ホテルの繁忙期は8月から10月へ:稼働率逆転が示す秋シフトの実像

ホテル業界のトレンド
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結論

日本の宿泊需要のピークは、すでに夏ではありません。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年(令和7年)確定値では、全国の客室稼働率は8月65.7%に対し10月66.6%。長期比較が可能な従業者数10人以上の施設の系列で見ると、2019年は8月77.9%が年内最高だったのに対し、2025年は10月76.7%が最高で、8月の73.9%を2.8ポイント上回りました。6年で夏と秋の順位が入れ替わっています。

逆転はすでに完了した業態と、まだ進行中の業態に分かれます。ビジネスホテル・シティホテルは秋が明確な最繁忙期になり、旅館・リゾートホテルは夏の優位が縮小している段階です。そして2026年は、猛暑の長期化・11年ぶりのシルバーウィーク5連休・紅葉の後ろ倒しという3つの要因が重なり、この構造がさらに強まります。やるべきことは「夏に置いていた最高値のレートと人員配置を、9月下旬から11月へ移す」ことです。

はじめに

「今年の夏も忙しかった」という現場の実感と、月次のP/Lが噛み合わない——そんな感覚を持つホテル・旅館の経営者やレベニューマネージャーは少なくないはずです。お盆は満室続きで清掃も回らなかったのに、締めてみると10月・11月のほうが数字が良い。この違和感は錯覚ではなく、統計に明確に表れている構造変化です。

本記事では、観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値と、2007年から続く月別推移表(従業者数10人以上の施設)を直接読み込み、夏から秋へのピーク移動がいつ・どの業態で起きたのかを数字で特定します。そのうえで、2026年秋に何をすべきかを実務レベルまで落とします。

編集部員
編集部員
8月がピークじゃないって、本当ですか?お盆は毎年満室なんですけど……。
編集長
編集長
満室になる「日」があるのと、月間で稼げているのは別の話です。8月は満室の日と閑散日の落差が大きい。ならして見ると、いまは10月のほうが上なんですよ。
編集部員
編集部員
たしかに8月は月初と月末が弱いですね……。数字で確認したいです。

8月と10月の稼働率は、いつ逆転したのか

まず一次データを見ます。以下は観光庁の月別推移表から抜き出した、従業者数10人以上の施設・全国の客室稼働率※注1です。この系列は2026年の調査設計変更(後述)の影響を受けないため、年をまたいだ比較に使えます。

8月10月11月年内最高月
2018年(平成30年)79.4%74.9%75.7%8月
2019年(令和元年)77.9%73.0%75.3%8月
2023年(令和5年)70.6%71.1%72.1%11月
2024年(令和6年)71.8%75.1%75.8%11月
2025年(令和7年)73.9%76.7%75.6%10月

コロナ前の2018年・2019年は、8月が10月を4.5〜4.9ポイント上回る明確な夏ピーク型でした。それが2023年に逆転し、2024年・2025年はその差が定着しています。同じ「8月と10月の差」で見ると、2019年は8月が4.9ポイント上、2025年は10月が2.8ポイント上。6年で7.7ポイント分、序列が入れ替わったことになります。

これは一時的なブレではありません。3年連続で秋が夏を上回っており、しかも差は縮まっていない。宿泊業のカレンダーそのものが書き換わったと見るべき水準です。

なぜ8月は「忙しいのに稼げない」のか

現場の実感と数字がずれる理由は、指標の取り方にあります。2025年確定値(全施設ベース)で、8月と10月を並べてみます。

指標2025年8月2025年10月
延べ宿泊者数6,720万人泊5,973万人泊8月が747万人泊多い
定員稼働率※注248.0%42.3%8月が5.7pt高い
客室稼働率65.7%66.6%10月が0.9pt高い

8月は「人」の指標が突出して高く、「室」の指標では10月に負ける——この一点にすべてが集約されています。夏休みは家族連れ・グループが中心なので1室あたりの人数が増え、延べ宿泊者数と定員稼働率は跳ね上がります。しかしホテルが売っているのは人ではなく客室です。1室に4人泊まっても、売れた客室は1室でしかありません。

現場の負荷は「人数」に比例します。朝食会場の回転、アメニティ、清掃時のリネン枚数、フロントの応対件数——いずれも人数で増えます。つまり8月は「オペレーション負荷は年内最大なのに、客室売上の指標では秋に劣る月」です。忙しさと収益性の乖離が最も大きい月と言い換えてもいい。宿泊者の同行者構成が収益に与える影響については、同行者ニーズ別CX戦略でも詳しく扱っています。

