結論
京都市は、民泊(旅館業法の簡易宿所と、住宅宿泊事業法の届出住宅)の規制を大きく強める条例改正を準備しています。2026年8月31日の有識者会議に示された規制強化策の素案の柱は次のとおりです。11月2日に開かれた第3回会議の議題は、これを踏まえた「地域の実情を踏まえた民泊規制案」でした。
- 常駐義務:全ての簡易宿所と届出住宅に、施設内か隣の建物への常駐を求める。今は「おおむね10分以内(約800m)で駆け付けられる場所」でよい京町家・小規模宿泊施設も原則対象。既存の施設にも猶予期間を置いて一律に適用することを検討
- ゼロ日規制:住居専用地域と工業地域では、届出住宅の営業日数を事実上ゼロにする(家主が住む型も対象)。既存の施設には適用しない
- 袋路・長屋:幅1.5m未満の袋路では届出住宅も簡易宿所と同じく立地させない、長屋の一部を民泊にするときの壁の遮音を求める、などを論点に
- そのほか:簡易宿所の定期報告、許可・届出の更新制、騒音計やカメラなどICT機器の設置、常駐職員の日本語要件
- 日程:11月中に規制案を作り、約1か月のパブリックコメント、2027年1月に案を固め、2月の市会に条例改正案を提案する予定
はじめに
京都市の民泊規制は、すでに「全国一厳しい」と言われてきました。今回の見直しはそこからさらに踏み込み、旅館業の許可を持つ簡易宿所まで、民泊とひとまとめに規制するのが特徴です。住宅宿泊事業(届出住宅)だけの話だと思っていた簡易宿所の運営者からは、驚きと不安の声が上がっています。
本記事では、京都市が有識者会議に示した資料をもとに、何が変わるのか、なぜそうするのか、そして簡易宿所・旅館・ホテルの運営者がいまから考えておくことを整理します。京都のホテルの閉館・休館の動きは京都のホテル閉館・休館一覧にまとめています。
なぜ規制を強めるのか:京都市が示した数字
京都市の資料は、客室数と苦情の数を比べています(施設・客室は2025年度末、苦情は2018〜2025年度の累計)。
| 種類 | 施設・客室と苦情 |
|---|---|
| 旅館・ホテル | 641施設・42,554室(客室の69%)。苦情137件(5%) |
| 簡易宿所 | 民泊相当以外。749施設・15,280室(25%)。苦情558件(21%) |
| 民泊相当 | 小規模な簡易宿所。2,420施設・2,924室(5%)。苦情1,680件(64%) |
| 届出住宅 | 1,216施設・1,216室(2%)。苦情274件(10%) |
「民泊相当」は、一戸建てや長屋で客室1室・1組9人以下などの小規模な簡易宿所を指します。民泊(民泊相当の簡易宿所と届出住宅)は客室の7%程度なのに、苦情の74%を占める、というのが京都市の問題意識です。民泊の宿泊者は年間約130万人で、市内の宿泊者全体の約4%と推計しています。
苦情の原因として京都市が挙げるのが、施設に人がいないことです。民泊相当の簡易宿所への苦情の48%は外部に帳場を置く施設や京町家(いずれも不在型)に寄せられ、施設内に駐在するはずの施設でも、連絡がつかないなど駐在が守られていない例が37%ありました。京都市は「苦情の多く(全体の85%)は施設内に従業員が駐在していないことに起因する」と分析しています。届出住宅でも、苦情の64%は家主が住んでいない施設でした。
近隣住民へのアンケートでは、規制を強めるべきという回答が70%、「事業者が即座に駆け付けられる場所にいるべき」「施設内にいるべき」が合わせて57%でした。
規制強化策の素案:何が変わるか
| 項目 | 今のルール → 素案 |
|---|---|
| 簡易宿所 | 常駐:小規模宿泊施設・京町家は、宿泊中におおむね10分以内(約800m)で到着できる場所に駐在すればよい → 全ての簡易宿所に施設内か隣の建物への常駐義務。京町家も原則対象。既存施設にも猶予期間を置いて一律に適用を検討 |
| 届出住宅 | 常駐:宿泊中、現地対応管理者がおおむね10分以内で到着できる場所に駐在 → 施設内か隣の建物への常駐義務。既存施設にも猶予期間を置いて適用を検討 |
| 営業日数 | 住居専用地域の家主不在型は1月15日正午〜3月16日正午のみ営業可 → 住居専用地域と工業地域で、家主居住型も含めて営業日数を規制(ゼロ日規制)。京町家も原則対象。既存施設には適用しない |
