訪日客の穴は人数で45%、宿泊費で3割:中国59%減の8月を測り直す

ホテル業界のトレンド
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結論

日本政府観光局(JNTO)が2026年9月16日に発表した8月の訪日外客数は309万8,900人(前年同月比9.6%減)でした。韓国・台湾・香港など14市場が8月として過去最高を記録した一方、中国は41万8,000人(同59.0%減)と前年の4割程度にとどまりました。

本稿では、JNTOの月別推計値(Excel)と観光庁「インバウンド消費動向調査」の国籍別単価を突き合わせ、中国の減少分を他の市場がどれだけ埋めたか(本稿では「穴埋め率」と呼びます)を月別に計算しました。8月の穴埋め率は人数ベースで45%で、2026年に入ってから最も低い水準です。さらに国籍別の1人当たり宿泊費で重み付けすると約29%、延べ泊数では2割前後まで下がります。

「14市場で過去最高」という見出しだけを見て客室単価を強気に設定すると、需要を読み違えます。ただし、9〜12月は比べる前年の数字が下がり始めるため、前年同月比は年末に向けてプラスに転じる見込みです。ホテルが見るべきなのは前年比ではなく、「自館の客層で、1室を埋めるのに何人の予約が要るか」です。

はじめに

訪日客数のニュースは「全体で何%増減したか」と「過去最高の市場がいくつあったか」で報じられるのが普通です。しかしホテルの売上に効くのは人数ではなく、何泊して、1泊にいくら払うかです。韓国からの旅行者は近くて短く、1人当たりの平均泊数は3.6泊です。中国からの旅行者は11.2泊(観光・レジャー目的に限ると6.9泊)で、泊数も宿泊費も大きく違います。

この記事では、次の3つの問いに一次資料の数字で答えます。

  • 中国の減少分は、月ごとにどれだけ他の市場で埋まっているのか
  • 人数ではなく宿泊費・泊数で測ると、8月の穴はどのくらいの大きさか
  • 国慶節を含む9〜12月に、前年比の数字はどう動くか。そのとき自館は何を見ればよいか

使用したデータはJNTO「訪日外客数(2026年8月推計値)」の月別推計値Excelと、観光庁「インバウンド消費動向調査 2026年4-6月期(1次速報)」です。集計はすべて編集部が行いました。

編集部員
編集部員
14市場で過去最高なのに全体では1割減、というのがピンときません。韓国は3割近く増えていますよね?
編集長
編集長
増えた人数と減った人数の桁が違うんだ。韓国は19万人増えたけど、中国は60万人減った。しかも8月は、1年のうちで中国の比率がいちばん高い月なんだよ。

8月に何が起きたのか:増えた市場と減った市場の差し引き

まずJNTOの8月の数字を、前年同月からの増減人数で並べます。

市場2025年8月2026年8月増減伸率
中国1,018,747人418,000人-600,747人-59.0%
韓国660,917人850,500人+189,583人+28.7%
台湾620,753人666,000人+45,247人+7.3%
香港226,069人247,300人+21,231人+9.4%
イタリア41,098人47,300人+6,202人+15.1%
米国194,525人197,400人+2,875人+1.5%
フィリピン44,209人39,100人-5,109人-11.6%
ベトナム61,215人56,600人-4,615人-7.5%
総数3,428,406人3,098,900人-329,506人-9.6%

出典:JNTO「訪日外客数(2026年8月推計値)」。2025年は確定値、2026年は推計値。

中国以外の市場を合計すると+27万1,241人ですが、中国1市場の減少(-60万747人)の半分にも届きません。JNTOは中国の減少理由として、中国政府による日本への渡航を控えるよう求める注意喚起航空便の減便を挙げています。東南アジアでは、夏が訪日の閑散期にあたることや台風による欠航も響きました。

もう一つ見落とせないのが集中度です。2026年8月は韓国と台湾だけで訪日客全体の48.9%を占めました。1〜8月の累計でも、韓国・台湾・香港の3市場で53.0%です。中国への依存が、近距離の2〜3市場への依存に置き換わっただけ、という見方もできます。

月別の「穴埋め率」:8月は2026年で最も埋まらなかった

中国の前年同月比の減少人数に対して、中国以外の市場の増加人数が何%にあたるかを月別に計算しました。100%を超えれば、中国の減少分を他の市場で埋め切ったことになります。

中国の増減中国以外の増減穴埋め率2025年同月の中国比率
1月-595,001人+411,253人69%25.9%
2月-326,413人+534,770人164%22.2%
3月-370,131人+491,535人133%18.9%
4月-434,413人+217,649人50%19.6%
5月-476,966人+343,635人72%21.4%
6月-457,198人+227,967人50%23.6%
7月-546,364人+551,346人101%28.4%
8月-600,747人+271,241人45%29.7%
1〜8月計-3,807,251人+3,049,452人80%23.6%

