結論
エイチ・アイ・エス(HIS)の2026年10月期第3四半期累計(2025年11月〜2026年7月)の決算では、売上高の約7%にすぎないホテル事業が、セグメント利益の約47%を稼ぎ出した。本業の旅行事業は中東情勢と円安の影響で営業利益が前年同期比40.1%減った一方、ホテル事業は営業利益34億13百万円(同14.6%増)と増収増益を続けた。さらにEBITDA(※注1)でも、ホテル事業(65億24百万円)が旅行事業(60億47百万円)を上回っている。
増益を支えたのは、①自社サイト比率(直販)の向上、②単価の高いコラボレーションルーム、③不動産の保有による固定費の圧縮、の3点だ。一方で決算短信は、国内ホテルの成長が「上半期までの高い成長軌道から減速した」ことも認めている。ホテル事業者がこの決算から学ぶべきなのは「ホテルは儲かる」という話ではなく、価格を自分で決められる事業ほど外部環境の変化に強いという収益構造の違いである。
はじめに
HISは2026年9月11日、2026年10月期第3四半期の連結決算を発表した。トラベルボイスの報道によれば、売上高は2,793億円(前年同期比4.9%増)と伸びたものの、営業利益は51億32百万円(同18.1%減)、純損益は49億90百万円の赤字となった。赤字の主因は、グアムの「グアムリーフホテル」の土地を買い取った際に発生した約59億円のリース解約損(※注2)である。
見出しだけを見ると「旅行会社が苦戦した決算」だが、セグメント別の数字を並べると別の姿が見えてくる。本記事では決算短信とHISホテルホールディングスの戦略説明会資料(2026年1月)という一次資料をもとに、なぜホテル事業だけが増益を続けられたのか、そしてホテル経営者が自社の戦略に何を持ち帰れるのかを整理する。
HISの第3四半期決算では何が起きたのか?
まずはセグメント別の数字を確認する。以下は決算短信のセグメント情報から、売上高・セグメント利益・EBITDAを抜き出し、利益率を編集部で計算したものである。
| セグメント | 売上高 | セグメント利益(前年同期比) | 利益率 | EBITDA |
|---|---|---|---|---|
| 旅行事業 | 2,284億96百万円 | 28億35百万円(59.9%) | 1.2%(前年2.2%) | 60億47百万円 |
| ホテル事業 | 206億32百万円 | 34億13百万円(114.6%) | 16.5%(前年15.8%) | 65億24百万円 |
| 九州産交グループ | 201億08百万円 | 7億32百万円(118.3%) | 3.6% | 20億62百万円 |
| その他 | 131億29百万円 | 2億42百万円 | 1.8% | 7億72百万円 |
※出典:HIS「2026年10月期 第3四半期決算短信」。売上高はセグメント間取引の消去前。利益率は編集部による計算。
4セグメントの利益合計72億23百万円のうち、ホテル事業は34億13百万円で約47%を占める。前年同期は85億18百万円のうち29億77百万円で約35%だったから、1年で存在感が大きく増した。旅行事業の利益が約19億円減ったのに対し、ホテル事業は約4億円増やしており、グループ全体の減益幅を和らげる役割を果たしている。
旅行事業の減益要因について、トラベルボイスは第3四半期(5〜7月)単体で中東への送客数が前年同期比47%、欧州が同89.7%まで落ち込み、キャンセルによる取扱高への影響が約90億円に上ったと報じている。円安の常態化と燃油サーチャージ(※注3)の高騰も、海外旅行の予約ペースを押し下げた。
なぜ売上7%のホテル事業が利益の半分を稼げるのか?
