ホテルはターゲットを絞るな!星野リゾート流「真面目な八方美人」で稼働率と単価を両立

宿泊ビジネス戦略とマーケティング
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  1. 結論
  2. はじめに
  3. ターゲットを絞り込む「ペルソナ設計」の限界と、星野リゾート流「真面目な八方美人」とは?
    1. 「選ばれにくさ」を生むペルソナ設計の罠
    2. 「街的ホテル」と「真面目な八方美人」というブレイクスルー
  4. 「真面目な八方美人」コンセプトを成立させる3つの絶対条件
    1. 1. 時間と空間の「ゾーニング(スライス設計)」
    2. 2. 徹底的な「滞在シーンの編集力」
    3. 3. 現場のオペレーション負荷を抑えるマルチスキル設計
  5. 「真面目な八方美人」戦略の課題:コスト・運用負荷・失敗リスク
  6. 自社ホテルに「街的コンセプト」を導入するための実践ステップ(SOP)
    1. 【ステップ1】自社アセットと「周辺地域」のコンテンツ棚卸し
    2. 【ステップ2】「3つの主要ターゲット」に対する「滞在シーン」の設計
    3. 【ステップ3】プロモーションの「マルチチャネル化」と見せ方の最適化
  7. よくある質問(FAQ)
    1. Q1. 小規模なビジネスホテルやシティホテルでも「街的ホテル」「真面目な八方美人」戦略は可能ですか?
    2. Q2. 異なる顧客層(例:小さな子供連れの家族と、静かに過ごしたいカップル)がバッティングしてクレームになるのが心配です。
    3. Q3. マルチスキル化を推進しようとすると、ベテランスタッフや専門職(シェフなど)から反発が起きるのですが。
    4. Q4. 「八方美人」戦略を始めると、アメニティや客室の備品コストが跳ね上がりませんか?
    5. Q5. 地域の事業者と提携して体験型コンテンツを作りたいのですが、どのように声をかければ良いでしょうか?
    6. Q6. コンセプトが当たって特定の層(例:インバウンド客)ばかりが増えてしまった場合、どう軌道修正すべきですか?
  8. まとめ

結論

現代のホテルマーケティングにおいて、過度なターゲットの絞り込み(ペルソナ設計)はかえって市場を狭め、「選ばれにくさ」を生むリスクがあります。星野リゾートが展開する「リゾナーレ」の極意である「街的ホテル」および「真面目な八方美人」というコンセプトは、一見ターゲットを絞らないようでいて、多様な顧客の滞在シーン(文脈)を徹底的に「編集」して提供する高度な戦略です。本記事では、この思想を自社ホテルに移植し、現場が疲弊せずに単価と稼働率を両立させるための具体的なコンセプト構築手順(SOP)を解説します。

はじめに

「ターゲット層を絞り込み、ペルソナを設定して尖ったコンセプトを作ったはずなのに、なぜか集客が伸び悩んでいる」「ニッチを狙いすぎて、閑散期の稼働率が悲惨なことになっている」――。こうした悩みを抱えるホテル経営者やマーケティング担当者は少なくありません。

実際、2026年現在の激しい競争環境下において、市場リサーチ企業などの分析でも、消費者の価値観や行動パターンはかつてないほど細分化しています。これまでの「30代アクティブ女性向け」「シニア富裕層向け」といった静的な属性ターゲットによるアプローチは限界を迎えているのです。

そこで今、ホテル業界で再注目されているのが、星野リゾートの「リゾナーレ」が体現する「街的ホテル」および「真面目な八方美人」というアプローチです。これは単に「誰にでもいい顔をする」という意味ではありません。多様な顧客ニーズを「シーン」として徹底的に編集し、受け入れる器を広げながらも、ホテルのアイデンティティを崩さない高度なブランド戦略です。本記事では、この「真面目な八方美人」戦略のメカニズムと、それを現場のオペレーションに落とし込むための具体的な実践ステップを解説します。

編集部員

編集部員

編集長!「八方美人」って、マーケティングの世界ではむしろ『ターゲットがブレて誰にも刺さらないNG手法』だと言われませんか?なぜ星野リゾートのリゾナーレはそれで成功しているんでしょう?

