結論
観光庁が2026年8月31日に公表した宿泊旅行統計調査は、日本の宿泊市場が「全国平均では語れない市場」へ完全に分岐したことを示しています。2026年6月の客室稼働率は全国57.2%ですが、その内訳は客室数1〜19室の施設で23.9%、200室以上の施設で70.7%。同じ国の同じ月に46.8ポイントもの差が開いています。さらに施設数の80.7%を占める1〜19室クラスが、延べ宿泊者数のわずか10.4%しか担っていません。「全国平均60%」を自社の基準に使っている限り、判断は必ず狂います。
もう一つの構造変化はインバウンドの主役交代です。2026年7月の中国からの延べ宿泊者数は前年同月比▲43.0%。しかし外国人全体はほぼ横ばい(▲0.4%)でした。台湾・韓国・香港の増加が、中国の減少分の82.5%を埋めたからです。市場は縮んだのではなく、入れ替わりました。
はじめに
「延べ宿泊者数が7か月連続で前年割れ」「インバウンドが5年ぶりのマイナス」——2026年に入ってから、宿泊業に関する統計の見出しは暗いものが並びます。しかし、その見出しを読んで自社の予算を下方修正するのは早すぎます。
本記事では、観光庁「宿泊旅行統計調査」の2026年7月・第1次速報と2026年6月・第2次速報、そして2025年(令和7年)確定値の統計表そのものを読み込み、報道では触れられない層——客室規模別・宿泊目的別・国籍別——の数字を掘り起こします。結論から言えば、2026年の宿泊市場に起きているのは「縮小」ではなく「分断」です。そして2026年1月から統計の設計そのものが変わったことで、この分断が初めて数字として見えるようになりました。
対象は、自社の稼働率を業界平均と比較して一喜一憂している経営層・収益管理担当者です。読み終えたときに、比較すべき正しい相手が分かる状態を目指します。
まず全体像:7か月連続の前年割れ、しかし稼働率はほぼ横ばい
2026年7月(第1次速報※注1)の延べ宿泊者数は5,467万人泊、前年同月比▲3.5%。うち日本人4,110万人泊(▲3.1%)、外国人1,358万人泊(▲4.6%)でした。2026年6月(第2次速報)は4,582万人泊で▲8.4%、外国人は1,222万人泊で▲14.0%です。
2026年の月次推移を並べると、前年割れが常態化していることが分かります。
| 2026年 | 延べ宿泊者数 | 前年同月比 | うち外国人 | 外国人前年同月比 |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | 4,546万人泊 | ▲6.5% | 1,283万人泊 | ▲15.8% |
| 2月 | 4,765万人泊 | ▲0.7% | 1,404万人泊 | +1.8% |
| 3月 | 5,441万人泊 | ▲2.2% | 1,428万人泊 | ▲3.9% |
| 4月 | 4,911万人泊 | ▲7.2% | 1,536万人泊 | ▲10.8% |
| 5月 | 5,429万人泊 | ▲3.2% | 1,451万人泊 | ▲9.0% |
| 6月 | 4,582万人泊 | ▲8.4% | 1,222万人泊 | ▲14.0% |
| 7月(1次速報) | 5,467万人泊 | ▲3.5% | 1,358万人泊 | ▲4.6% |
ところが、同じ統計の客室稼働率を見ると景色が変わります。2026年7月の客室稼働率は全国60.8%で、前年同月差はわずか▲0.4ポイント。さらに施設タイプ別では、旅館が+3.4ポイント、リゾートホテルが+2.7ポイントと改善しています。6月も旅館は+1.7ポイントでした。
| 施設タイプ | 2026年7月 客室稼働率 | 前年同月差 | 2026年6月 客室稼働率 | 前年同月差 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 60.8% | ▲0.4pt | 57.2% | ▲1.6pt |
| 旅館 | 40.6% | +3.4pt | 36.7% | +1.7pt |
| リゾートホテル | 59.6% | +2.7pt | 50.8% | +0.2pt |
| ビジネスホテル | 74.2% | ▲0.5pt | 71.5% | ▲1.3pt |
| シティホテル | 71.9% | +0.3pt | 69.2% | ▲3.3pt |
| 簡易宿所 | 30.9% | ▲1.9pt | 26.1% | ▲2.1pt |
延べ宿泊者数は減っているのに、客室は前年並みに埋まっている。しかも減り方が大きいのは都市型(シティホテル・ビジネスホテル)で、伸びているのは旅館とリゾートホテル。これは「日本の宿泊市場が縮小している」という単純なストーリーでは説明できません。ここから先が本題です。
