日に元のホテルへ戻れるよう手配することもある
どこまで負担するかは、ホテルや運営会社の方針によって違います。客にとっては予定外の移動になるため、ホテルの側では「どの客を、どのホテルに、どんな条件でお願いするか」をあらかじめ決めておくことが、混乱を減らすための基本です。
「ウォーク」と「ウォークイン」は別の言葉
よく似た言葉にウォークイン(walk-in)があります。こちらは予約なしで当日直接来館した客のことで、ウォークとは意味がまったく違います。フロントで「今日はウォークが出そう」と言えば客室が足りないこと、「ウォークインが入った」と言えば予約なしの客が来たことを指します。
宿泊約款ではどう決まっている?
日本のホテル・旅館の多くは、国土交通省(観光庁)が示しているモデル宿泊約款をもとに、自社の宿泊約款を作っています。モデル宿泊約款をもとにした約款には、客室を提供できないときの扱いについて、次のような条項があります。
- ホテルは、宿泊客に契約した客室を提供できないときは、宿泊客の了解を得て、できる限り同一の条件による他の宿泊施設をあっせんする
- 他の宿泊施設のあっせんができないときは、違約金相当額の補償料を宿泊客に支払い、その補償料は損害賠償額に充てる
- ただし、客室を提供できないことについてホテルの責任となる理由がないときは、補償料を支払わない
オーバーブッキングはホテルの判断で行うものなので、客室を提供できなければホテルの側の責任になります。約款の条文はホテルごとに違うことがあるため、詳しくは予約したホテルの公式サイトに掲載されている宿泊約款で確認できます。
オーバーブッキングに当たったときの対処法
泊まる側が知っておきたいポイントです。
- 代わりのホテルの条件を確かめる:場所、グレード、客室のタイプ、朝食の有無が、もとの予約と同等以上か。条件が下がるなら、その場で伝える
- 費用の負担を確かめる:移動のタクシー代、料金の差額、もとの予約の支払いの扱い(すでに払った料金はどうなるか)を、口頭だけでなく書面やメールで確認する
- 予約サイト経由なら、予約サイトにも連絡する:予約した記録が予約サイトにあるため、あとで返金や差額の精算が必要になったときに話が早い
- 予約確認のメールや画面を手元に置く:予約内容と金額の証拠になる
- 到着が遅くなるときは必ず連絡する:モデル宿泊約款をもとにした多くの約款では、連絡なく当日の午後8時(到着予定時刻を伝えている場合はその2時間後)を過ぎても到着しないと、予約を取り消したものとみなされることがある。客室が足りない日ほど、連絡のない遅い到着は不利になる
連絡なく来なかった場合の扱いは用語解説 : ノーショーとはで解説しています。
航空会社のオーバーブッキングとホテル
航空会社でも、予約が座席数を上回ることがあります。たとえばANAは、予約数が座席数を上回った場合に、協力金と代わりの交通手段に同意した人から便の変更を受け付ける「フレックストラベラー制度」を設けています。代わりの便が翌日以降になって宿泊が必要な場合は、協力金に加えて、宿泊費と宿泊施設・空港間の交通費をANAが負担すると案内しています。空港周辺のホテルには、こうした航空会社からの急な宿泊の依頼が入ることがあります。
ホテルがウォークを減らすためにしている工夫
オーバーブッキングを行うホテルにとって、目標は「空室を減らしつつ、ウォークはできるだけ出さない」ことです。そのために、次のような工夫が行われています。
| 工夫 | 中身 |
|---|---|
| 日ごとの上限の設定 | 曜日・季節・イベントごとに、過去のノーショーやキャンセルの割合を見て、多めに受ける室数の上限を変える |
| 予約の確認の連絡 | 到着の数日前や前日に、メールや電話で予約を確認する。来ない予約を早めに把握できる |
| キャンセル条件の設計 | 直前まで無料で取り消せるプランの割合が高い日は、当日の空室が増えやすい。どのプランが何室売れているかで上限を調整する |
| 近隣ホテルとの協力 | 系列や近くのホテルと、客室が足りないときに融通し合う関係をつくっておく |