旅行事業は「薄い手数料」で外部環境に振り回される
旅行会社の収益は、航空券やホテルを仕入れてパッケージにし、その差額を得る構造が基本だ。売上高は大きく見えても、手元に残る利益は薄い。今期の旅行事業の利益率は1.2%で、売上2,285億円に対して利益は28億円である。この構造では、燃油サーチャージの上昇や為替の変動、紛争によるツアー中止といった自社でコントロールできない要因が、そのまま利益を削る。キャンセルが出れば取扱高そのものが消えてしまう。
ホテル事業は価格決定権と「部屋」という資産を持つ
一方のホテル事業は、客室という在庫を自ら保有・運営し、需要に応じて価格を決められる。HISホテルホールディングスは2026年1月時点で7カ国に49軒・12ブランド、客室6,067室(国内3,568室/海外2,499室)を展開している。売上に対する利益率は16.5%と旅行事業の10倍以上で、減価償却費(31億10百万円)を足し戻したEBITDA率は約32%に達する。
もちろんホテルも外部環境と無縁ではない。決算短信は、日中関係の悪化による中国からのインバウンド減少や、国内客の獲得をめぐる価格競争が客室単価に影響したと説明している。それでも増益を保てたのは、需要が落ちた市場から別の市場へ売り先を切り替え、価格を自ら調整できる事業だからだ。実際、トルコのホテルでは周辺情勢が悪化する中で国内市場向けの販売に切り替え、前年同期を大きく上回る水準まで回復させている。
ホテル事業の増益を支えた3つの施策とは?
①自社サイト比率の向上(直販強化)
決算短信は国内ホテルの増収要因として、まず「自社サイト比率の向上」を挙げている。OTA(※注4)経由の予約には販売額に応じた手数料がかかるため、同じ売上でも直販に置き換わった分だけ利益が残る。戦略説明会資料でも、2026年度の目標KPIとして「サイト会員数50万人」「各SNS登録数20万人」が掲げられており、会員基盤を育てて直販に誘導する方針が明確だ。直販を伸ばす具体策についてはホテル直販を最大化するAIコンシェルジュ戦略でも詳しく解説している。
②コラボレーションルームによる客室単価の引き上げ
2つ目は、企業や地域と組んだコラボレーションルームだ。「変なホテル」では2022年7月の「恐竜ルーム」を皮切りに、2026年2月時点でコラボルーム52種類・コンセプトルーム26種類を展開し、2025年9月には「コラボルーム世界最多のホテル」としてギネス世界記録に認定された。HISの社内インタビュー記事によると、コラボルームは通常客室の約2倍の価格で販売され、全コラボルームの売上総額は通常のホテル約1棟分に相当するという。
注目すべきは、客室を新たに建てずに単価を上げている点だ。既存の部屋の内装と企画を変えるだけで、同じ1室から得られる売上を増やせる。ただしテーマ性の強い客室は清掃や備品管理の負荷が上がりやすく、高単価コンセプトルームの落とし穴で整理したような運用設計が欠かせない。
③不動産を「借りる」から「持つ」へ
3つ目は、今回の赤字の原因にもなったグアムの土地取得である。HISの連結子会社GUAM REEF HOTEL, INC.は、それまで借りていた土地を購入し、既存の賃貸借契約を解約した。その結果、約59億円のリース解約損を特別損失として計上している。
一時的に大きな損失を出してまで土地を買う理由は、戦略説明会資料の整理を見ると分かりやすい。資料では開発手法を次のように比較している。
| 運営形態 | 利益率 | 必要な資金 | HISホテル事業での構成比 |
|---|---|---|---|
| 土地・建物とも保有 | 高い | 多い | 23% |
| 借地・建物保有 | — | — | 25% |
| リース(土地・建物とも賃借) | 低い | 少ない | 40% |
| オーナー物件(投資物件) | — | — | 12% |
※出典:HISホテルホールディングス「ホテル事業 戦略説明会」(2026年1月)。利益率・必要資金の評価は資料が示す「自己所有」「リース」の比較。構成比は資料記載の運営形態別の数値。
リースは少ない資金で出店できる反面、毎年の賃料が固定費として利益を圧迫する。土地を買えば、会計上は一度だけ損失が出るものの、以後の賃料負担がなくなり、長期的な利益率は上がる。グアムはレジャー需要の低迷や大型台風の影響で苦戦している拠点でもあり、固定費を下げて赤字耐性を高める判断と読むことができる。
HISのホテル事業はどこを目指しているのか?