加えて8月は月内の落差が激しい。お盆前後の1週間に需要が集中し、月初と月末は平常月と変わらないか、それ以下まで落ちます。対して10月・11月は、平日のビジネス需要と週末のレジャー需要が両方立っているため、月全体が高い水準で埋まります。「ピークが高い月」と「平均が高い月」は違うのです。

業態別に見ると、逆転済みと進行中に分かれる

ピーク移動の進み方は業態で大きく異なります。同じ推移表から、2019年と2025年の業態別客室稼働率を比較します。

業態2019年8月2019年10月2025年8月2025年10月判定
ビジネスホテル82.0%79.8%78.2%83.2%逆転済み
シティホテル83.0%80.8%75.3%80.6%逆転済み
リゾートホテル73.6%60.8%69.0%63.6%差が半減
旅館65.6%54.7%61.5%60.1%差がほぼ消滅

読み取れることは3つです。

  • 都市型(ビジネス・シティ)は完全に逆転した。2019年は8月が10月を2ポイント強上回っていたのが、2025年は10月が8月を5ポイント上回る。7ポイント超の序列変化です。
  • リゾートホテルは夏優位が半減した。8月と10月の差は12.8ポイントから5.4ポイントへ。まだ夏がピークですが、その優位は目に見えて薄れています。
  • 旅館は差がほぼ消滅した。10.9ポイントあった差が1.4ポイントに。2025年11月は61.0%で、8月の61.5%とほぼ並んでいます。旅館にとって「秋は夏と同格の繁忙期」になったと言って差し支えありません。

都市型の逆転は、出張需要と外国人旅行者が秋に厚いことの反映です。一方でレジャー型の変化は、猛暑による夏の屋外レジャー回避と、紅葉・食のシーズンとしての秋の相対的な魅力向上が効いています。地方の旅館が抱える構造課題については、泊食宴モデルの終焉と事業再構築も併せて参照してください。

インバウンドが秋シフトを押し上げている

外国人宿泊者の季節性は、日本人とまったく違います。2025年確定値の外国人延べ宿泊者数を見ると、8月1,409万人泊に対し10月1,685万人泊。10月が19.6%多く、9月の1,283万人泊は年内最低月です。

日本政府観光局(JNTO)の訪日外客数でも同じ形が出ています。2025年10月は389万6,300人で10月として過去最多、8月の342万8,000人を46万人以上上回りました。JNTOは要因として紅葉シーズンの立ち上がりと東アジアの連休需要を挙げています。

つまり日本の夏休みと、外国人旅行者の来日ピークは重なっていない。8月は日本人が5,311万人泊で年内最大、10月は外国人が年内2番目の水準。両者が最も厚く重なるのが10月であり、これが客室稼働率のピークを秋に押し上げている直接の理由です。

2026年秋は、追い風が3つ重なる

2026年に限れば、秋シフトはさらに強く出ると見るべき要因が揃っています。

1. 猛暑の長期化で夏旅行が縮んだ

気象庁は2026年8月3日に7月中旬〜下旬の顕著な高温についての報道発表を行い、西日本の7月中旬・下旬の平均気温が1946年の統計開始以降で最も高い記録となったこと、40℃以上の酷暑日を観測した地点が8月3日時点で34地点にのぼり2010年以降で最多となったことを公表しました。東海では国内初の5日連続の酷暑日も記録されています。

実需にも表れました。JTBの推計では2026年夏休みの総旅行者数は7,117万人(前年比95.4%)と5%減が見込まれ、国内旅行の意向調査では「暑さを避け、屋内施設での観光や体験を楽しむ」が15.8%で上位に入りました。旅行日数も「1泊2日」が39.0%で最多です。観光庁の2026年7月・第1次速報でも、延べ宿泊者数は5,467万人泊と前年同月の5,665万人泊から3.5%減、客室稼働率は60.8%で前年同月の61.2%を下回っています。

2. 11年ぶりのシルバーウィーク5連休

2026年は9月21日(月)が敬老の日、9月23日(水)が秋分の日で、間に挟まれた9月22日(火)が国民の休日となります。結果として9月19日(土)〜23日(水)の5連休が成立し、これは2015年以来11年ぶりです。9月下旬に、これまで存在しなかった規模の需要の山が立ちます。

3. 紅葉の後ろ倒し

残暑が長引く年は紅葉の見頃も後ろにずれます。従来11月上旬〜中旬にピークが来ていた地域では、11月下旬から12月初旬に需要が移る可能性が高い。逆に言えば、10月中旬に「夏の余韻も紅葉もない」谷ができるということでもあります。