出典:JNTO月別推計値(Excel)をもとに編集部集計。

読み取れることは2つあります。

1つ目は、前年の中国比率が高い月ほど穴が深くなることです。2025年の中国比率は7月28.4%、8月29.7%と夏がピークで、コロナ前の2019年8月は40%に達していました。中国の家族旅行は夏休みに集中するため、同じ減少率でも夏は減る人数が大きくなります。2月・3月に穴埋め率が100%を超えたのは、韓国・台湾が伸びたことに加え、2025年2〜3月の中国比率が2割前後と低かったためです。

2つ目は、7月と8月の差です。7月は101%で、中国の減少分をほぼ埋めました。ところが8月は45%まで落ちています。7月の中国以外の増加(+55万人)は、香港が+54.8%、韓国が+31.9%と大きく伸びたことによるものでした。8月は台風による欠航と東南アジアの落ち込みが重なり、増加幅が半分になりました。中国以外の市場の伸びは、天候と休暇の並びで月ごとに大きくぶれるということです。

宿泊費で測り直す:8月の穴埋め率は約29%

ここからが本題です。人数で45%埋まっていても、埋めた側が「短く、安く」泊まる客層であれば、ホテルの売上から見た穴はもっと大きくなります。

観光庁「インバウンド消費動向調査 2026年4-6月期(1次速報)」から、主な市場の1人当たり宿泊費と平均泊数を抜き出しました。

市場1人当たり宿泊費平均泊数中国1人に相当する人数(宿泊費)
中国78,793円11.2泊1.0人
韓国30,890円3.6泊2.6人
台湾63,868円6.1泊1.2人
香港72,635円6.0泊1.1人
米国158,095円10.6泊0.5人
英国217,781円14.1泊0.4人

出典:観光庁「インバウンド消費動向調査 2026年4-6月期(1次速報)」。一般客・全目的。

中国の平均泊数11.2泊には留学・親族訪問などの長期滞在が含まれるため、観光・レジャー目的に絞ると6.9泊・宿泊費72,322円です。それでも韓国の観光・レジャー客(3.3泊・29,975円)の約2.4倍です。

この単価を8月の市場別の増減人数に掛けて、宿泊費の増減を試算しました。※注1

項目人数ベース宿泊費ベース(試算)延べ泊数ベース(試算)
中国の減少-60.1万人-473億円-673万人泊
中国以外の増加+27.1万人+136億円+125万人泊
穴埋め率45%29%19%

※注1:4〜6月期の国籍別単価を8月に当てはめた編集部の概算です。季節による単価の違いや、8月の欠航による滞在の短縮は反映していません。延べ泊数は中国の長期滞在者の影響が大きいため、中国を観光・レジャー目的の6.9泊で計算し直すと、穴埋め率は約30%になります。

中国以外で最も増えたのは韓国(+19万人)で、宿泊費に換算すると+59億円、中国の減少分の12%にとどまります。欧州や中東、メキシコは人数こそ少ないものの、1人当たりの宿泊費が14万〜19万円と高いため、イタリア・メキシコ・中東の3市場だけで+28億円と、台湾(+29億円)に並ぶ規模になります。

四半期単位でも同じ傾向が出ています。2026年4〜6月期の訪日消費額は2兆5,096億円で前年同期比+0.2%と横ばいでしたが、費目別では宿泊費が9,636億円から9,278億円へ3.7%減りました。増えたのは飲食費・娯楽等サービス費・買物代です。消費額の合計だけを見て「インバウンドは堅調」と判断すると、宿泊業にとっての実態を見誤ります。

編集部員
編集部員
うちのOTA経由の予約は韓国の方がすごく増えているので、てっきり埋まっていると思っていました。予約件数は増えているのに、客室売上はあまり伸びていないんです。
編集長
編集長
まさにその現象だよ。2〜3泊の予約が増えると、同じ稼働率でもチェックイン・清掃・フロントの手間は増える。件数ではなく、1予約あたりの泊数と客室単価を国籍別に見ないと、忙しいのに儲からない状態に気づけない。

9〜12月はどうなるか:前年の数字が下がり始める

ここまでの話は「8月は重い」というものでしたが、9月以降は前年同月比の見え方が変わります。比べる相手である2025年の中国の数字が、秋から下がっていくからです。

2025年総数うち中国中国比率
9月3,267,228人775,657人24%
10月3,896,524人715,804人18%
11月3,517,659人562,184人16%
12月3,617,791人330,435人9%

