結論
ホテルインホテル(ホテル・イン・ホテル)とは、1つのホテルの建物の中で、一部のフロアを別の名前・専用の入口や受付・専用のラウンジで「もう一つのホテル」として運営する形のことです。「ホテルの中のホテル」とも呼ばれます。
- 代表的な例は、ホテルニューオータニ(東京)の本館11・12階にある「エグゼクティブハウス 禅」や、名古屋観光ホテルの9〜11階にある「エスパシオ」
- 同じ運営会社が上位の商品として作る型のほか、別の運営会社のブランドを入れる型もある。2026年11月23日に閉館するリゾナーレ大阪は、グランドプリンスホテル大阪ベイ(480室)の中の48室を星野リゾートが運営する後者の型だった
- クラブフロア(エグゼクティブフロア)と似ているが、ホテルインホテルは名前と動線まで分けて、別のホテルとして見せる点が違う
運営側から見ると、改装を一部のフロアに絞って高い単価の客層を取りにいける一方、専用の受付やラウンジの人件費、在庫の分け方、別会社が入る場合の契約という3つの論点がついて回ります。
はじめに
2026年10月、星野リゾートの「リゾナーレ大阪」が11月23日で閉館すると発表され、「ホテルの中にもう一つのホテルがあったのか」という反応が見られました。建物を持つ星野リゾート・リート投資法人は、この形を「コラボレーションホテル」(1つの建物で複数のブランド体験が可能なホテル)と呼んでいます(経緯はリゾナーレ大阪・界 阿蘇はなぜ閉館?)。
ホテルの中に別の名前のホテルをつくる手法は、日本のシティホテルでは以前から使われてきました。本記事では、ホテルインホテルの意味と型、似た言葉との違い、運営するうえでの費用と契約の論点を、公表されている事例をもとに整理します。
ホテルインホテルの3つの型
公表されている事例を、誰が運営し、何を売っているかで分けると、次の3つの型になります。
| 型 | しくみ | 事例 |
|---|---|---|
| 上位商品型 | 同じ運営会社が、一部のフロアを上位の商品として別の名前で売る | ホテルニューオータニ(東京)「エグゼクティブハウス 禅」 |
| 売り方型 | 一部のフロアを、通常の宿泊とは違う売り方(会員制など)で売る | 名古屋観光ホテル「エスパシオ タイムシェアリング フォーアーバン」 |
| 別ブランド型 | 建物の中の一部を、別の運営会社が自社のブランドで運営する | グランドプリンスホテル大阪ベイの中の「リゾナーレ大阪」(2026年11月23日に閉館) |
上位商品型:エグゼクティブハウス 禅
ホテルニューオータニ(東京)の公式サイトは、エグゼクティブハウス 禅を「本館ザ・メイン11・12階に位置する“ホテル・イン・ホテル”」と紹介しています。チェックインは11階の専用ラウンジで行い、ラウンジでは宿泊者だけに「1日6回のフードプレゼンテーション」を出し、記念日の演出などは専任のコンシェルジュが受け持つなど、本館の客室とはサービスの中身を分けています。フォーブス・トラベルガイドの格付けでも本館「ザ・メイン」とは別に評価され、2026年度まで7年連続で5つ星を得ています。旅行予約サイトでも、本館とは別の施設として掲載されています。
売り方型:名古屋観光ホテルのエスパシオ
名古屋観光ホテルは、9〜11階を特別フロア「エスパシオ」とし、2021年に“ホテル・イン・ホテル”として「エスパシオ タイムシェアリング フォーアーバン」を設けました。公式サイトによると、年間100泊×10年、年間30泊×5年のように、泊まる日数と年数を決めて利用権を買う会員制の仕組みで、会員には専用ラウンジ(18階)での受付やフードプレゼンテーション、専任のコンシェルジュなどが付きます。9〜11階のエレベーターホールにはセキュリティドアがあり、専用のカードキーでしか入れません。
客室はキッチンや洗濯乾燥機を備え、セカンドハウスやオフィスとしての利用も想定しています。同じ建物の中で、「1泊ずつ売るホテル」と「長く使う権利を売るホテル」を分けた例です。
別ブランド型:リゾナーレ大阪
リゾナーレ大阪は、グランドプリンスホテル大阪ベイ(大阪市住之江区、480室)のうち48室と26階・28階の一部区画を星野リゾートが運営し、残りの客室・宴会・料飲を西武・プリンスホテルズワールドワイドが運営する形でした。コロナ禍で宿泊需要が落ちていた2022年12月、一部の客室を改装し、乳幼児教育をコンセプトにした商品で家族客という新しい層を呼び込むために始まりました。
建物を持つリートは、2030年秋頃の大阪IRの開業でエリア全体の需要が大きくなる局面では、単一の運営者が480室を一体で販売・運営するほうが有利だとして、12月1日を目途にプリンスホテルの一括運営に切り替えます。
似た言葉との違い
| 用語 | ホテルインホテルとの違い |
|---|---|
| クラブフロア | エグゼクティブフロアとも呼ぶ。同じホテルの名前のまま、上の階の客室に専用ラウンジなどを付けたもの。ホテルインホテルは名前と入口まで分け、別のホテルとして見せる。ただし境目はあいまいで、ホテル自身がどう呼ぶかで決まることが多い |