逆風:インバウンドの減速

ただし2026年は、秋シフトを支えてきたインバウンドが弱含んでいます。2026年7月の外国人延べ宿泊者数は1,358万人泊で、前年同月の1,424万人泊から4.6%減。上半期には中国政府による日本への渡航自粛の呼びかけの影響も出ています。「秋は放っておいても埋まる」という前提は、2026年に関しては成立しません。秋の需要は取りに行く必要があります。

編集部員
編集部員
うちは毎年、8月に年間最高レートを設定して、10月は「そこそこの月」として組んでいました……。
編集長
編集長
それが一番よくあるパターンです。年間カレンダーを5年前に作って、そのまま更新していない。稼働率で秋が上回っているのに、レートは夏が上のままだと、秋に取りこぼしが出ます。
編集部員
編集部員
レートだけじゃなく、人員シフトや設備メンテの時期も見直しが要りますね。

実務:秋シフトに合わせて組み替える5つの項目

自社に置き換えるための手順です。数字は自社データで検証してから動かしてください。

  1. 自社の月別客室稼働率とRevPAR※注3を、直近5年分で並べ直す。延べ宿泊者数や定員稼働率ではなく、必ず客室ベースで見ます。「うちは夏がピーク」という認識が事実かどうかを、まずここで確定させます。
  2. レートカレンダーの最高値ゾーンを見直す。秋が上回っていた業態・立地であれば、年間最高レートの設定月を9月下旬〜11月に移します。特に2026年はシルバーウィーク5連休(9/19〜23)を、お盆と同等の価格帯として扱うのが妥当です。値付けの根拠づくりについては、値下げ可視化時代のレートフロア戦略が参考になります。
  3. 10月中旬の谷を埋める施策を先に仕込む。紅葉が後ろ倒しになる年、10月中旬は連休もなく紅葉も来ない空白地帯になりがちです。平日の連泊割、地域イベントとの抱き合わせ、法人の研修・合宿需要の営業をこの時期に集中させます。
  4. 人員配置と休暇取得の設計を秋基準に変える。「9月は閑散期だから長期休暇を取らせる」という運用は、5連休がある2026年には成立しません。逆に、8月末〜9月上旬に休暇を寄せるほうが実態に合います。
  5. 大規模改修・設備メンテの時期を再検討する。10月・11月を「工事に回してよい月」として扱っている場合、年間で最も稼げる月を潰していることになります。1〜2月への移動を検討してください。

デメリット・リスク

この記事の結論をそのまま適用する前に、必ず確認すべき前提が4つあります。

  • 全国平均は自社の実態ではない。沖縄・北海道など、8月ピークが明確に続く地域は存在します。海水浴・登山・花火など夏に固有の観光資源を持つ立地では、逆転は起きていない可能性が高い。必ず自社の実数で検証してください。統計の読み違いによる判断ミスについては、宿泊統計2026の正しい読み方で詳しく整理しています。
  • 2026年1月から統計の設計が変わっている。観光庁は精度向上のため、2026年1月分調査から層化基準を「従業者数」から「客室数」へ変更しました。2025年以前と2026年以降の前年同月比には、この見直しの影響が含まれる可能性があります。本記事の年次比較に従業者数10人以上の系列を使ったのはこのためです。
  • 稼働率が高いことと利益が出ることは同義ではない。秋の稼働率が高くても、ADR※注4が夏より低ければRevPARで逆転しない場合があります。判断はRevPAR、可能であればGOPPAR(販売可能客室1室あたり営業総利益)まで見てから行ってください。
  • 紅葉時期の予測は外れる。後ろ倒しを見込んで11月下旬に在庫と価格を厚く置いた結果、例年通りの時期に色づいて取りこぼす、という失敗はあり得ます。10月中旬時点の紅葉予想を見て、11月分のレートを再調整できる運用にしておくことがリスクヘッジになります。

まとめ

2025年の全国客室稼働率は10月66.6%が8月65.7%を上回り、従業者数10人以上の施設の系列では2023年から3年連続で秋が夏を超えています。都市型ホテルはすでに逆転が完了し、旅館・リゾートも夏優位がほぼ消えかけている。「8月が繁忙期」という前提は、業態によっては6年前の常識です。

2026年は猛暑の長期化で夏需要が縮み、9月には11年ぶりの5連休が控え、紅葉は後ろにずれます。一方でインバウンドは減速しており、秋の需要は自動的には積み上がりません。この状況で最も費用がかからない打ち手は、レートカレンダーと人員シフトの「最高値ゾーン」を、8月から9月下旬〜11月へ移すことです。新しい設備投資も新しいシステムも要りません。必要なのは、自社の月別データを客室ベースで並べ直し、5年前に作ったカレンダーを更新することだけです。