戦略説明会資料には、2026年度の目標KPIとしてADR(※注5)15,700円、稼働率(OCC)76%、宿泊人数合計200万人、各サイトの評点4.5が示されている。ADRと稼働率を掛け合わせると、1室あたりの売上を示すRevPARは単純計算で約11,900円になる。高級ホテルほどの単価ではなく、変なホテルを中心とした宿泊特化型の価格帯で、稼働率を高く保つ設計だと読める。
その先の将来構想として掲げるのが、施設数100軒・営業利益100億円だ。今期の第3四半期累計の営業利益は34億13百万円で、単純に12カ月に引き延ばしても約45億円にとどまる。目標までは現在の2倍以上の利益が必要になる計算で、今の49軒から軒数を増やしながら、1軒あたりの利益も高めなければ届かない。
そのための手段として、資料は開発手法に「M&A(軒数拡大を実現可能)」を加えているほか、AIを使ったレベニューマネジメント、AIによる口コミ分析、遠隔でのホテル管理といったDXの推進も挙げている。軒数を増やしても本部や現場の人手を比例して増やさない、生産性重視の運営が前提になっているわけだ。ロボットやホログラムによるチェックインで知られる変なホテルの成り立ち自体が、「働き手が不足する未来」を見越したものだと資料は説明している。
ホテル事業者はこの決算から何を持ち帰るべきか?
HISのような大手と同じ投資はできなくても、収益構造の考え方は規模を問わず使える。以下のチェックリストで、自社がどこまで「価格決定権を持つホテル」になれているかを確認してほしい。
- 自社サイト経由の予約比率を毎月数字で把握しているか(Yes/No)
- 会員数やSNS登録数など、直販につながる顧客基盤をKPIとして管理しているか(Yes/No)
- 通常客室より高く売れる「理由のある客室」を1タイプ以上持っているか(Yes/No)
- 特定の国・市場の需要が落ちたとき、切り替える販売先を想定しているか(Yes/No)
- 賃料・リース料が売上に占める割合を把握し、契約更新時に見直しているか(Yes/No)
- 飲食・物販など、宿泊以外の付帯収益の利益率を把握しているか(Yes/No)
最後の付帯収益について、戦略説明会資料には示唆に富む事例がある。「ウォーターマークホテル沖縄 宮古島」では、他社に任せていた飲食を自社運営に切り替え、飲料部門の利益率が11%から31%へ上がったという。売上規模を追うより、利益が残る部分を自分で握るという発想は、客室単価を上げる取り組みと同じ方向を向いている。
また、HISは旅行会社としての送客力をホテルに生かせる立場にあるが、今回の決算はむしろ「送客に頼りすぎない」ことの重要性を示した。航空会社や旅行会社との連携で集客する手法は有効だが、航空×ホテル連携で直販とLTVを高める戦略でも触れたように、最終的に顧客との関係を自社に残す設計が欠かせない。
デメリット・リスク
第一に、ホテル事業の成長は鈍り始めている。決算短信自身が、中国からのインバウンド減少と国内の価格競争によって客室単価が影響を受け、「上半期までの高い成長軌道からは減速」したと説明している。第4四半期も同じ伸びが続くとは限らない。
第二に、不動産を保有する戦略は多額の資金を必要とする。HISの自己資本比率は2026年7月末で13.3%(前期末14.4%)と高くはない。土地を買って固定費を下げる判断は、資金に余裕のある事業者でなければ取りにくい。中小ホテルがまねをする場合は、賃料削減の効果と借入負担を慎重に比べる必要がある。
第三に、コラボルームは話題性に依存する面がある。人気コンテンツは販売と同時に満室になる一方、企画が当たらなければ改装費が回収できない。コラボ先との契約期間が終われば元の客室に戻す費用も発生する。
第四に、ホテル事業が利益の半分を占めるようになったのは、旅行事業が大きく落ち込んだ結果でもある。旅行事業の取扱高は足元で前年同期比111.5%まで回復していると報じられており、旅行事業が持ち直せばこの比率は下がる。「ホテルが旅行を逆転した」と単純に受け取るのは早計だ。
まとめ
HISの2026年10月期第3四半期決算は、中東情勢・円安・燃油高という同じ逆風の中で、旅行事業が大幅減益、ホテル事業が増収増益と明暗が分かれた。売上高の約7%のホテル事業がセグメント利益の約47%を稼いだ背景には、利益率1.2%の「仕入れて売る事業」と、利益率16.5%の「在庫と価格を自ら持つ事業」という構造の差がある。
ホテル事業の増益を支えた直販の強化、コラボルームによる単価向上、不動産保有による固定費の圧縮は、いずれも自社で決められる範囲を広げる取り組みだ。規模の小さいホテルでも、直販比率と客室単価の管理から始めることはできる。一方で国内ホテルの成長は減速しており、保有戦略には資金負担が伴う。HISの数字は、ホテル経営で「どこまでを自分で握るか」を考えるための材料として読むのがよいだろう。
よくある質問(FAQ)
Q1. HISの2026年10月期第3四半期決算の概要は?