出典:JNTO月別推計値(2025年は確定値)。

2025年11月に中国政府の注意喚起が出てから、中国からの訪日客はすでに減り始めていました。仮に「中国は2026年1〜8月と同じく前年の43%、中国以外は1〜8月と同じく+14%」で推移すると、前年同月比は9月-2.7%、10月+1.1%、11月+2.8%、12月+7.6%と試算できます。※注2 2026年の年間合計は約4,225万人となり、2025年の4,268万人を1%ほど下回る水準です。

※注2:2025年11〜12月の中国はすでに減少していたため、この試算は11〜12月の中国の減少を大きめに見積もっています。実際の前年比は、試算より上振れする可能性が高いと考えられます。

10月の国慶節(2026年は10月1〜7日の7連休)について、やまとごころ.jpはAirbnbのデータとして「日本は中国人旅行者の海外旅行先で5位」と伝えています。一方で、同記事によると8月時点で日中間の18路線が全便運休、日本行きの欠航率は30.1%でした。旅行先としての人気はあっても、航空座席が戻らなければ人数は戻りません。国慶節の中国需要は、前年並みを前提にしないほうが安全です。

秋は国内の需要も強い時期です。宿泊統計では、稼働率のピークが8月から10月へ移っています(参考:ホテルの繁忙期は8月から10月へ:稼働率逆転が示す秋シフトの実像)。訪日客の前年比がプラスに戻ることと、国内需要が強いことが重なる10〜12月は、8月の感覚で価格を下げる必要はありません。

ホテルは何を見ればよいか:自館の「換算人数」を出す

全国の穴埋め率は、そのまま自館には当てはまりません。中国比率が高かった施設ほど穴は深く、もともと韓国・台湾が中心だった施設はむしろ追い風を受けています。都市部と地方の違いについては訪日客が都市を離れた!地方シェア32.7%とゴールデンルート減速の実像で、宿泊統計をもとに整理しています。

自館での確認手順は次のとおりです。

  1. PMSから国籍別の3指標を出す:2025年と2026年の同じ月について、国籍別の「予約件数・延べ泊数・客室売上」を出します。国籍が入っていない予約は「不明」として分けておきます
  2. 1予約あたりの泊数と客室単価を並べる:中国の予約1件を置き換えるのに、韓国・台湾の予約が何件要るかを計算します。これが自館の「換算人数」です
  3. 穴埋め率を件数と売上の両方で出す:件数で8割埋まっていても売上で5割なら、足りない分は客室単価か連泊で補うしかありません
  4. オペレーション負荷を足す:短期滞在が増えると、チェックイン件数と清掃回数が増えます。1室1泊あたりの清掃・フロントの人時を、売上と並べて見ます
  5. 月ごとに販売方針を分ける:前年の中国比率が高かった月(自館の7〜8月など)は連泊プランと直販を厚くし、前年から中国比率が低かった月は前年比の回復を前提に単価を維持します

客室単価そのものの動きは、シティホテルのRevPARが前年割れ:客室単価の上昇が止まった4〜6月の読み方で詳しく扱いました。価格と需要の関係を体感で確かめたい場合は、hotelx.tech運営チームが公開しているブラウザゲーム「ホテルRMチャレンジ」で、値付けと残室の判断を試すこともできます。

市場別の打ち手:どの客層を増やすかで施策が変わる

狙う市場特徴(2026年4-6月期)効きやすい施策注意点
韓国3.6泊・宿泊費3.1万円。8月は+28.7%週末・短期の単価管理、LCCの到着時刻に合わせたアーリーチェックイン件数に対して売上が伸びにくい。清掃負荷が増える
台湾・香港6泊前後・宿泊費6.4万〜7.3万円地方周遊と組み合わせた連泊プラン、リピーター向け直販台風シーズンの欠航リスク。キャンセル規定の設計が要る
欧米豪・中東10泊以上・宿泊費13万〜22万円客室タイプの上位化、長期滞在向けの洗濯・キッチン対応人数が少なく、1施設で埋めるのは難しい。販路は海外OTAと旅行会社が中心
中国(回復待ち)観光・レジャー目的で6.9泊・宿泊費7.2万円団体・MICEの受け入れ体制を維持し、航空便の再開情報を追う回復の時期は政治判断次第。回復を前提に予算を組まない

為替も客層の構成を変える要因です。円高に振れると、欧米豪の長期滞在客ほど予算が目減りします(参考:164円から155円へ乱高下:円安・円高がホテル収益に効く経路を分解)。

