なぜ地方ホテルは倒産する?老朽化を乗り越えるリノベ判断の分水嶺

ホテル業界のトレンド
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  1. はじめに:宿泊業倒産が2年連続増加。「老朽化」が地方中小を追い詰める構造とは?
  2. 結論(先に要点だけ)
  3. 宿泊業の倒産件数はなぜ2年連続で増加しているのでしょうか?
    1. 2025年の倒産動向:老朽化が引き起こす「構造的な行き詰まり」
    2. 「老朽化」が倒産を招くメカニズム:負のサイクルとは?
  4. 訪日客が増えても地方中小ホテルが生き残れないのはなぜ?
    1. 高付加価値化要求に対応できない「古いインフラ」
    2. 地方事業者が直面する「資金調達の壁」と「建設費高騰」
  5. 老朽化倒産を避けるために:リノベーションの判断基準と転換戦略
    1. リノベーション投資判断のための「修繕 vs ADR向上効果」比較
    2. 特化型への収益構造転換:地方中小が勝ち残るための戦略
      1. 1. 滞在目的を絞り込んだ「サービスミニマム化」
      2. 2. 老朽化対策を兼ねたインフラDXの導入
  6. 宿泊業の構造変化:成功するための判断基準
    1. 失敗のリスク:中途半端な投資の回避
    2. 現場運用における課題:DXによる認知負荷の軽減
  7. まとめ:老朽化と二極化の波を乗り越えるために
  8. よくある質問(FAQ)
    1. 宿泊業の倒産が目立つようになったのはいつからですか?
    2. 「老朽化倒産」とは具体的にどのような事例ですか?
    3. 地方の宿泊施設はインバウンドの恩恵を受けていないのでしょうか?
    4. リノベーションと建て替え、どちらを優先すべきですか?
    5. 老朽化対策のために補助金や融資は利用できますか?
    6. DXは老朽化対策にどう役立ちますか?
    7. 宿泊業の倒産件数は今後も増え続けますか?
    8. 高付加価値化とは具体的にどういう意味ですか?

はじめに:宿泊業倒産が2年連続増加。「老朽化」が地方中小を追い詰める構造とは?

2025年の宿泊業界は、訪日外国人観光客(インバウンド)の回復により高稼働率を維持する施設が多い一方で、その恩恵を全く受けられない事業者の「退出」が加速しました。

株式会社帝国データバンクの調査(出典:プレスリリース)によると、2025年の宿泊業の倒産件数は89件に上り、2年連続で前年を上回っています。さらに、休廃業・解散を加えると、実に年間267件もの事業者が市場から姿を消しています。

この倒産増加の背景には、表面的な需要回復の裏で進行する「二極化」と、「老朽化倒産」と呼ばれる構造的な問題があります。

本記事では、この最新の倒産動向を深掘りし、なぜインバウンド需要が高まる中で地方の中小宿泊施設が苦境に立たされているのか、そして経営者が今すぐ取るべき「老朽化の壁」を乗り越えるための具体的なリノベーション判断基準と収益構造転換戦略を解説します。

結論(先に要点だけ)

  • 2025年の宿泊業倒産は89件で2年連続増加、休廃業・解散を含めると267件が市場から退出しています(出典:帝国データバンク)。
  • 倒産の主因は、需要回復の「二極化」と、設備投資が追い付かない「老朽化倒産」の増加です。
  • 地方の中小施設は、高単価・高付加価値化への投資ができず、高騰する建設費や人件費に対応できないまま収益が圧迫されています。
  • 経営者が取るべきアクションは、「全館リノベーション」か「高収益特化型への転換」かを費用対効果(ROI)に基づいて迅速に判断することです。

宿泊業の倒産件数はなぜ2年連続で増加しているのでしょうか?