| デュアル ブランド | 1つの建物に2つのブランドのホテルを並べ、ロビーや厨房などの裏側を共用するもの。全館を2つに分けるのが普通で、一部のフロアだけを別のホテルにするホテルインホテルより規模が大きい |
| リブランド | ホテル全体の名前とブランドを替えること。ホテルインホテルは本体の名前を残したまま、一部だけ別の名前にする(詳しくはリブランドとは) |
| コラボレー ションホテル | 星野リゾート・リート投資法人が、リゾナーレ大阪とグランドプリンスホテル大阪ベイの関係を説明するのに使った言葉。ホテルインホテルのうち、別ブランド型にあたる |
ホテルがホテルインホテルをつくる理由
- 本体のイメージに縛られずに、高い単価の客層を取る:大きなシティホテルは、宴会や団体、ビジネス客など幅広い客層を抱えています。別の名前と動線にすれば、静けさや特別感を求める客に、本体とは違う価格で売れます
- 改装を一部のフロアに絞れる:全館の改装に比べて投資を抑え、効果を確かめながら進められます
- 需要が弱い時期に、新しい客層を呼ぶ:リゾナーレ大阪は、コロナ禍の需要の落ち込みを、家族客という別の層で埋めるために始まりました
- 売り方を分ける:エスパシオのように、会員制や長期滞在の権利販売など、1泊単位の宿泊とは別の収益の柱をつくれます
運営するうえでの3つの論点
1. 専用の受付・ラウンジの費用を、単価の上乗せで回収できるか
ホテルインホテルの費用は、客室の改装費よりも、毎日かかる専用の受付・ラウンジの人件費と料理・飲み物の原価が重くなりがちです。簡単な試算をしてみます(数字は説明のための仮の値です)。
| 項目 | 仮の値 |
|---|---|
| 客室数 | 40室 |
| 稼働率 | 80%(年間の販売室数 40×365×0.8=11,680室泊) |
| 年間費用 | 1億2,000万円(専用ラウンジ・受付の人件費+料理・飲み物の原価) |
| 1室1泊 あたり | 1億2,000万円÷11,680室泊=約10,300円 |
この例では、本体の同じ広さの客室より1泊1万円以上高く売れなければ、ラウンジの費用だけで赤字になります。客室数が少ないほど1室あたりの負担は重くなるので、フロアの規模と単価の差をセットで決める必要があります。
2. 在庫を分けるか、まとめるか
別の名前で売る以上、予約サイトや自社サイトでの在庫は本体と分けるのが普通です。すると、大きな会議や団体の客室ブロックを組むとき、ホテルインホテルの客室は使いにくくなります。リゾナーレ大阪の一本化について、建物を持つリートは「2ブランド・2社の運営では、大阪IR開業後の大規模需要に柔軟に対応しにくい」と説明しました。需要をつくる局面では分け、大きな需要が来る局面ではまとめるという判断の材料になります。
3. 別会社が入るなら、途中でやめるときの取り決め
別ブランド型では、本体の運営会社、ホテルインホテルの運営会社、建物の所有者の3者の契約が絡みます。リゾナーレ大阪では、本体の運営委託契約の中に「共同運営に関する特則」があり、一本化に合わせてその特則だけを終えました。また、リゾナーレ大阪のための改装費は所有者のリートが出していたため、運営を途中でやめる側(星野リゾートグループの賃借人)が、回収しきれていない投資の分に相当する承諾料2億6,000万円を払うことで合意しています。改装費を誰が出し、途中でやめたら誰が何を払うかは、始める前に決めておくべき項目です(運営委託契約の基本はHMA(ホテルマネジメント契約)とは)。
予約サイトでの見せ方:別の施設として載せるか
ホテルインホテルを旅行予約サイトや自社サイトにどう載せるかは、売上と運営の両方に響きます。大きく2つのやり方があります。
| 載せ方 | よい点と注意点 |
|---|---|
| 別の施設 | 名前で検索され、口コミや評価も本体と分かれるので、上位の商品として見せやすい。一方で、施設ページの作成・更新、在庫や料金の管理が2つに増える。口コミが集まるまで評価の件数が少ない時期もある |
| 本体の客室 | 本体の上位の客室タイプとして載せる。管理は楽で、本体の口コミの件数も生かせる。一方で、名前を分けた意味が伝わりにくく、本体の価格帯の中で比べられてしまう |
エグゼクティブハウス 禅は旅行予約サイトでも本館とは別の施設として掲載されており、格付けでも本館と別に評価されています。名前を分ける以上、予約の入口から別のホテルとして見せるほうが、ホテルインホテルの狙いには合っています。
やめるとき・切り替えるときに起きること
ホテルインホテルは、始めるときより終えるときのほうが手間がかかることがあります。リゾナーレ大阪の一本化の例と、一般的に必要になる対応を並べます。
- 予約済みの客への連絡:最終日より後の予約は、本体の客室への振り替えか取り消しになります。リゾナーレ大阪は11月23日で運営を終え、12月1日を目途に本体の運営に切り替えるとしており、その間をどう扱うかも決めておく必要があります