| 学校の周辺 | 規制しない(苦情の発生率に差がないため) |
| 袋路 | 幅1.5m未満の袋路では、簡易宿所は避難規定の運用で事実上立地できないが、届出住宅は立地できる → 届出住宅も簡易宿所と同じく立地を規制する案 |
| 長屋 | 長屋の一部を民泊にするとき、住戸の間の壁(界壁)の遮音の規定を設ける案 |
| 監督 | 簡易宿所の定期報告、許可・届出の更新制、騒音計や出入口カメラなどICT機器の設置、常駐職員の要件(日本語要件など)を検討 |
袋路の規制で苦情が多いのは、幅1.5m未満の袋路にある届出住宅で、100施設あたり年21.5件(1.5m以上4m未満は4.1件)でした。長屋は、簡易宿所で100施設あたり年18.0件と、一戸建て(10.9件)より多くなっています。1971年より前の長屋の多くは、建築基準法の界壁の遮音の基準を満たしていません。
国のルールが変わったから、ここまでできる
今回の素案は、2026年に国が示した2つの通知を土台にしています。
- 旅館業法のFAQ改定(厚生労働省、2026年6月12日):施設内のフロントの設置や職員の施設内常駐を、地域の実情に応じて条例で定めてよい。遵守状況の定期報告、騒音計や出入口の監視カメラなどICT機器の設置も条例で求めてよい
- 住宅宿泊事業の技術的助言(観光庁、2026年7月15日):住宅地の静かな環境や教育施設の環境が損なわれるおそれがある場合、新たな事業を禁止したり、営業日を土日祝前日などに限ったりできる。既存の届出住宅にも、強い必要性があり他に手段がなければ、猶予期間を置いたうえで制限を設けうる
つまり、京都市の動きは京都だけの特殊な話ではありません。同じ根拠を使えば、ほかの自治体も同じような条例を作れるようになっています。東京23区や大阪市でも、民泊の規制を強める動きが続いています。大阪市は2026年10月30日、ホテル・旅館・簡易宿所の全施設に宿泊中の常駐を義務付ける条例改正を施行しました(大阪市の旅館業条例改正)。
簡易宿所の運営者が考えること
影響が一番大きいのは、無人で運営している一棟貸しの簡易宿所です。2026年3月末時点で、京町家として玄関帳場の設置を免除されている簡易宿所は1,107件あり、簡易宿所全体(2,420件)の約半分にあたります。
1. 常駐にかかる人件費を見積もる
「人を宿泊させる間」の常駐が求められると、夜間を含めて人を置く必要があります。1施設で1人を夜間に置くと、売上が月数十万円規模の一棟貸しでは採算が合わないことが多いはずです。まずは、宿泊のある日に常駐する人件費を、自施設の稼働日数で計算してみることです。
2. 「隣の建物」で束ねられるかを確かめる
素案は「施設内又は隣接建物」としています。自社で運営する施設が隣り合っていれば、1か所の常駐で複数の施設を見られる可能性があります。一方で、今のように数百m離れた拠点から複数の町家を見る運営(分散型の宿など)は、条例の書き方によっては成り立たなくなります。運営の形を変えるのか、施設を集約するのかの判断が要ります。
3. 猶予期間のうちに出口を決める
既存施設への適用は「猶予期間を与えたうえで一律に」と検討されています。猶予の長さは未定です。運営を続ける、常駐できる形に作り替える、他社に運営を任せる、売却する、住宅に戻す、の選択肢を並べ、条例案が出る前に数字で比べておくと動きやすくなります。売りに出る物件が増えれば、価格にも影響します。
4. パブリックコメントで実情を伝える
11月中に規制案が出た後、約1か月のパブリックコメントが予定されています。常駐の範囲、夜間の扱い、猶予期間、京町家の扱いなど、運営の実情に基づく具体的な意見は、条例の細部に反映される余地があります。
ホテル・旅館にとっての意味
- ホテル・旅館の運営そのものは大きく変わらない:京都市の今のルールでも、小規模宿泊施設・京町家以外の旅館業施設には施設内の駐在が義務付けられています。ICT機器の設置や定期報告が旅館業全体に及ぶかどうかは、条例案の書き方を確かめる必要があります
- 宿泊需要の移り先になる:民泊の宿泊者は市内の約4%ですが、家族や友人の4人以上のグループ、長めの滞在が中心です。新規の届出住宅が住宅地で作れなくなり、無人の一棟貸しが減れば、4人以上で泊まれる客室や続き部屋を持つホテルに需要が回ってきます。続き部屋の売り方はコネクティングルームとはで整理しています