帝国データバンクが2026年2月に発表した調査結果(2025年実績)は、宿泊業界が直面する構造的な課題を浮き彫りにしています。結論として、倒産増加の主な根拠は、観光需要の恩恵を受けられる施設と、そうではない施設の間で生じた「収益力の格差拡大」です。

2025年の倒産動向:老朽化が引き起こす「構造的な行き詰まり」

2025年の宿泊業の倒産件数89件という数字は、コロナ禍が落ち着き、観光需要が回復傾向にある中で見ると異質に見えます。しかし、内容を分析すると、以下の点が特徴として挙げられます。

1. 「老朽化倒産」の顕在化

コロナ禍で設備投資や修繕を止めていた施設が、老朽化したまま営業を再開せざるを得なくなりました。その結果、急な大規模修繕コストの発生や、老朽化による顧客体験の低下(口コミ悪化)が収益を圧迫し、資金繰りに行き詰まるケースが急増しています。

2. 訪日客需要の二極化

インバウンド需要は確かに増加していますが、その恩恵は主に「高単価」「高付加価値」を提供する都市部の高級ホテルや、大規模な集客力を持つ主要観光地の施設に集中しています。

一方、地方の小規模な旅館やホテルは、老朽化した設備では高付加価値サービスを提供できず、ターゲットとする訪日客層のニーズにも合致しないため、客単価(ADR)が伸び悩んでいます。

3. コストの高騰

倒産増加の直接的な背景には、建設資材費や人件費の高騰があります。老朽化した施設は修繕が必須ですが、建設費高騰によりリノベーション費用が想定を大きく上回り、融資が得られずに事業継続を断念する事例が目立ちます(出典:帝国データバンク調査)。

「老朽化」が倒産を招くメカニズム:負のサイクルとは?

老朽化がなぜ倒産に直結するのでしょうか。これは、単なる建物の問題ではなく、収益構造全体を蝕む「負のサイクル」が存在するためです。

  1. 収益力の低下:設備が古い、デザインが陳腐化している、水回りなどの問題から口コミ評価が低下し、ADR(平均客室単価)を上げられない。
  2. 投資判断の遅れ:収益が上がらないため、老朽化対策としてのリノベーションや設備投資に踏み切れない。
  3. 高コスト体質:古い設備はエネルギー効率が悪く、故障も頻発するため、光熱費やメンテナンス費、予期せぬ修繕費がかさむ。
  4. 競争力の喪失:周辺に新規開業施設やリノベーション施設ができると、相対的に魅力が低下し、さらに収益が落ち込む。

このサイクルに陥った地方中小宿泊事業者は、人手不足による人件費高騰や、インフレによる仕入れ価格上昇といった外部環境の変化に対応する体力が残っていません。結果として、事業再生ではなく、市場からの退出(倒産・休廃業)を選ばざるを得なくなっているのです。

訪日客が増えても地方中小ホテルが生き残れないのはなぜ?

ニュースではインバウンド回復が強調されますが、地方中小施設にその恩恵が行き渡らないのは、ターゲットとサービスの「ミスマッチ」が原因です。

高付加価値化要求に対応できない「古いインフラ」

現代の訪日客、特に欧米の富裕層やアジアの高単価ゲストは、「ただ宿泊する」だけでなく、「地域文化に触れる」「ウェルネス体験をする」といった高付加価値な体験を求めます。これに対応するためには、以下のようなインフラ投資が必要です。

  • デジタル環境:高速Wi-Fi、スマートチェックイン、多言語対応。
  • 設備投資:個別空調、快適な水回り、大型ベッド、デザイン性の高い空間。
  • サービス:地域特化のF&B(食事)、ウェルネス施設(大浴場、サウナ、ジムなど)。

地方の老朽化した中小施設は、これらのインフラ投資が困難であり、高単価を正当化できるだけのサービス品質を確保できていません。その結果、高付加価値を求めるゲストは都市部や新しい施設に流れ、地方に残るのは価格競争にさらされるゲストばかりになってしまいます。

また、設備の老朽化は、顧客満足度(CS)の低下に直結します。特に大浴場や水回りの清潔感は、口コミで厳しく評価され、一度評価が下がると、ADRの維持は極めて困難になります。

地方事業者が直面する「資金調達の壁」と「建設費高騰」

地方の中小事業者は、大規模なチェーンやファンド系ホテルに比べ、銀行からの融資を得るのが難しくなっています。収益性が低いと見なされると、リノベーション資金の調達に失敗します。ここに建設費高騰が追い打ちをかけます。

リノベーションのROI(投資対効果)を計算しても、建設コストが高すぎて費用回収に時間がかかると判断されれば、経営者は「事業継続」よりも「市場からの撤退」を選択せざるを得なくなります。