【本題】客室規模で稼働率が3倍違う——2026年から見えるようになった断層
2026年1月調査から、観光庁は宿泊旅行統計調査の層化基準※注2を「従業者数」から「客室数」へ変更しました。これによって、統計表が初めて「客室数の規模別」で読めるようになりました。そして、その最初のデータが衝撃的です。
2026年6月(第2次速報)の客室稼働率を客室規模別に並べます。
| 客室規模 | 施設数 | 施設数シェア | 延べ宿泊者数 | 宿泊者数シェア | 客室稼働率 | 定員稼働率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1〜19室 | 61,055 | 80.7% | 477万人泊 | 10.4% | 23.9% | 13.0% |
| 20〜39室 | 5,366 | 7.1% | 358万人泊 | 7.8% | 42.5% | 24.1% |
| 40〜99室 | 4,528 | 6.0% | 796万人泊 | 17.4% | 57.7% | 36.6% |
| 100〜199室 | 3,124 | 4.1% | 1,351万人泊 | 29.5% | 70.6% | 51.3% |
| 200室以上 | 1,592 | 2.1% | 1,599万人泊 | 34.9% | 70.7% | 53.5% |
| 全国 | 75,665 | 100% | 4,582万人泊 | 100% | 57.2% | 35.4% |
施設数の80.7%が、宿泊者数の10.4%しか担っていない
この表から読み取れる第一の事実は、日本の宿泊施設7万5,665軒のうち6万1,055軒(80.7%)が客室数19室以下であり、その稼働率は23.9%にすぎないということです。一方、100室以上の施設は4,716軒(全体の6.2%)しかありませんが、延べ宿泊者数の64.4%を吸収しています。
つまり、報道で使われる「全国の客室稼働率57.2%」という数字は、実質的に上位6%の大型施設の実績を反映した平均値です。19室以下の宿を運営している経営者が「全国平均57%」と自社の30%を比べて落ち込むのは、比較対象を間違えています。同じ規模帯の平均は23.9%であり、30%はむしろ上位です。
逆に、100室規模のホテルで稼働率60%なら「全国平均を上回った」と考えるのは危険です。同規模帯の平均は70.6%であり、10ポイント以上のビハインドを抱えていることになります。
都市部の小規模は生き残り、地方の小規模は限界に達している
さらに都道府県別に「200室以上」と「1〜19室」の稼働率差を計算すると、地域による分断が浮かび上がります。
| 都道府県 | 1〜19室 | 200室以上 | 差 | 読み取れること |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 49.5% | 79.0% | 29.5pt | 小規模でも需要が届く |
| 神奈川県 | 41.5% | 69.4% | 27.9pt | 同上 |
| 全国 | 23.9% | 70.7% | 46.8pt | — |
| 富山県 | 13.4% | 71.0% | 57.6pt | 需要が大型に集中 |
| 岡山県 | 11.2% | 69.1% | 57.9pt | 同上 |
| 鳥取県 | 16.9% | 80.6% | 63.7pt | 同上 |
| 福井県 | 16.8% | 81.3% | 64.5pt | 格差が最大 |
東京都の1〜19室クラスは49.5%と、全国の40〜99室クラス(57.7%)に迫る水準です。都市部では小規模宿にも需要が回ります。しかし岡山県では11.2%、富山県で13.4%、長野県で15.1%、奈良県で15.0%。地方の小規模施設は、1か月30日のうち客室が埋まるのが3〜5日という水準に沈んでいます。
これは「地方創生」「観光による地域振興」という言葉と、現場の実感が乖離する理由をそのまま説明しています。地方に来た宿泊需要は、駅前や幹線沿いの100室以上の施設に集中しており、小規模宿には届いていません。地方の中小施設が直面している構造問題は、泊食宴モデルの終焉と事業再構築で扱ったテーマとも直結します。
統計の設計が変わった年——数字を鵜呑みにできない理由
ここで重要な注意点があります。2026年1月調査からの層化基準変更は、単なる集計軸の追加ではありません。調査対象の抽出方法そのものが変わりました。