用語注釈

  • ※注1 客室稼働率:利用客室数 ÷ 販売可能客室数。1室に何人泊まったかは反映しない、客室の埋まり具合を示す指標。
  • ※注2 定員稼働率:延べ宿泊者数 ÷(収容定員 × 日数)。1室あたりの人数が多いほど高くなる。
  • ※注3 RevPAR:Revenue Per Available Room。販売可能客室1室あたりの宿泊売上。客室稼働率 × ADR。
  • ※注4 ADR:Average Daily Rate。販売客室1室あたりの平均単価。

よくある質問(FAQ)

Q1. 8月の延べ宿泊者数は10月より747万人泊も多いのに、なぜ客室稼働率では負けるのですか。

8月は家族連れ・グループが多く、1室あたりの宿泊人数が増えるためです。2025年8月の定員稼働率は48.0%で年内最高、10月は42.3%。一方、売れた客室の割合を示す客室稼働率では10月66.6%が8月65.7%を上回ります。人数は増えても客室数は増えない、という構造です。

Q2. どの業態から逆転が起きているのですか。

ビジネスホテルとシティホテルです。2025年はビジネスホテルが8月78.2%に対し10月83.2%、シティホテルが8月75.3%に対し10月80.6%。いずれも秋が5ポイント以上上回っています。リゾートホテルと旅館はまだ8月が上ですが、2019年と比べて差が半分以下に縮んでいます。

Q3. この傾向はコロナ禍の一時的なものではないのですか。

2023年・2024年・2025年と3年連続で秋が夏を上回っており、しかも差は縮小していません。2024年は11月が8月を4.0ポイント、2025年は10月が8月を2.8ポイント上回りました。移動制限が完全になくなった後の3年間の結果なので、コロナ禍固有の現象とは考えにくい水準です。

Q4. 2026年のシルバーウィークはいつですか。

9月19日(土)から23日(水・秋分の日)までの5連休です。21日(月)が敬老の日、23日(水)が秋分の日で、間の22日(火)が国民の休日になるため成立します。この形は2015年以来11年ぶりです。

Q5. 猛暑は本当に夏の宿泊需要を減らしているのですか。

2026年7月の延べ宿泊者数は5,467万人泊で前年同月比3.5%減、客室稼働率も60.8%と前年を0.4ポイント下回りました。JTBの推計では2026年夏休みの総旅行者数が前年比95.4%と5%減の見込みで、意向調査でも「暑さを避け屋内施設で過ごす」が上位に入っています。ただし2026年はインバウンドの減速要因も重なっており、猛暑だけが原因とは断定できません。

Q6. 秋の稼働率が高いなら、秋のレートを上げてよいということですか。

自社データで確認できた場合に限り、その方向です。ただし稼働率だけで判断せず、RevPARで検証してください。稼働率が上でもADRが低ければ、RevPARでは夏が上回っている場合があります。まず月別RevPARを5年分並べることをおすすめします。

Q7. 10月中旬が「穴」になるという話の根拠は何ですか。

2026年は残暑が長引いたため紅葉の見頃が後ろにずれる可能性が高く、需要の重心が10月後半〜11月に移ります。一方でシルバーウィーク(9/19〜23)の直後にあたる10月中旬は連休がなく、夏型のレジャー需要も終わっている時期です。この2つが重なると空白地帯になりやすい、というのが根拠です。年によって変動するため、自社の過去実績と併せて判断してください。

Q8. 2026年から統計の比較ができなくなったと聞きました。どう扱えばよいですか。

観光庁は2026年1月分調査から層化基準を「従業者数」から「客室数」へ変更しており、前年同月比にはその影響が含まれる可能性があります。年次をまたぐ比較をする場合は、本記事のように「従業者数10人以上の施設」の推移表を使うと基準が揃います。単月の水準を見るだけなら最新の集計値で問題ありません。

Q9. 小規模の旅館でも同じ傾向と考えてよいですか。

旅館全体では8月61.5%・11月61.0%とほぼ並んでいますが、これは全国平均です。夏に固有の観光資源(海水浴場、高原、花火大会など)に依存する立地では8月ピークが継続している可能性が高く、逆に紅葉・温泉・味覚が主資源であれば秋のほうが強いはずです。自社の月別実績で判定してください。

Q10. いま最初に何をすべきですか。

直近5年分の月別客室稼働率とRevPARを、客室ベースで並べ直すことです。表計算ソフトで十分です。そのうえで年間最高レートを設定している月が実績と合っているかを確認し、ずれていればレートカレンダーと人員シフトを組み替えます。2026年であれば、9月19日〜23日の5連休の価格設定を最優先で見直してください。

参考にした一次資料

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