はじめに：なぜ今、ホテリエに英語力が求められるのか
ホテル業界への就職や転職を考えている皆さん、そして既にホテリエとしてキャリアを歩み始めている皆さん、こんにちは。この業界で働く魅力の一つは、世界中から訪れる多様なゲストとの出会いではないでしょうか。そして、その出会いをより豊かで意味のあるものにするために、今や「語学力」、特に「英語力」は避けて通れないスキルとなっています。
コロナ禍を経てインバウンド観光が急速に回復し、日本のホテルは再び多くの外国人ゲストで賑わっています。政府も観光立国を推進しており、今後もこの流れは加速していくでしょう。このような状況下で、英語力はもはや一部の外資系ホテルや国際派スタッフだけの「特別なスキル」ではありません。あらゆる価格帯、あらゆる地域のホテルで求められる「必須のビジネススキル」へと変わりつつあります。
しかし、「英語ができないとホテリエになれないの？」「どれくらいのレベルが必要なの？」と不安に思う方も多いかもしれません。この記事では、ホテル業界の先輩として、現場で本当に求められる英語力の実態と、それが皆さんのキャリアをどのように豊かにしていくのか、そして具体的な学習法について、一つのテーマに絞って掘り下げていきたいと思います。
ホテルの現場で求められる「伝わる」英語力
「英語力」と一言で言っても、求められるレベルはホテルの格式や部署によって様々です。しかし、共通して言えるのは「完璧な文法や発音よりも、相手に伝えようとする姿勢と、相手の言わんとすることを理解しようとする努力が最も重要」だということです。
部署ごとに異なる英語の役割
例えば、ホテルの「顔」であるフロントやコンシェルジュでは、ゲストからの多岐にわたる質問やリクエストに正確かつ丁寧に応えるための会話力が求められます。チェックイン・チェックアウト手続きはもちろん、観光地の案内、交通手段の説明、レストランの予約代行など、その内容は多岐にわたります。
一方で、レストランのサービススタッフであれば、メニューの説明やアレルギーの確認、おすすめの料理を提案するといった、特定の状況に特化した語彙や表現が中心になります。予約部門であれば、電話やメールでのやり取りが主になるため、リスニング力やライティング力がより重要視されるでしょう。
大切なのは「おもてなしの心」を言葉に乗せること
重要なのは、テストの点数で測れるような英語力だけではありません。ゲストが何か困っている表情をしていたら、「May I help you?」と声をかける。言葉に詰まってしまったゲストの言いたいことを、キーワードから推測して「Are you looking for the station?（駅をお探しですか？）」と助け舟を出す。このような、おもてなしの心を起点としたコミュニケーションこそが、ホテリエに求められる英語力の核心です。
最初は単語の羅列でも構いません。大切なのは、伝えたいという気持ちです。その気持ちがあれば、ジェスチャーを交えたり、翻訳アプリを使ったりと、方法はいくらでも見つかります。そして、そうした経験の積み重ねが、結果として皆さんの英語力を着実に向上させてくれるのです。
英語力が拓くホテリエとしてのキャリアパス
英語力を身につけることは、日々のゲスト対応をスムーズにするだけでなく、皆さんのキャリアの可能性を大きく広げるための強力な武器となります。
1. 国内でのキャリアアップ
国内においても、英語力はキャリアアップの重要な要素です。特に、国際的なブランド基準でのサービスが求められる外資系ホテルや、富裕層をターゲットとするラグジュアリーホテルへの転職を考える際には、ビジネスレベルの英語力は必須条件となることが多いです。また、現場での経験と英語力を活かして、インバウンド誘致を担当するセールス部門やマーケティング部門へ異動したり、将来的には総支配人を目指したりする上でも、英語での交渉やプレゼンテーション能力は不可欠です。
2. 海外へと広がる活躍の舞台
もし皆さんが将来的に海外で働くことを視野に入れているなら、英語力はその夢を実現するためのパスポートになります。多くの国際的なホテルチェーンでは、社内公募制度や研修プログラムを利用して、海外の系列ホテルで働くチャンスがあります。日本の「おもてなし」の心とスキルを持った人材は、海外でも高く評価されます。そこに英語力が加わることで、活躍の舞台は世界中に広がっていくでしょう。日系ホテルの海外進出も活発であり、現地のスタッフをまとめるマネージャーとして赴任する道も考えられます。
ホテリエのための実践的・継続的な英語学習法
では、現場で活かせる英語力を身につけるためには、具体的に何をすれば良いのでしょうか。ここでは、忙しい業務の合間にも実践できる、継続可能な学習法をいくつかご紹介します。
インプット：ホテル英語のシャワーを浴びる
まずは、ホテルで使われる英語に慣れることが大切です。日常的に英語に触れる環境を作りましょう。
- 業界ニュースサイトを読む：海外のホテル業界ニュースサイト（例：Skift や Hospitality Net）は、業界の最新トレンドと共に、専門用語やビジネス表現を学ぶ絶好の教材です。
- YouTubeやPodcastを活用する：海外の旅行系YouTuberが紹介するホテルレビュー動画は、ゲスト目線のリアルな英語表現の宝庫です。また、通勤中にホテル業界に関するPodcastを聴くのも良いでしょう。
- 好きな海外ドラマや映画を英語で観る：まずは楽しむことが継続の秘訣です。ホテルが舞台の作品を選べば、楽しみながら自然と接客フレーズが身につきます。
アウトプット：間違いを恐れず使ってみる
インプットした知識は、実際に使わなければ身につきません。積極的にアウトプットの機会を作りましょう。
- オンライン英会話を活用する：マンツーマンで話す練習ができるオンライン英会話は、非常に効果的です。「ホテルのフロント」といった具体的なシチュエーションを設定してロールプレイングをお願いすれば、即戦力となるスピーキング力を養えます。
- 同僚とのロールプレイング：英語が得意な同僚や先輩に協力してもらい、空き時間にお客様役とスタッフ役に分かれて練習するのも良い方法です。お互いにフィードバックし合うことで、新たな気づきも得られます。
- 独り言トレーニング：「お客様が〇〇を求めている。私なら何と説明するだろう？」といった場面を想定し、英語で独り言を言ってみるトレーニングも有効です。声に出すことで、表現が記憶に定着しやすくなります。
マインドセット：完璧主義を捨てる
最も大切なのは、マインドセットかもしれません。最初から完璧な英語を話そうと気負う必要はありません。大切なのは、伝えようとする気持ちと、相手を理解しようとする姿勢です。間違いを恐れずに積極的にコミュニケーションを取ることで、ゲストとの距離は縮まり、結果的に英語力も上達していきます。あなたの「おもてなし」の心は、言葉の壁を越えて必ずゲストに伝わるはずです。
まとめ
ホテリエにとっての英語力は、単なるコミュニケーションツールに留まりません。それは、ゲストにより深い満足を提供し、自身のキャリアの選択肢を広げ、そして何よりも仕事の楽しさとやりがいを増幅させてくれる、強力な武器となります。
インバウンド需要が高まり続ける今、英語力を磨くことは、未来の自分への最高の投資です。日々の業務の中で、一つでも多くの「伝わった」という成功体験を積み重ねていくこと。その小さな一歩が、皆さんを世界に通用する素晴らしいホテリエへと成長させてくれるはずです。まずは、目の前のゲストが何を伝えたいのか、真剣に耳を傾けることから始めてみませんか。
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