編集長

編集長

良い着眼点だね。普通、八方美人というと『個性のないホテル』を想像する。しかし、リゾナーレの言う『真面目な八方美人』とは、無計画に全員に合わせるのではなく、訪れる人それぞれの『過ごし方のシナリオ』を、ホテルの側が完璧にデザインして提供することを指しているんだ。つまり『器』としての多様性と、『編集』の一貫性が両立しているんだよ。

ターゲットを絞り込む「ペルソナ設計」の限界と、星野リゾート流「真面目な八方美人」とは?

一般的なマーケティングの教科書では、「ターゲットを狭く絞り込むこと」が推奨されます。しかし、ホテルのような物理的アセットを伴うビジネスで極端な絞り込みを行うと、以下のような「選ばれにくさ」の罠に陥ります。

「選ばれにくさ」を生むペルソナ設計の罠

企業のマーケティング担当者が集う「CMO X研究会」の議論でも、各業界のトップブランドに共通する課題として「過度な差別化やターゲット選定が、逆に顧客にとっての『自分には関係のないブランド』という認識(選ばれにくさ)を生んでいる」という指摘がなされています。ホテルにおいても同様です。「おひとりさま向け静寂ホテル」と謳いすぎれば、家族旅行やグループ客の選択肢から完全に除外され、逆に「ファミリー特化」をアピールしすぎると、単価の高いカップルやビジネス客が敬遠するようになります。結果として、季節や曜日ごとの需要変動に対応できず、稼働率の波に苦しむことになるのです。

「街的ホテル」と「真面目な八方美人」というブレイクスルー

この限界を突破する概念が、リゾナーレが掲げる「街的ホテル」です。これはホテル単体で完結するのではなく、ホテル自体がひとつの「魅力的な街」のように機能し、多様な人々がそれぞれの目的で交差する空間を指します。
そして、その街の中で行われるのが「真面目な八方美人」のおもてなしです。ファミリー、カップル、ワーケーション目的のビジネスパーソン、シニアなど、異なる属性のゲストが同じ空間に滞在しても、それぞれの「過ごしたいシーン」が衝突せず、むしろお互いが心地よい活気の一部となるように設計されています。

編集部員

編集部員

なるほど!ターゲットを「人」で絞るのではなく、「滞在するシーン(文脈)」で切り分けて、それぞれに最適な体験を用意しておくということですね。だからファミリーもカップルも、同じホテルなのに自分たちの世界を楽しめるんだ!

「真面目な八方美人」コンセプトを成立させる3つの絶対条件

この戦略を自社ホテルで実現するためには、単に「いろいろなプランを並べる」だけでは不十分です。以下の3つの構造的な条件を満たす必要があります。

1. 時間と空間の「ゾーニング(スライス設計)」

異なるニーズを持つゲストを、同じ時間・同じ空間にただ混在させると、クレームの原因になります。重要なのは、空間と時間を巧みに「スライス(切り分け)」することです。
例えば、朝食会場を「ファミリー優先エリア」と「大人のみ(静音)エリア」に緩やかにゾーニングする、あるいはラウンジの利用時間を夕方まではファミリー向け、夜21時以降はバータイムとして大人向けに切り替えるといった手法です。物理的な仕切りを作らなくても、演出や時間枠の工夫だけで十分なゾーニングが可能です。

2. 徹底的な「滞在シーンの編集力」

星野リゾートの強みは、ハードウェアの豪華さではなく「ソフトウェア(体験)の編集力」にあります。地域の魅力を独自の視点で切り取り、ゲストが能動的に参加できるアクティビティとして再構成します。
2026年11月に開催される「ホテルマーケティングカンファレンス2026」(主催:株式会社micado)でも、宿泊施設の魅力を「その施設ならではの価値」として正しく可視化し、顧客に伝える重要性が議論されます。自社のアセットと周辺地域のカルチャーを融合させ、「誰が、いつ、どのように楽しむか」という滞在シナリオを複数パターン編集しておくことが、「八方美人」を魅力的に見せる絶対条件です。

3. 現場のオペレーション負荷を抑えるマルチスキル設計

多様なニーズに応えようとすれば、当然現場のオペレーションは複雑化します。「八方美人」を真面目に実行する最大のボトルネックは、スタッフの疲弊です。
これを防ぐためには、サービス、フロント、アクティビティ案内などを柔軟に行き来できる「マルチタスク(マルチスキル)型」の組織構築が不可欠です。スタッフの稼働を平準化し、臨機応変なゲスト対応を可能にする評価・育成制度を整える必要があります。具体的なマルチスキルの導入と評価制度の構築については、こちらの記事(ホテル疲弊を断ち切る!総務人気が導くマルチスキル評価制度)で詳しく解説していますので、前提理解としてぜひ参考にしてください。

