結論
大阪市の改正「旅館業法の施行等に関する条例」が2026年10月30日に施行されました。特区民泊の新規受付が5月29日で終わり、民泊を考える事業者が旅館業の許可に流れてくることを見込んだ規制強化です。運営者に関わる変更は次の3つです。
- 常駐義務(既存施設を含む全施設):宿泊者が施設を使っている間、営業者か従業者が施設内か管理事務室(施設から1,000m以内)に常駐すること。旅館・ホテル営業と簡易宿所営業の全ての施設が対象
- 建物の構造(新規の許可申請と増床):建物に住んでいる人がいる場合、鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造でなければ原則として許可しない。入居者のいる木造・鉄骨造のアパートや長屋の一部を宿にすることは、例外を除いてできなくなった
- 近隣への周知(新規の許可申請と増床):事前の周知が要る施設を、総客室面積33㎡未満から200㎡未満に広げ、騒音の防止方法と火災などの緊急時の対応を周知事項に加えた
前日の10月29日には、特区民泊の監視指導の中間報告が公表され、調査した3,157施設の46%で法令違反かガイドラインの不備、27%で営業の実態がないことが分かりました。
はじめに
大阪市は全国の特区民泊の大半が集まる都市です。2026年5月29日に特区民泊の新規受付を終えた後、民泊の事業者が旅館業(簡易宿所など)の許可を取って同じ事業を続けることが見込まれていました。今回の条例改正は、その「受け皿」になる旅館業の側に、特区民泊と同等以上の歯止めをかけるものです。
注意したいのは、常駐義務が既存のホテル・旅館・簡易宿所にもそのまま適用される点です。民泊の話だと思っていると、無人や省人で運営しているホテルが対応を迫られることになります。本記事では、大阪市の公表資料をもとに、改正の中身、特区民泊の中間報告、ホテル・旅館の運営者への影響を整理します。
なぜ旅館業を規制するのか:特区民泊との苦情の差
大阪市がパブリックコメントで示した資料では、特区民泊と旅館業の施設数・苦情(騒音・ごみ)の数は次のとおりでした。
| 年度 | 特区民泊 / 旅館業 |
|---|---|
| 2024年度 | 6,038施設・苦情190件 / 1,781施設・苦情12件 |
| 2025年度 | 8,360施設・苦情338件 / 1,856施設・苦情15件 |
今のところ旅館業施設への苦情は少数ですが、特区民泊の新規受付が止まった2026年6月以降は、新しい民泊が旅館業の許可で開業し、旅館業の施設数と苦情が大きく増えると市は見込みました。報道によると、旅館業の建築計画届は2026年7月に108件、8月にも約80件が出され、駆け込みが起きています。
騒音の苦情は建物の構造にも偏っています。2024・2025年度の合計で、特区民泊の騒音苦情の61.8%は木造、25.0%は鉄骨造の建物で起き、鉄筋コンクリート造は8.9%でした。
改正の中身
| 項目 | 内容と対象 |
|---|---|
| 常駐 | 宿泊者が宿泊施設を使っている間、営業者またはその代理人・使用人などの従業者が、施設(管理事務室を含む)に常駐する(衛生措置の基準として新設)。全ての旅館・ホテル営業施設と簡易宿所営業施設が対象 |
| 構造 | 許可の申請時か延べ面積が増える改修時に、建物に現に住居として使われている部分があれば、鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造であること(条例第3条第1項第12号)。同等以上の防音性能を試験機関の測定で証明できる場合や、建築基準法上「ホテル又は旅館」の用途に適合していることを検査済証などで証明できる場合は例外 |
| 周知 | 近隣住民への事前周知が要る施設を、総客室面積33㎡未満から200㎡未満に拡大。周知事項に「騒音を防止するための方法」「火災等の緊急時の対応方法」を追加 |
| 経過措置 | 構造と周知の規定は、施行日以降の新規の許可申請と増床が対象。事業譲渡や引継ぎによる許可申請、施行日までに許可申請や計画届を出した施設は除く。常駐の規定に、この経過措置はない |
200㎡未満という線には理由があります。建築基準法では、延べ面積200㎡未満なら用途変更の建築確認の手続きが要らず、住宅のまま旅館業の許可を申請できます。住宅をそのまま宿に転用する施設に、特区民泊と同じ水準の周知を求める狙いです。