このように、需要回復期においても、地方の宿泊業者は「資金・人材・設備」の三つのリソースにおいて都市部や大手チェーンとの格差が拡大し続けているのです。

老朽化倒産を避けるために:リノベーションの判断基準と転換戦略

宿泊事業者が老朽化の壁を乗り越え、倒産リスクを回避するためには、曖昧な「気持ち」ではなく、データに基づいた迅速な意思決定が求められます。特に重要なのは、現行の施設を「再生」させるのか、「特化型に転換」するのかの判断です。

リノベーション投資判断のための「修繕 vs ADR向上効果」比較

リノベーションを検討する際、経営者は以下の表を参考に、投資の優先順位と撤退ラインを明確にする必要があります。

判断項目 現状維持の限界点(撤退検討ライン) 投資判断の基準(実行ライン)
修繕費(過去5年平均) 年間売上の5%を超えている 大規模改修が今後5年以内に必須ではない
現在のADR 競合の地域平均を下回り続ける リノベーション後にADRを20%以上引き上げる確証がある
リノベによるROI(投資対効果) 投資回収期間が10年以上かかる見込み 投資回収期間が7年以内に設定できる
顧客満足度(OTAスコア) 4.0/5.0を下回っている(老朽化関連の指摘が多数) 構造的に修繕が必要な箇所に絞った投資で、スコアを4.5以上に引き上げられる

もし、現在の修繕コストが継続的に高止まりし、かつ投資によってADRを大きく引き上げる確証がない場合は、施設全体を維持するリスクが高すぎると判断し、特化型への転換や売却を検討すべきタイミングです。投資を躊躇することで、倒産や廃業といった最悪の事態を招くことになります。

特化型への収益構造転換:地方中小が勝ち残るための戦略

全面的なリノベーションが難しい場合でも、特定のニーズに特化することで、収益構造を改善し、高単価を維持することは可能です。

1. 滞在目的を絞り込んだ「サービスミニマム化」

老朽化した施設でも、特定の設備やサービスに投資を集中し、それ以外を大胆にカット(サービスミニマム化)することで、オペレーションコストを下げつつ、単価を上げることが可能です。

  • ワーケーション特化:客室のリノベを最小限に抑え、共用部に高速Wi-Fi、電源、集中ブースを整備。滞在型の長期客を取り込む。
  • ウェルネス特化:客室はそのままに、サウナや温浴施設、食事内容(地元の食材、健康志向)のみに投資し、宿泊単価を向上させる。
  • アウトドア/アクティビティ拠点特化:宿泊そのものではなく、地域の体験プログラムを軸に据え、宿泊はシンプルに提供する。

これは、建設費高騰時代に初期投資を抑えつつ収益を最大化する「引き算ホテル」戦略(参考:北欧発!建設費高騰時代を勝ち抜く「引き算ホテル」戦略とは?)とも通じます。

2. 老朽化対策を兼ねたインフラDXの導入

老朽化対策は物理的な修繕だけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用したオペレーションの効率化も含まれます。特に地方の中小施設では、人手不足の解消が急務です。

  • エネルギー管理(固定費削減):老朽化した設備の稼働状況をiBMS(インテリジェントビル管理システム)やIoTセンサーで可視化し、非効率な運転を自動制御することで、光熱費の無駄を削減する。
  • 省人化(人件費効率化):モバイルチェックイン、電子錠(RemoteLOCKなど)、チャットボットを導入し、フロントスタッフの認知負荷を軽減。少ない人数で運営できる体制を構築する。
  • 清掃効率化:清掃指示システムをデジタル化し、清掃業務の属人化を防ぎ、人時生産性を向上させる。

宿泊業の構造変化:成功するための判断基準

宿泊業の倒産増加は、単なる景気後退ではなく、業界の構造そのものが変化している証拠です。高付加価値を追求できない施設は、たとえ需要が増加しても収益を伸ばせない時代に入っています。

失敗のリスク:中途半端な投資の回避

最も危険なのは、「老朽化を解消するだけ」の中途半端なリノベーションです。多額の負債を抱えながら、ADRもCSも改善せず、投資回収の見込みが立たなくなる「投資失敗リスク」です。地方事業者は、特に資金調達が難しい分、初期投資の額を抑え、確実な収益向上が見込める分野に集中することが求められます。