「真面目な八方美人」戦略の課題:コスト・運用負荷・失敗リスク

魅力的な戦略である一方、安易な導入は現場の崩壊とブランドの陳腐化を招きます。以下のデメリットと課題をあらかじめ認識しておく必要があります。

想定されるリスク・課題 発生する要因 回避するための具体的な対策(SOP)
オペレーションの混乱とスタッフの離職 ターゲットごとに異なる過剰なおもてなしを現場のマンパワーに依存して行おうとする。 おもてなしの「限界ライン(やらないこと)」をマニュアル(SOP)に明記し、全スタッフで共有する。
「何を売りにしているか」のブランドボヤけ WebサイトやSNSで、すべてのターゲット向け情報を一律に発信してしまう。 集客チャネルごとに見せる顔を変える(例:Instagramはカップル向け、OTAの特定プランはファミリー向け)。
初期・運用の「コンテンツ制作コスト」肥大化 複数の滞在シーンに合わせたアクティビティや備品をすべて自社で購入・開発する。 地域事業者や他業種ブランドとの「共同開発(アセットライト)」を取り入れ、自社コストを最小限に抑える。
編集長

編集長

ここが非常に重要なポイントだ。あれもこれもと欲張って、すべてのゲストに100点満点の異なるサービスを提供しようとすれば、現場はすぐにパンクする。だからこそ『やらないことの決定』と『仕組み化』がセットでなければならないんだ。

自社ホテルに「街的コンセプト」を導入するための実践ステップ(SOP)

それでは、あなたのホテルで「真面目な八方美人」コンセプトを構築し、高単価と高稼働を両立させるための具体的な標準作業手順(SOP)を解説します。

【ステップ1】自社アセットと「周辺地域」のコンテンツ棚卸し

まずは、自社が持つ物理的アセット(ロビー、客室、中庭など)と、ホテルが位置するエリアの観光資源・歴史・食文化をすべて洗い出します。
このとき、「単なる観光名所の紹介」で終わらせず、「体験(アクティビティ)に変換できるか」という視点で評価します。例えば、地域の工芸品を鑑賞するだけでなく「実際に自分で作ってみるワークショップ」に落とし込めるか、といった切り口です。
こうした季節ごとのイベントや体験を、現場に過度な負担をかけずに定番のアセットとして運用するための仕組みづくりは、こちらの解説(ホテル季節イベントを定番アセット化!高単価と現場負担をなくすSOP)が非常に役立ちます。

【ステップ2】「3つの主要ターゲット」に対する「滞在シーン」の設計

次に、自社が受け入れるべき代表的な3つの顧客層(例:ファミリー、カップル、ワーク+バケーション客)を想定し、それぞれの「典型的な1泊2日のタイムライン(過ごし方)」を設計します。

  • ファミリー層のタイムライン: 15時チェックイン → 16時キッズ向け工作体験 → 18時早めの夕食(ビュッフェ) → 20時部屋でのボードゲーム
  • カップル層のタイムライン: 16時チェックイン → 17時大人のバーでのウェルカムドリンク → 19時半遅めのコースディナー → 21時半夜のテラスでのランタン散策
  • ワーケーション層のタイムライン: 13時アーリーチェックイン(ラウンジで仕事) → 17時温泉・サウナ → 19時インルームダイニング → 21時静かなライブラリーでの読書

このように、同じホテル内にいながら「時間」と「場所」をずらすことで、ゲスト同士が干渉せずにそれぞれの満足度を最大化できる動線を事前に描きます。

【ステップ3】プロモーションの「マルチチャネル化」と見せ方の最適化

ホテルの公式サイトトップページで「何でもできます!」とアピールすると、誰にも刺さらないWebサイトになってしまいます。
公式Webサイト内には、ターゲット(シーン)ごとの特設ランディングページ(LP)やタブを用意しましょう。
また、広告配信や予約サイト(OTA)の掲載においても、ターゲットごとに画像やキャッチコピーを完全に使い分けます。
観光庁の宿泊旅行統計調査などでも明らかになっているように、近年の旅行者は「宿の名前」だけでなく「その宿で何ができるか(体験価値)」で検索・予約を決定する傾向が強まっています。楽天のAI配信や最新のGEO(生成AI検索)対策などを駆使し、それぞれのターゲットが検索する「文脈」に合わせて、自社の特定の「顔」が露出するように調整します。

よくある質問(FAQ)

Q1. 小規模なビジネスホテルやシティホテルでも「街的ホテル」「真面目な八方美人」戦略は可能ですか?