| ウォークの手順書 | 誰が判断するか、どの客にお願いするか、どこまで費用を負担するかを決め、夜間のスタッフでも同じ対応ができるようにする |
| ウォークした客へのフォロー | 翌日の送迎、次回の宿泊での優待、会員ポイントの付与など、関係を保つための対応を決めておく |
また、故障などで販売できない客室(OOO)が当日に急に出ると、多めに受けた予約と重なって客室が足りなくなることがあります。設備の点検や修理の予定を、販売の計画とあわせて管理しておくことも大切です。
ホテルにとってのリスク
- 信頼と口コミへの影響:ウォークされた客は、たとえ代わりのホテルがよくても不満を持ちやすく、口コミに書かれることがある。特に会員や常連客をウォークすると、長期的な関係を損ねる
- 費用:代わりのホテルの差額、タクシー代、お詫びの費用がかかる。周辺のホテルも満室の繁忙日ほど、代わりのホテルを確保しにくく費用も高くなる
- 現場の負担:夜遅くのウォークは、フロントのスタッフにとって大きな負担になる。誰が判断し、どの順で対応するかを決めておかないと、対応が後手に回る
- 予測の前提が崩れる日:大型イベントや悪天候の日は、キャンセルやノーショーの割合がふだんと違う動きをするため、過去の平均だけで受けすぎると、あふれる危険が高まる
このため、多くのホテルでは、繁忙日や重要な団体の宿泊日には多めに受ける幅を小さくする、無料キャンセルのできない予約の割合を見て上限を変える、といった調整をしています。
まとめ
オーバーブッキングは、ノーショーや直前のキャンセルで生まれる空室を減らすために、客室数より多くの予約を受ける収益管理の手法です。多めに受ける室数は、売れたときの売上と、あふれたときのウォークの費用を比べて決めます。
客室が足りなくなったとき、モデル宿泊約款をもとにした約款では、ホテルは同じ条件の別の宿泊施設をあっせんし、できなければ補償料を払うことになっています。泊まる側は、代わりのホテルの条件と費用の負担を確かめ、到着が遅れるときは連絡を入れておくことが、自分を守るいちばんの方法です。
関連する用語解説
ホテル業界でよく使われる略語・専門用語はホテル業界用語集で一覧にしています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ホテルのオーバーブッキングは違法ではないのですか?
予約を多めに受けること自体を禁止する法律はありません。ただし、予約を受けた以上、客室を提供できなければホテルの責任になります。多くのホテルの約款では、別の宿泊施設のあっせんや補償料の支払いが定められています。
Q2. オーバーブッキングで泊まれなかったら、補償はありますか?
モデル宿泊約款をもとにした約款では、まず同じ条件の別の宿泊施設をあっせんし、あっせんできないときは違約金相当額の補償料を支払うとされています。実際には、代わりのホテルへの移動費や料金の差額をホテルが負担するのが一般的です。条件は必ずその場で確認してください。
Q3. なぜホテルは予約を受けすぎるのですか?
ノーショーや直前のキャンセルで、当日に一定の空室が出ることが分かっているためです。客室は翌日に持ち越せないので、空室を減らすために、その分を見込んで多めに予約を受けます。
Q4. オーバーブッキングに当たりやすい人はいますか?
誰をお願いするかはホテルの判断ですが、一般的には、影響が小さく済む客(1泊だけの客など)を選ぶことが多いとされます。到着が遅く、連絡もない予約は、取り消しとみなされることがあるため、遅れるときは必ず連絡しておきます。
Q5. 「ウォーク」とはどういう意味ですか?
客室が足りなくなったときに、予約していた客を別のホテルに案内することです。予約なしで来館する客を指す「ウォークイン」とは別の言葉です。
Q6. 予約サイトで予約した場合も同じですか?
宿泊の契約はホテルとの間で結ばれるため、基本的な扱いは同じです。ただし、返金や差額の精算は予約サイトを通して行うことがあるため、予約サイトにも連絡しておくと手続きがスムーズです。


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