- 会員や利用権を持つ客:エスパシオのように、何年分もの利用権を売っている場合、ホテルインホテルをやめるには、残っている権利をどう扱うかを契約に沿って決めなければなりません。始める段階で、終えるときの扱いを約款に書いておくことが大切です
- 設備の転用:専用のラウンジや受付を、本体のクラブラウンジや会議室として使い続けられるか。リゾナーレ大阪の一本化について、リートは大規模な改修工事の予定はないとしています
- 費用の精算:別ブランド型では、改装費の未回収分などの精算が発生します(リゾナーレ大阪では承諾料2億6,000万円)
- スタッフの配置:専用の受付やラウンジにいたスタッフを本体に移すのか、別の施設に移すのか。別ブランド型では、運営会社ごとに雇用主が違う点に注意が要ります
導入を検討するときの確認項目
- 狙う客層と単価の差:本体の客層とどう違うか。同じ広さの本体の客室より、いくら高く売れる見込みか
- 専用にするものの範囲:入口、受付、ラウンジ、エレベーター、朝食会場のどこまでを分けるか。分けるほど特別感は出るが、費用も増える
- 人員の配置:ラウンジや受付を何時から何時まで、何人で回すか。本体の人員と兼務させるか
- 在庫と販売の経路:本体と別の施設として予約サイトに載せるか、本体の上位の客室タイプとして売るか
- セキュリティと動線:専用フロアに一般の客が入らない仕組み(カードキーで動くエレベーター、セキュリティドアなど)
- やめるときの手順:別ブランド型なら、契約期間、中途解約の条件、改装費の精算方法
関連する用語
まとめ
- ホテルインホテルは、ホテルの一部のフロアを、別の名前・専用の入口や受付・ラウンジで「もう一つのホテル」として運営する形
- 型は、同じ運営会社の上位商品型(エグゼクティブハウス 禅)、会員制など売り方を変える売り方型(エスパシオ)、別ブランド型(リゾナーレ大阪)の3つ
- クラブフロアとの違いは、名前と動線まで分けて別のホテルとして見せるかどうか
- 運営の論点は、専用の受付・ラウンジの費用を単価で回収できるか、在庫を分けるかまとめるか、別会社が入るなら途中でやめるときの取り決め
よくある質問(FAQ)
Q1. ホテルインホテルとは何ですか?
1つのホテルの建物の中で、一部のフロアを別の名前・専用の受付やラウンジで、もう一つのホテルとして運営する形です。「ホテルの中のホテル」とも呼ばれます。
Q2. 日本のホテルインホテルにはどんな例がありますか?
ホテルニューオータニ(東京)の「エグゼクティブハウス 禅」(本館11・12階)、名古屋観光ホテルの「エスパシオ」(9〜11階)などがあります。グランドプリンスホテル大阪ベイの中の「リゾナーレ大阪」は、別の運営会社が入る例でした(2026年11月23日に閉館)。
Q3. クラブフロアとの違いは何ですか?
クラブフロアは同じホテルの名前のまま上位の客室とラウンジを用意するもので、ホテルインホテルは名前や入口まで分けて別のホテルとして見せるものです。ただし境目はあいまいで、ホテル自身の呼び方によるところが大きいです。
Q4. ホテルインホテルの宿泊者は、本館の施設も使えますか?
多くの場合、レストランやスパなど本体の施設も使えます。利用できる範囲や料金はホテルごとに違うので、各ホテルの案内で確かめてください。
Q5. リゾナーレ大阪はなぜ閉館するのですか?
建物を持つ星野リゾート・リート投資法人が、2030年秋頃の大阪IRの開業を見据え、ホテル全体を西武・プリンスホテルズワールドワイドの一括運営に切り替えるためです。星野リゾート側も、大阪での経営資源を「OMO7大阪」に集めるとしています。
Q6. エグゼクティブハウス 禅とザ・メインは何が違いますか?
どちらもホテルニューオータニ(東京)の本館にあります。エグゼクティブハウス 禅は本館11・12階のホテルインホテルで、11階の専用ラウンジでのチェックインや、宿泊者向けの1日6回のフードプレゼンテーションなど、サービスを分けています。公式サイトによると、フォーブス・トラベルガイドの格付けでは禅とザ・メインが別に評価されています。
Q7. 小さなホテルでもホテルインホテルはつくれますか?
専用の受付やラウンジの費用を少ない客室で割ることになるため、1室あたりの負担が重くなります。小規模なホテルでは、名前を分けずに上位の客室タイプとして売るほうが現実的なことが多いでしょう。
出典:ホテルニューオータニ(東京)「エグゼクティブハウス 禅」公式ページ、名古屋観光ホテル「エスパシオ タイムシェアリング フォーアーバン」公式ページ(いずれも2026年10月27日確認)、星野リゾート・リート投資法人「国内不動産の運営体制の一本化に関するお知らせ(グランドプリンスホテル大阪ベイ)」「補足説明資料」(2026年10月16日)


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