A1. 可能です。大規模なリゾートホテルのように広大な敷地がなくても、フロント横のロビースペースを「日中はコワーキングスペース、夜はローカルクラフトビールのバー」として時間帯でゾーニングしたり、地域の飲食店と提携して「街全体をダイニングに見立てる」といったアプローチをとることで、限られたハードウェアでも十分に再現できます。

Q2. 異なる顧客層(例:小さな子供連れの家族と、静かに過ごしたいカップル)がバッティングしてクレームになるのが心配です。

A2. 最も効果的なのは「時間帯のゾーニング」と「事前のアナウンス」です。予約時やチェックイン時に、「当ホテルは多様なお客様がそれぞれの過ごし方を楽しめる『街のようなホテル』です」というコンセプトを明確に伝えておくことで、顧客側のマインドセットが変わり、許容度が上がります。また、レストランの入店時間を世代ごとに緩やかに分けるといった運用の工夫で、物理的なバッティングは大幅に回避できます。

Q3. マルチスキル化を推進しようとすると、ベテランスタッフや専門職(シェフなど)から反発が起きるのですが。

A3. 全員を一律にマルチスキル化しようとするのは失敗のもとです。まずは「フロントと料飲サービスの兼務」など、親和性の高い業務かつ若手スタッフからスモールステップで導入しましょう。また、マルチスキル化によって「シフトの柔軟性が上がった」「残業が減った」といった個人のメリットをしっかりと提示し、評価制度と連動させることが不可欠です。

Q4. 「八方美人」戦略を始めると、アメニティや客室の備品コストが跳ね上がりませんか?

A4. 全室の仕様をすべて変える必要はありません。「特定の客室タイプのみファミリー向けにアップグレードする(絵本や知育玩具の設置)」「カップル向けプランには特定の有料アメニティをオプションとして付帯させる」といった「アドオン(追加)型」の設計にすることで、基本の客室稼働にかかる固定費を抑えつつ、ターゲットごとの満足度を上げることができます。

Q5. 地域の事業者と提携して体験型コンテンツを作りたいのですが、どのように声をかければ良いでしょうか?

A5. 単なる「下請けとしての発注」ではなく、地域の活性化や共同ブランディング(共創アグリ)の姿勢を示すことが重要です。まずは地域の伝統工芸の若手作家や、地元の個人飲食店など、「新しい顧客層にアプローチしたいが自社単体では発信力がない」と考えている熱意ある事業者と組み、小さなコラボレーションから実績を作ることをおすすめします。

Q6. コンセプトが当たって特定の層(例:インバウンド客)ばかりが増えてしまった場合、どう軌道修正すべきですか?

A6. 特定の顧客層に依存しすぎることは、地政学的リスクや市場トレンドの変化に対して非常に脆弱になります。「稼働率の3割は国内ファミリー、3割はインバウンド、2割はビジネス・ワーケーション、残り2割はその他」といったように、自社がコントロールしたい顧客ポートフォリオ(比率)をあらかじめ設定しておきましょう。それに基づき、プロモーションの予算配分やOTAでの露出度を月単位で調整するコントロール(イールドマネジメント)を行います。

まとめ

2026年、ホテルの生存戦略において「誰か一人だけに愛される尖った宿」を目指すことだけが正解ではありません。それと同じくらい、あるいはそれ以上に、「多様な人々が、それぞれの心地よさを見出せる器の広い宿」であることの価値が高まっています。

星野リゾート・リゾナーレが証明しているように、「街的ホテル」として多様な滞在シーンを真面目に、そして緻密に編集し提供するアプローチは、閑散期の稼働率を底上げし、年間を通じたADR(客室平均単価)の安定をもたらします。
現場のオペレーションに無理のない範囲で、まずは「時間と空間のゾーニング」から始めてみてください。あなたのホテルが、訪れるすべてのゲストにとっての「最高の居場所」となるための第一歩は、そこから始まります。

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