| 2025年12月調査まで | 2026年1月調査以降 | |
|---|---|---|
| 層化基準 | 従業者数 | 客室数 |
| 全数(悉皆)調査の対象 | 従業者数10人以上 | 客室数20室以上 |
| サンプル調査の対象 | 従業者数5〜9人は1/3、0〜4人は1/9を抽出 | 客室数1〜19室を都道府県ごとの抽出率で抽出 |
| 統計表の規模区分 | 0〜9人/10〜29人/30〜99人/100人以上 | 1〜19室/20〜39室/40〜99室/100〜199室/200室以上 |
観光庁自身が報道発表資料に「対前年(同月)比、対前年(同月)差については、見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と明記しています。2026年の前年割れが、どこまで実需の減少で、どこまで統計設計の変更によるものかは、現時点では厳密に切り分けられません。
実際、母集団施設数は2025年6月の72,480施設から2026年6月の75,665施設へと3,185施設増えています。同じ「日本の宿泊施設」を数えているはずなのに、数え方が変わったことで母数が動いているわけです。
加えて、速報値には回収率の制約があります。2026年6月・第2次速報の有効回収率は44.6%(20室以上52.1%/20室未満31.6%)、2026年7月・第1次速報は32.9%(20室以上40.1%/20室未満20.4%)。小規模施設ほど回収率が低いため、1〜19室クラスの数値は誤差を含みやすい構造です。都道府県別の外国人延べ宿泊者数では、栃木・群馬・千葉・富山・福岡・宮崎の6県が標準誤差率20%超として注記されています。
実務上の結論はシンプルです。2026年の数値は「前年比」ではなく「同月内の断面」で読む。規模別・業態別・地域別の相対関係は同じ調査設計の中で比較しているため信頼できます。一方、前年との比較は幅を持って解釈すべきです。
インバウンドの主役交代:中国▲43%を台湾・韓国・香港が埋めた
2026年上半期の訪日外国人数は前年同期比2.0%減の2,108万4,800人となり、コロナ禍以来5年ぶりのマイナスに転じました(nippon.com/時事通信)。中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけを背景に、中国からの訪日客は上半期で56.4%減となっています。
この影響は宿泊統計にもはっきり表れています。2026年6月の国籍別外国人延べ宿泊者数(客室数20室以上の施設)では、中国は前年同月比▲50.9%で第4位に後退。第1位は台湾(+14.7%)、第2位は米国、第3位は韓国でした。2025年通年で中国は外国人延べ宿泊者数(同じく客室数20室以上の施設)の19.7%を占める最大市場でしたから、順位の入れ替わりは象徴的です。
しかし、ここで思考を止めてはいけません。2026年7月(第1次速報)と2025年7月(確定値)を国籍別に突き合わせると、まったく別の物語が見えます。
| 国・地域 | 2025年7月 | 2026年7月 | 増減率 | 増減数 | 2026年7月シェア |
|---|---|---|---|---|---|
| 台湾 | 170.6万人泊 | 224.3万人泊 | +31.4% | +53.6万 | 18.8% |
| 中国 | 320.2万人泊 | 182.6万人泊 | ▲43.0% | ▲137.6万 | 15.3% |
| 韓国 | 120.4万人泊 | 158.2万人泊 | +31.4% | +37.8万 | 13.3% |
| 米国 | 139.2万人泊 | 135.4万人泊 | ▲2.7% | ▲3.7万 | 11.4% |
| 香港 | 40.8万人泊 | 63.0万人泊 | +54.3% | +22.2万 | 5.3% |
| ロシア | 5.4万人泊 | 8.0万人泊 | +48.3% | +2.6万 | 0.7% |
| インド | 7.4万人泊 | 9.5万人泊 | +27.4% | +2.0万 | 0.8% |
| ベトナム | 5.9万人泊 | 7.5万人泊 | +27.3% | +1.6万 | 0.6% |
| 外国人合計 | 1,197.7万人泊 | 1,192.5万人泊 | ▲0.4% | ▲5.2万 | 100% |
中国は137.6万人泊を失いました。にもかかわらず、外国人全体の減少は5.2万人泊(▲0.4%)にとどまっています。台湾(+53.6万)・韓国(+37.8万)・香港(+22.2万)の増加合計113.6万人泊が、中国の減少分の82.5%を吸収したからです。