- 夜間の人材の採り合い:簡易宿所が常駐の人を探し始めると、夜間のフロントやナイトマネージャーの経験者の取り合いが起きます。ホテル側は夜勤の条件を見直しておく必要があります
- 物件の取得の機会:常駐の負担に耐えられない京町家の宿が売りに出れば、フロントを持つホテル・旅館の運営会社が、近接する物件をまとめて取得・運営する余地が生まれます
今後の日程
| 時期 | 予定(京都市の資料による) |
|---|---|
| 2026年1月 | 届出住宅の定期報告の未提出者への措置を厳格化(2月1日から) |
| 2026年4月15日 | 第1回「京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議」 |
| 2026年8月31日 | 第2回会議。規制強化策の素案を提示 |
| 2026年11月2日 | 第3回会議。地域の実情を踏まえた民泊規制案を議論 |
| 2026年11月中 | 規制案を策定し、パブリックコメント(約1か月) |
| 2027年1月 | パブリックコメントを踏まえた規制案を策定 |
| 2027年2月 | 2月市会に条例改正案を提案 |
施行日と既存施設への猶予期間は、条例案で示される見込みです。
まとめ
- 京都市は、民泊相当の簡易宿所と届出住宅を一体で規制する条例改正を準備している。2027年2月市会に提案予定
- 柱は、全ての簡易宿所・届出住宅に施設内か隣の建物への常駐を求めること。既存施設にも猶予期間を置いて適用することを検討
- 住居専用地域と工業地域では、新たな届出住宅の営業日数を事実上ゼロにする。既存施設には適用しない
- 背景は、民泊が客室の7%程度なのに苦情の74%を占め、その多くが施設に人がいないことによるという京都市の分析
- 簡易宿所の運営者は、常駐の人件費、隣接施設での集約、猶予期間中の出口を、規制案が出る前に試算しておくとよい
よくある質問(FAQ)
Q1. 京都市の民泊規制はいつから変わりますか?
京都市は2027年2月の市会に条例改正案を提案する予定です。施行日は条例案で示される見込みで、2026年11月時点では決まっていません。既存施設への常駐義務の適用には、猶予期間を設けることが検討されています。
Q2. 簡易宿所も規制の対象ですか?
対象です。素案では、全ての簡易宿所に施設内か隣の建物への常駐義務を課す案が示されています。京町家の施設も原則として対象にすることが検討されています。
Q3. 「駆け付け要件」はどうなりますか?
今は、京町家や小規模宿泊施設、届出住宅は「おおむね10分以内(約800m以内)で到着できる場所」に駐在すればよいとされています。素案では、これを施設内か隣の建物への常駐に改める案が示されています。
Q4. ゼロ日規制とは何ですか?
住居専用地域(第1種・第2種の低層・中高層)と工業地域で、届出住宅の営業日数を事実上ゼロにする規制です。家主が住む型も対象にする案ですが、既に営業している施設には適用しないとしています。
Q5. 既に営業している民泊はどうなりますか?
ゼロ日規制は既存施設には適用しない案です。一方、常駐義務は既存施設にも猶予期間を置いて一律に適用することが検討されています。
Q6. ホテルや旅館も対象ですか?
京都市の今のルールでも、小規模宿泊施設・京町家以外の旅館業施設は施設内での駐在が求められています。ICT機器の設置や定期報告をどの範囲に求めるかは、条例案で確かめる必要があります。
出典:京都市「地域の実情を踏まえた民泊規制強化策(素案)」(令和8年度第2回京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議 資料2、2026年8月31日)、京都市「令和8年度 第3回京都市にふさわしい民泊の在り方検討会議の開催」(2026年10月26日)、同「第1回」(2026年4月8日)・「第2回」(2026年8月24日)の開催案内、京都市「住宅宿泊事業法に基づく定期報告の提出義務違反者に対する措置の厳格化」(2026年1月29日)、京都新聞(2026年8月31日・10月30日)


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