2025年11月〜2026年7月の累計で、売上高2,793億円(前年同期比4.9%増)、営業利益51億32百万円(同18.1%減)、経常利益46億05百万円(同23.8%減)、純損益は49億90百万円の赤字だった。通期予想は2026年6月12日に修正した売上高3,950億円、営業利益120億円、純損失10億円を据え置いている。
Q2. なぜ純損益が赤字になったのですか?
連結子会社GUAM REEF HOTEL, INC.が賃借していた土地を購入し、既存の賃貸借契約を解約したことで、約59億円のリース解約損を特別損失に計上したためである。本業のもうけを示す営業利益は黒字を維持している。
Q3. ホテル事業の業績はどうでしたか?
売上高206億32百万円(前年同期比9.5%増)、営業利益34億13百万円(同14.6%増)の増収増益だった。国内ホテルの自社サイト比率向上とコラボレーションルームの展開、トルコのホテルの業績改善が寄与した。
Q4. 旅行事業はなぜ大幅減益になったのですか?
円安の常態化と燃油サーチャージの高騰に加え、中東情勢の悪化で中東・欧州方面の送客が落ち込んだためである。報道によると第3四半期単体で中東への送客数は前年同期比47%、キャンセルによる取扱高への影響は約90億円に上った。
Q5. HISはどのくらいのホテルを運営していますか?
2026年1月の戦略説明会資料によると、7カ国で49軒(国内30軒・海外19軒)、12ブランド、客室数6,067室を展開している。最大ブランドは「変なホテル」の24軒で、将来構想として100軒・営業利益100億円を掲げている。
Q6. コラボレーションルームはどのくらい単価が高いのですか?
HISの社内インタビュー記事では、通常客室の約2倍の価格で販売しており、全コラボルームの売上総額は通常のホテル約1棟分に匹敵すると説明されている。
Q7. 中小ホテルがHISの戦略から取り入れやすいのは何ですか?
大きな投資を伴わない直販比率の向上と、既存客室の企画による単価向上である。不動産の取得は資金負担が大きいため、まずは賃料やOTA手数料など、利益を圧迫している固定費・変動費を数字で把握することから始めるのが現実的だ。
※注1:EBITDA(イービットディーエー)は、営業利益に減価償却費などを足し戻した利益の指標。建物や設備への投資額が大きい事業でも、本業で現金を生み出す力を比べやすい。
※注2:リース解約損は、賃貸借契約を途中で解約したときに会計上発生する損失。今回は借りていた土地を購入したことで契約を解約したために計上された。
※注3:燃油サーチャージは、航空燃料の価格変動に応じて航空運賃に上乗せされる追加料金。原油高や円安で上がり、海外旅行の総額を押し上げる。
※注4:OTA(Online Travel Agent)は、楽天トラベルやBooking.comなど、インターネット上で宿泊予約を仲介する事業者のこと。
※注5:ADR(Average Daily Rate)は販売した客室1室あたりの平均単価、OCC(Occupancy)は客室稼働率。RevPAR(Revenue Per Available Room)は販売可能な全客室1室あたりの売上で、ADR×OCCで求められる。

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