例えば、客室の水回りなど、ゲストの満足度に直結する「摩擦の大きい部分」に投資を集中させ、その他の部分(内装など)はデザイン性を担保しつつ、コストを抑える工夫が必要です。

現場運用における課題:DXによる認知負荷の軽減

老朽化した施設ほど、アナログな業務が多く、現場スタッフの負担が増大します。倒産リスクが高まる施設では、コスト削減のために人件費を削りがちですが、これは残ったスタッフの離職を招く悪循環を生みます。

解決策は、投資によって「人の手がかかる業務」を根本的に減らすことです。清掃・設備管理・ゲスト対応において、AIや自動化技術を導入し、スタッフが顧客体験の向上という「高付加価値業務」に集中できる環境を整備することが、老朽化施設の競争力回復の鍵となります。

まとめ:老朽化と二極化の波を乗り越えるために

2025年の宿泊業の倒産件数増加は、地方の中小宿泊事業者が直面する厳しい現実を突きつけています。訪日客増加という追い風は、リソースと投資力がある施設にのみ働き、老朽化を抱える施設は構造的な「行き詰まり」に陥っています。

経営者が今すべきことは、自社の施設が「老朽化倒産リスク」に晒されていないか、客観的なデータ(修繕コスト、ADR、顧客満足度)で診断することです。その上で、曖昧な感情を排し、全館リノベーションによる「再生」か、特化型への「転換」かを迅速に決定し、実行に移さなければなりません。

老朽化対策としてのリノベーション戦略の詳細な判断基準については、以下の記事も参考にしてください。

ホテル倒産はなぜ急増?老朽化の壁を乗り越えるリノベ判断とDX戦略

よくある質問(FAQ)

宿泊業の倒産が目立つようになったのはいつからですか?

帝国データバンクの調査によると、宿泊業の倒産件数はコロナ禍明けの2024年から増加に転じ、2025年も連続で増加しました。特に老朽化や原材料高騰が影響し始めたのは2024年後半以降です。

「老朽化倒産」とは具体的にどのような事例ですか?

老朽化倒産とは、主に地方の中小旅館・ホテルにおいて、施設の老朽化に伴う修繕費の急増と、高騰する建設費のために必要なリノベーション資金の調達に失敗し、収益悪化を止められずに倒産に至るケースを指します。

地方の宿泊施設はインバウンドの恩恵を受けていないのでしょうか?

一律ではありません。主要な観光地や、すでに高付加価値化(ラグジュアリー化、サウナやウェルネス特化など)に成功している地方施設は恩恵を受けています。しかし、高単価を正当化できるインフラやサービスを持たない中小施設は、客層のニーズに合致せず、恩恵を受けられていないケースが多いです。

リノベーションと建て替え、どちらを優先すべきですか?

判断基準は「投資対効果(ROI)」です。リノベーションでADRを十分に引き上げ、かつ投資回収期間を短縮できるならリノベを優先すべきです。ただし、構造自体が古い、あるいは古いままでは高付加価値化が不可能である場合は、建て替え(または特化型への転換)が長期的には有利になることがあります。

老朽化対策のために補助金や融資は利用できますか?

はい。国や自治体による観光施設向けの支援策(事業再構築補助金、ものづくり補助金など)や、日本政策金融公庫などによる融資制度があります。ただし、これらは「事業計画の実現性」が厳しく問われるため、明確な収益改善計画が必要です。

DXは老朽化対策にどう役立ちますか?

DXは主に「人手不足対策」と「固定費削減」に役立ちます。例えば、エネルギー管理システム(iBMS)導入で古い設備の非効率な稼働を抑え、光熱費を削減できます。また、モバイルチェックイン導入などで人件費の効率化を進められます。

宿泊業の倒産件数は今後も増え続けますか?

市場の二極化が継続する限り、倒産件数は高止まり、あるいはさらに増加する可能性があります。特に、2026年以降は、コロナ融資の返済本格化や、建設費の高止まりが続くため、投資に踏み切れなかった事業者の淘汰が加速する見込みです(出典:市場予測)。

高付加価値化とは具体的にどういう意味ですか?

高付加価値化とは、単に価格を上げるのではなく、「提供する体験やサービス(F&B、ウェルネス、地域文化体験、ホスピタリティなど)の質を高めることで、価格に見合う価値をゲストに提供し、客単価(ADR)を維持・向上させる戦略」を指します。

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