これは経営判断に直結します。「インバウンドが減っている」のではなく、「どの国から来るかが入れ替わっている」のです。中国市場向けに最適化していた施設は打撃を受け、台湾・韓国・香港に強い施設は前年を上回っている。同じ「インバウンド依存」でも、依存先によって2026年の成績は正反対になります。
さらに、この入れ替わりは客単価と滞在様式の変化も伴います。台湾・韓国・香港は中国と比べて訪日リピーター比率が高く、都市部の大型ホテルよりも地方や個人手配の宿を選ぶ傾向があります。2026年6月に三大都市圏の外国人延べ宿泊者数が▲16.8%だったのに対し、地方部は▲7.4%と落ち込みが浅かったこと、青森(+51.4%)、茨城(+47.2%)、栃木(+40.2%)、山口(+39.6%)、鳥取(+30.3%)といった県で外国人宿泊者が急増していることは、この読みを裏づけます。
逆に、2025年に大阪・関西万博の需要を取り込んだ大阪府は2026年6月の延べ宿泊者数が▲23.8%、外国人も▲18.0%と大きく反落しました。京都府▲15.0%、東京都▲15.9%、沖縄県▲16.0%も同様の都市型調整です。2026年の数字を読むときは「万博反動」「中国減」「統計変更」の3要因を分離して考える必要があります。
もう一つの分断:「観光目的50%以上/未満」で1室あたりの人数が1.6倍違う
規模と並んで実務的に重要なのが、宿泊目的による分断です。宿泊旅行統計調査は各施設を「観光目的の宿泊者が50%以上(レジャー型)」と「50%未満(ビジネス型)」に分けて集計しています。
| 指標(2026年6月) | レジャー型(観光50%以上) | ビジネス型(観光50%未満) |
|---|---|---|
| 客室稼働率 | 51.6% | 66.1% |
| 定員稼働率 | 31.0% | 47.6% |
| 延べ宿泊者数 | 2,241万人泊 | 1,900万人泊 |
| 利用客室数 | 1,131万室 | 1,521万室 |
| 1室あたり宿泊人数 | 1.98人 | 1.25人 |
| 外国人比率 | 32.0% | 16.6% |
ビジネス型施設の客室稼働率はレジャー型より14.5ポイント高い。しかし1室あたりの宿泊人数は1.25人にとどまります。レジャー型は稼働率で劣る代わりに、1室に約2人を収容している。同じ「稼働率」という言葉が、まったく違う収益構造を指しているわけです。
施設タイプ別に2026年7月の延べ宿泊者数を利用客室数で割ると、この差はさらに鮮明になります。
| 施設タイプ | 1室あたり宿泊人数(2026年7月) | 客室稼働率 |
|---|---|---|
| リゾートホテル | 2.45人 | 59.6% |
| 簡易宿所 | 2.37人 | 30.9% |
| 旅館 | 2.27人 | 40.6% |
| シティホテル | 1.76人 | 71.9% |
| ビジネスホテル | 1.33人 | 74.2% |
| 全体 | 1.71人 | 60.8% |
ビジネスホテルは客室稼働率74.2%と最も高いものの、1室1.33人。旅館は稼働率40.6%でも1室2.27人です。1人あたり単価が同じなら、旅館は稼働率が33.6ポイント低くても、客室1室あたりの売上はビジネスホテルの約9割を確保できる計算になります(40.6%×2.27人 ÷ 74.2%×1.33人 ≒ 0.93)。実際には旅館は1泊2食で1人単価が高いため、客室あたり売上では逆転しているケースが少なくありません。
ここから導かれる実務的な示唆は明確です。旅館・リゾート・簡易宿所が「稼働率」をKPIの主軸に据えるのは誤りです。追うべきは定員稼働率と1室あたり人数、そしてRevPAR(販売可能客室1室あたり売上)です。宿泊者の同行者構成が収益に与える影響については、同行者ニーズ別CX戦略でも詳しく扱っています。
実務への落とし込み:自社ベンチマークを組み直す5ステップ
ここまでの分析を、明日から使える手順に落とします。
- 自社セグメントを3軸で確定する——「客室規模(5区分)×都道府県×施設タイプ」で自社の位置を定義します。例:「40〜99室×長野県×旅館」。全国平均は使いません。
- 統計表から該当セルの値を取る——観光庁サイトの第2次速報Excel「第8表(客室稼働率)」「第6表(定員稼働率)」「参考第12表(市区町村別客室稼働率)」を開き、自社セグメントの月次値を12か月分抜き出します。市区町村別は20室以上の施設のみですが、都市部の中規模以上なら最も近い比較対象です。