デメリット・リスク:この分析の限界と、判断を誤りやすい点

  • 単価は四半期の全国平均:4〜6月期の国籍別単価を8月に当てはめています。単価は季節や旅行の目的によって変わるため、8月の実際の金額とはずれがあります。7-9月期の速報(例年10月中旬に公表)で確かめ直す必要があります
  • 8月は推計値:JNTOの2026年の数字は推計値で、後日の暫定値で修正されます
  • 訪日客数は宿泊者数ではない:JNTOの訪日外客数には、留学生や駐在員とその家族、クルーズ船の乗客(多くは船内に泊まる)が含まれます。ホテルの実績と直接比べるときは、観光庁の宿泊旅行統計の外国人延べ宿泊者数と併せて見る必要があります
  • 韓国・台湾への集中:2市場で5割という状態は、為替・航空運賃・天候・両国の景気の影響をまとめて受けます。中国への依存が別の依存に置き換わっただけ、という面があります
  • 中国の回復が急に来る可能性:航空便の減便指示や注意喚起が解除されれば、需要は短期間で都市部に戻ります。そのとき韓国・台湾向けに低めの価格で販売済みの在庫があると、単価を上げる余地が残りません。販売期間の長いプランの価格は、定期的に見直せる設計にしておきます

まとめ

2026年8月の訪日外客数は309万8,900人(-9.6%)でした。中国の減少(-60万人)に対して他の市場の増加(+27万人)は45%にとどまり、2026年で最も低い穴埋め率になりました。国籍別の宿泊費で重み付けすると穴埋め率は約29%、延べ泊数では2割前後です。人数の見出しよりも、ホテルの売上にとっての穴は深いというのが8月の実態です。

一方で、9月以降は2025年の中国の数字が下がり始めるため、前年同月比は10月以降にプラスへ戻る見込みです。前年比の回復を「需要の回復」と読み違えないために、自館では国籍別の件数・泊数・客室売上を並べ、中国1予約を何件で置き換えているかを確認してください。月ごとに前年の客層を振り返り、連泊と客室単価で差を埋める月と、単価を維持する月を分けて考えることが、2026年秋の販売判断の基本になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 2026年8月の訪日外客数は何人でしたか。

JNTOの推計値で309万8,900人、前年同月比9.6%減です。韓国・台湾・香港・米国など14市場が8月として過去最高を記録し、イタリアとスペインは単月として過去最高でした。

Q2. 中国からの訪日客はなぜ減っているのですか。

JNTOは、中国政府による日本への渡航を控えるよう求める注意喚起と、航空便の減便を理由に挙げています。2026年1〜8月の中国からの訪日客は290万4,600人で、前年同期比56.7%減です。

Q3. 「穴埋め率」とは何ですか。

中国の前年同月比の減少分に対して、中国以外の市場の増加分が何%にあたるかを示す、本稿独自の指標です。100%以上なら中国の減少を他の市場で埋め切ったことになります。2026年8月は人数ベースで45%でした。

Q4. なぜ宿泊費で測ると穴が大きくなるのですか。

増えた市場の中心である韓国は平均3.6泊・1人当たり宿泊費3万890円と短期滞在が中心で、中国(1人当たり宿泊費7万8,793円)の約4割だからです。中国1人分の宿泊費を韓国で置き換えるには約2.6人が必要です。

Q5. 9月以降も前年割れは続きますか。

2025年の中国の訪日客は9月の77.6万人から12月の33.0万人まで減っていたため、比べる前年の数字が下がっていきます。編集部の試算では、9月は小幅なマイナス、10月以降は前年同月比プラスに戻る見込みです。

Q6. 国慶節(10月)に中国の旅行者は戻りますか。

旅行先としての人気は残っていますが、8月時点で日中間の18路線が全便運休、欠航率は30.1%と報じられています。航空座席が戻らない限り、人数の大きな回復は見込みにくい状況です。

Q7. 自館では何から始めればよいですか。

PMSから2025年と2026年の同じ月の国籍別「予約件数・延べ泊数・客室売上」を出し、1予約あたりの泊数と客室単価を並べてください。件数と売上の両方で穴埋め率を出すと、足りない部分が単価なのか連泊なのかが分かります。

Q8. 訪日消費額が過去最高なら、ホテルも好調なのではありませんか。

2026年4〜6月期の訪日消費額は2兆5,096億円で前年同期比+0.2%でしたが、宿泊費は9,278億円で前年同期から3.7%減っています。消費額の増加は飲食・娯楽・買物が中心で、宿泊には及んでいません。

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年8月推計値)」観光庁「インバウンド消費動向調査2026年4-6月期(1次速報)の結果について」やまとごころ.jp「2026年中国・国慶節は最大13連休、旅行者はどこへ?」

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