常駐の運用:ガイドラインの書きぶり
大阪市の「旅館業法に関するガイドライン」(2026年10月改正)は、常駐の運用を次のように説明しています。
- 宿泊者が施設に滞在している間(宿泊中)、従業員などが施設内に常駐する。管理事務室を置いている場合は管理事務室も含む
- 玄関帳場(フロント)を置かない施設は、施設から1,000m以内に、宿泊者の出入りを確かめる管理事務室を置く
- 1か所の管理事務室で複数の施設を管理する場合は、施設数に応じた規模で、複数人の従業員を配置するなど、適切な体制を確保する
- 施設か管理事務室には、空調設備、机、椅子、便所など、長時間の常駐ができる環境を整えるよう努める
- 常駐する時間帯以外でも、緊急時や苦情に24時間対応し、おおむね10分程度で駆け付けられる体制を整える
申請書類では、構造設備確認票に常駐体制の有無を書く欄が加わり、具体的な体制は許可申請の現地調査などで確認するとされています。
京都市の規制強化策の中身は京都市の民泊規制強化:簡易宿所にも常駐義務で解説しています。
特区民泊の中間報告(2026年10月29日)
大阪市は2025年11月に「迷惑民泊根絶チーム」を立ち上げ、2026年度の監視指導計画に沿って特区民泊を調べています。9月末時点の中間報告の要点は次のとおりです。
| 区分 | 調査と指導 |
|---|---|
| 全体 | 対象4,887施設のうち3,157施設(65%)を調査。1,441施設(46%)で法令違反かガイドラインの不備を指導、865施設(27%)は営業実態がなく廃止届の提出を指導 |
| 重点・区分1 | 営業実態調査に答えなかった1,488施設。1,051施設を調べ、409施設(39%)を指導 |
| 重点・区分2 | 法令違反の疑いがあった637施設。591施設を調べ、428施設(72%)を指導 |
| 重点・区分3 | ガイドラインに反する回答があった692施設。616施設を調べ、456施設(74%)を指導 |
| その他 | 中央・浪速・西成区の2,070施設。899施設を調べ、148施設(16%)を指導 |
多かった違反は、滞在者の本人確認(7日以上の滞在での中間確認をしていない、記録の不備など、22%)、滞在者名簿(住所や連絡先の記載漏れ、18%)、利用案内書(置いていない、項目が欠けている、15%)、施設入口の標識(苦情窓口の標識がない、連絡先がつながらない、8%)でした。ガイドラインの不備では、2026年3月の改正事項(注意事項を滞在者に直接説明する、室外に掲示する)が多くなっています(23%)。
営業実態がなかった865施設のうち460施設(53%)はすでに廃止されました。文書で指導した16施設のうち10施設は、苦情の電話に出ないなど事業者の対応の不備でした。現時点で行政処分の対象はありません。市は、とくに施設入口の標識と24時間の駆け付け体制の違反を重点的に改善させ、従わなければ処分を見据えて対応するとしています。
ホテル・旅館の運営者が確かめること
1. 自館の常駐体制が条例に合っているか
24時間フロントに人がいるホテルや旅館は、運営を変える必要はありません。確かめるべきは次のような運営です。
- 夜間無人のホテル・簡易宿所:セルフチェックイン機やタブレットで受付し、夜は従業員がいない運営
- 遠隔の監視だけの施設:カメラとコールセンターで見ているが、施設から1,000m以内に人がいない運営
- 1つの管理事務室で多数の施設を見る運営:施設数に対して従業員が少ないと、「施設数に応じた規模」「複数人の配置」を満たさないおそれがある
常駐の規定は既存施設にも経過措置なく適用されています。体制が足りない施設は、夜間の人員の確保、管理事務室の置き場所、1人が受け持つ施設数を早めに見直すことです。
2. 新しく開業・増床するときの構造
入居者がいる建物の一部を宿にする計画は、鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造でなければ原則として許可されません。木造・鉄骨造のアパートや長屋を一部だけ宿にする小規模な計画は、防音性能の測定や用途の検査済証で例外を証明できない限り難しくなりました。一棟まるごとを宿にする計画や、ホテル・旅館の用途で建てた建物を使う計画が中心になります。