- ギャップを2種類に分解する——「セグメント平均との差」と「前年同月差」を別々に管理します。前者は競争力、後者は市況。2026年は統計設計変更の影響があるため、後者の判断ウェイトを下げます。
- レジャー型なら定員稼働率に切り替える——観光目的50%以上の施設は、客室稼働率ではなく定員稼働率(自社実績=延べ宿泊者数÷(定員×日数))を主KPIに置きます。全国のレジャー型平均は31.0%(2026年6月)です。
- インバウンド構成を国籍別に棚卸しする——PMSの国籍データを台湾・韓国・香港・中国・米国の5区分で集計し、2025年と2026年の構成比変化を出します。中国比率が20%を超えていた施設は、台湾・韓国・香港向けのチャネルと言語対応の再配分が急務です。
特に3番目の「分解」は重要です。前年同月比▲8.4%という数字を見て一律にコスト削減へ動くと、セグメント内では順位を上げている施設が過剰な縮小に走ってしまいます。市況の下げと自社の競争力低下は、別々に対処すべき問題です。価格面での対応については、値下げ可視化時代のレートフロア戦略も併せて参照してください。
デメリット・リスク:この統計を使うときの3つの落とし穴
宿泊旅行統計調査は日本で唯一の悉皆に近い宿泊需要データですが、経営判断に使う際には明確な限界があります。
1. 速報値は必ず改定される
第1次速報は当月分の調査票を翌月中旬までに回収した分(2026年7月分は有効回収率32.9%)で推計しています。2026年7月の数値は2026年9月30日公表予定の第2次速報で改定されます。第1次速報の単月値を根拠に投資判断や人員計画を確定させるのは避けるべきです。トレンド確認の用途に限定し、意思決定は第2次速報または確定値を待ちます。
2. 単価(ADR)の情報が一切ない
この統計は延べ宿泊者数・実宿泊者数・利用客室数・稼働率のみを扱い、料金データを含みません。稼働率が前年並みでも、単価が下がっていればRevPARは悪化します。2026年のように需要が入れ替わっている局面では、「稼働は守れたが値引きで守った」のか「単価を維持したまま守れた」のかを、統計だけでは判別できません。自社PMSのADRデータと必ず併用してください。
3. 小規模施設の数値は誤差が大きい
客室数20室未満の施設は全数調査ではなくサンプル調査であり、2026年6月の有効回収率も31.6%と低水準です。1〜19室クラスの23.9%という数値は、実態としての幅を持って読む必要があります。また都道府県別の外国人延べ宿泊者数では標準誤差率20%超の県が複数あり、単月の増減率をそのまま議論の前提にするのは危険です。小規模・地方・外国人という条件が重なるセルほど、3か月移動平均で見るのが安全です。
まとめ
2026年の宿泊旅行統計調査が示しているのは、需要の縮小ではなく市場の分断です。要点を整理します。
- 客室稼働率は全国57.2%(2026年6月)だが、1〜19室で23.9%、200室以上で70.7%。46.8ポイントの差があり、全国平均は上位6%の大型施設を映した数字にすぎない
- 施設数の80.7%を占める19室以下の施設が、延べ宿泊者数の10.4%しか担っていない。地方の小規模施設は稼働率10%台に沈んでいる
- 2026年1月から層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更された。前年比には統計変更の影響が含まれるため、断面の比較を優先し前年比は幅を持って読む
- 中国からの延べ宿泊者数は2026年7月に▲43.0%。しかし台湾・韓国・香港の増加が減少分の82.5%を吸収し、外国人全体は▲0.4%にとどまった。市場は縮小ではなく入れ替わり
- レジャー型施設は1室1.98人、ビジネス型は1.25人。旅館・リゾートは客室稼働率ではなく定員稼働率と1室あたり人数を主KPIにすべき
2026年は、統計の見方を更新しなければ判断を誤る年です。「全国平均と比べて何ポイント」という会話をやめ、「自社セグメント平均と比べて何ポイント」に切り替えるところから始めてください。老朽化施設の出口戦略を検討している場合は、特殊立地の閉館と承継も判断材料になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 宿泊旅行統計調査はいつ、どのタイミングで公表されますか?
毎月末に、前月分の第1次速報と2か月前の分の第2次速報が同時に公表されます。2026年8月31日には「2026年7月・第1次速報」と「2026年6月・第2次速報」が公表されました。第1次速報は約2か月後に第2次速報として改定され、さらに翌年に確定値が公表されます。
Q2. 第1次速報と第2次速報はどれくらい違いますか?
差の大きさは月によりますが、根拠となる回収率が大きく異なります。2026年6月分は第1次速報時点で有効回収率36.1%、第2次速報で44.6%まで上がりました。2026年7月・第1次速報の32.9%という回収率は、特に客室数20室未満の施設で20.4%と低く、小規模施設の数値ほど改定幅が大きくなる傾向があります。
Q3. 「客室稼働率」と「定員稼働率」はどう使い分けますか?
客室稼働率は「利用客室数÷(総客室数×日数)」で、部屋が埋まったかを見る指標。定員稼働率は「延べ宿泊者数÷(総定員×日数)」で、ベッド/布団が埋まったかを見る指標です。ビジネスホテルのようにシングル中心の施設は両者が近づき、旅館やリゾートホテルのように多人数収容の客室が多い施設は定員稼働率が大幅に低く出ます。1室2名以上での販売が主体の施設は、定員稼働率を主KPIにするのが実態に合っています。
Q4. 2026年から統計の作り方が変わったなら、過去との比較はできないのですか?
まったくできないわけではありませんが、注意が必要です。観光庁は前年同月比を引き続き公表しつつ「見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と注記しています。全国計や大規模施設中心の指標(ビジネスホテル・シティホテルの稼働率など)は影響が相対的に小さく、小規模施設を多く含む区分ほど影響を受けやすいと考えられます。安全策は、2026年内は前年比を参考値扱いとし、2027年以降に新基準同士での比較へ移行することです。
Q5. 自社の稼働率は、具体的にどの数字と比べればよいですか?
第一に「客室規模区分(1〜19/20〜39/40〜99/100〜199/200室以上)×都道府県」の客室稼働率(第8表)。第二に「施設タイプ別×都道府県」の稼働率(同じく第8表の右側)。第三に、20室以上の施設であれば「市区町村別客室稼働率」(参考第12表)。この3つを並べれば、規模要因・業態要因・立地要因のどれで負けているかが切り分けられます。
Q6. 中国からの宿泊者が減った分、何に注力すべきですか?
2026年7月時点で明確に伸びているのは台湾(+31.4%)・韓国(+31.4%)・香港(+54.3%)です。次いでロシア(+48.3%)、インド(+27.4%)、ベトナム(+27.3%)。ただし後者3市場は絶対量が小さく、台湾・韓国・香港の3市場で外国人延べ宿泊者数の37.4%を占めます。短期は台湾・韓国・香港向けのOTA露出と繁体字・ハングル対応、中期はインド・東南アジアの立ち上げという二段構えが現実的です。
Q7. 地方の小規模施設は、稼働率を上げる以外に打ち手はありますか?
2026年6月の1〜19室クラス全国平均が23.9%、地方県では10〜16%という水準を踏まえると、稼働率の底上げだけで収益を成立させるのは困難です。現実的な選択肢は、(1)1室あたり単価と1室あたり人数を上げる商品設計、(2)宿泊以外の収益源(日帰り・レストラン・体験・駐車場等)による客室依存度の引き下げ、(3)稼働の高い曜日・季節へのリソース集中と閑散期の営業日縮小、(4)承継・売却を含む出口の検討です。全期間フル稼働を前提とした固定費構造そのものを見直す必要があります。
Q8. 統計の元データはどこから入手できますか?
観光庁の「宿泊旅行統計調査」ページで、報道発表資料(PDF)と集計結果(Excel)が無料公開されています。月次の速報、年間の確定値、都道府県別・市区町村別の参考表がすべて揃っています。本記事の数値もすべてこのページで公開されている一次資料に基づいています。
Q9. この統計だけで収益管理は完結しますか?
完結しません。宿泊旅行統計調査には単価(ADR)と収益(RevPAR)の情報が含まれないためです。市場全体の需要量と稼働水準を把握するマクロ指標として使い、自社のADR・RevPAR・チャネル別構成はPMSとレートショップのデータで補完する必要があります。「市場は統計、自社はPMS、競合はレートショップ」の三点測量が2026年の標準的な収益管理の形です。
※注1:第1次速報とは、当月分の調査票のうち翌月中旬までに回収された有効票を基に推計した速報値。約2か月後に第2次速報として改定される。
※注2:層化とは、統計調査で母集団をいくつかのグループ(層)に分け、層ごとに標本の抽出率を変える手法。層の分け方の基準を層化基準と呼ぶ。宿泊旅行統計調査は2026年1月調査から、これを従業者数から客室数へ変更した。
※注3:定員稼働率とは、延べ宿泊者数を「宿泊施設の総定員×日数」で割った値。客室ではなく収容人数ベースで稼働を測る指標。


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