3. 供給の伸びが鈍ることの意味
特区民泊の新規受付の終了に、旅館業の常駐義務と構造の規制が重なり、小さな住宅を転用した宿の新規供給は鈍ると考えられます。家族やグループで大きな部屋を求める客、長期滞在の客は、これまで民泊が受け止めてきた層です。4人以上で泊まれる客室を持つホテルには、需要を取り込む余地があります。一方で、常駐する人を探す簡易宿所が増えれば、夜勤の人材の取り合いも起きます。大阪で今後開業するホテルは2027年の新規開業ホテル一覧にまとめています。
4. 特区民泊の事業者が旅館業へ移るとき
既存の特区民泊は、これまでどおり営業を続けられます。旅館業に切り替える場合は、施行日以降の新規の許可申請になるため、構造と周知の新しい基準が適用されます。中間報告で多かった本人確認、名簿、利用案内書、標識は、旅館業でも求められる基本的な義務です。特区民泊の段階で守れていない施設は、旅館業に移っても同じ指導を受けることになります。
まとめ
- 大阪市の改正旅館業条例は2026年10月30日に施行。宿泊中の従業者の常駐(施設内か1,000m以内の管理事務室)が、既存を含む全ての旅館・ホテル・簡易宿所に義務付けられた
- 新規の許可申請と増床では、居住者のいる建物は鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造が原則になり、近隣周知の対象も総客室面積200㎡未満に広がった
- 背景には、特区民泊の新規受付終了(5月29日)後に、民泊が旅館業へ流れ込むことへの備えがある
- 特区民泊の中間報告では、調査した施設の46%で法令違反かガイドラインの不備、27%で営業実態がなかった
- 夜間無人や遠隔監視だけで運営しているホテル・簡易宿所は、常駐体制をすぐに確かめる必要がある
よくある質問(FAQ)
Q1. 大阪市の旅館業条例はいつから変わりましたか?
改正後の「大阪市旅館業法の施行等に関する条例」は、2026年10月30日から施行されています。
Q2. 既存のホテルも常駐義務の対象ですか?
対象です。常駐の規定は、全ての旅館・ホテル営業施設と簡易宿所営業施設に適用されます。宿泊者が施設を使っている間、従業者が施設内か、施設から1,000m以内の管理事務室に常駐する必要があります。
Q3. 無人ホテルは大阪市で営業できなくなるのですか?
宿泊者がいる間に、施設内か1,000m以内の管理事務室に従業者が常駐していれば営業できます。受付を機械で行うこと自体が禁じられたわけではありませんが、夜間に誰もいない運営や、遠く離れた拠点からの監視だけの運営は、条例の常駐義務を満たしません。
Q4. 木造アパートの一部を簡易宿所にできますか?
施行日以降の新規の許可申請では、建物に住んでいる人がいる場合、鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造でなければ原則として許可されません。同等以上の防音性能を証明できる場合や、建築基準法上のホテル・旅館の用途に適合していることを証明できる場合は例外です。
Q5. 特区民泊はもう申請できないのですか?
大阪市の特区民泊は、2026年5月29日で新規受付と、居室の追加などの変更申請の受付を終えました。すでに認定を受けた施設は営業を続けられます。
Q6. 特区民泊の中間報告では何が分かりましたか?
9月末までに調べた3,157施設のうち、1,441施設(46%)で法令違反かガイドラインの不備があり、865施設(27%)は営業の実態がありませんでした。多かった違反は、滞在者の本人確認、滞在者名簿、利用案内書、施設入口の標識です。
出典:大阪市「改正後の大阪市旅館業法の施行等に関する条例が令和8年10月30日から施行されました」「旅館業法に関するガイドライン」(2026年10月)、大阪市「大阪市旅館業法の施行等に関する条例の一部改正(案)について」(パブリック・コメント資料、2026年5月)、大阪市「『令和8年度特区民泊施設監視指導計画』に基づく監視指導結果(中間報告 令和8年9月末時点)について」(2026年10月29日)、大阪市「特区民泊の新規受付の終了について」、建設通信新聞ほか報道


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