ホテル経営の新指標「TRevPAR」とは?RevPARを超える収益最大化戦略

ビジネス戦略とマーケティング

RevPARだけでは不十分?ホテル経営の新指標「TRevPAR」の重要性

ホテルの収益性を測る指標として、多くのホテル経営者やマーケターが長年「RevPAR(Revenue Per Available Room)」を重視してきました。RevPARは「販売可能な客室1室あたりの収益」を示し、客室稼働率と平均客室単価(ADR)を掛け合わせることで算出される、宿泊部門のパフォーマンスを測る上で非常に重要なKPIです。しかし、顧客のニーズが多様化し、ホテルが提供する価値が宿泊だけに留まらなくなった現代において、RevPARだけでホテル全体の経営状況を正確に把握することは困難になりつつあります。

レストランでの食事、スパでのリラクゼーション、宴会場でのイベント、あるいはユニークなアクティビティの提供など、宿泊以外の「付帯サービス」がホテル全体の収益とブランド価値に与える影響はますます大きくなっています。そこで注目されているのが、ホテル全体の収益力を評価するための新しい指標、「TRevPAR(Total Revenue Per Available Room)」です。

本記事では、このTRevPARとは何か、なぜ今この指標が重要なのか、そしてTRevPARを向上させるための具体的な戦略について深掘りしていきます。

TRevPAR(Total Revenue Per Available Room)とは?

TRevPARは、その名の通り「販売可能な客室1室あたりの総収益」を意味します。RevPARが宿泊部門の収益のみを対象とするのに対し、TRevPARは宿泊収益に加えて、飲食(F&B)、宴会(MICE)、スパ、駐車場、リテールなど、ホテル内で生み出されるすべての収益を合算して算出します。

計算式: TRevPAR = 総収益(全部門の合計) ÷ 総販売可能客室数

RevPARとTRevPARの最も大きな違いは、評価の対象となる収益の範囲です。以下の表でその違いを整理してみましょう。

指標 対象となる収益 示すもの
RevPAR 宿泊部門の収益 宿泊部門の販売パフォーマンス
TRevPAR 宿泊、飲食、宴会、スパなど全部門の収益 ホテル全体の総合的な収益力

例えば、客室単価は低いものの、レストランやスパの利用率が非常に高い顧客層がいるとします。RevPARの視点から見ると、この顧客層はあまり魅力的ではないかもしれません。しかし、TRevPARの視点で見れば、彼らはホテル全体にとって非常に価値の高い優良顧客であると判断できます。このように、TRevPARはホテル経営の視点を「客室」から「施設全体」へと広げ、より正確な経営判断を可能にするのです。

なぜ今、TRevPARが重要視されるのか

現代のホテル業界においてTRevPARが重要性を増している背景には、いくつかの要因があります。

1. 顧客体験(CX)の価値向上

現代の旅行者は、単に「泊まる場所」としてホテルを選ぶのではなく、「そこでしか得られない体験」を求めています。美味しい食事、心身を癒すウェルネスプログラム、地域文化に触れるアクティビティなど、付帯サービスが提供する体験価値がホテル選びの重要な決定要因となっています。TRevPARは、こうした体験価値がどれだけ収益に結びついているかを可視化し、顧客体験向上のための投資判断に役立ちます。

2. 収益源の多角化とリスク分散

パンデミックや景気変動など、外部環境の変化によって宿泊需要が急激に落ち込むリスクは常に存在します。そのような状況下でも、レストランやスパ、宴会部門が安定した収益を上げていれば、ホテル全体の経営を支えることができます。TRevPARを指標とすることで、各部門の収益貢献度を把握し、バランスの取れた収益ポートフォリオを構築する意識が高まります。

3. データに基づいた戦略的意思決定

TRevPARを正確に把握するには、PMS(宿泊管理システム)やPOS(販売時点情報管理システム)、宴会予約システムなど、部門ごとに分散したデータを統合・分析する必要があります。これはまさにホテルDXの中核をなす取り組みです。データを統合することで、「どのような顧客が」「どのサービスを」「いくら利用しているのか」といった顧客行動を詳細に分析でき、より効果的なアップセルやクロスセルの戦略立案、パーソナライズされたマーケティング施策の実行が可能になります。

TRevPARを最大化するための戦略

TRevPARを高めることは、単に各部門の売上を伸ばすことだけを意味しません。部門間の連携を強化し、ホテル全体として顧客に提供する価値を最大化する取り組みが不可欠です。

1. 部門横断でのデータ統合と顧客分析

TRevPAR向上の第一歩は、データのサイロ化を解消することです。各部門のシステムを連携させ、顧客データを一元管理する基盤を構築します。これにより、例えば「過去に記念日プランで宿泊し、ディナーで特定のワインを注文した顧客」に対して、次回の来訪前にレストランの特別コースとワインのペアリングを提案する、といった高度にパーソナライズされたアプローチが実現します。

2. 付帯サービスの魅力を高め、外部に発信する

ホテルのレストランやバー、スパを、宿泊者だけのものではなく、地域住民にとっても魅力的な「デスティネーション」としてブランディングします。グルメイベントの開催、インフルエンサーを起用したプロモーション、地域メディアとの連携などを通じて、宿泊以外の目的での来館を促し、新たな収益源を開拓します。

3. 戦略的なパッケージプランの設計

宿泊と付帯サービスを組み合わせたパッケージプランは、TRevPAR向上に直結する有効な手段です。ただし、単なる割引セットではなく、「スパで癒されるウェルネスステイ」「地元の食材を堪能する美食プラン」など、顧客のニーズや滞在目的に合わせたテーマ性のあるパッケージを設計することが重要です。これにより、顧客は付加価値を感じ、結果として客単価の向上につながります。

4. テクノロジーを活用したアップセル・クロスセルの自動化

客室予約後の確認メールや、チェックイン前に送るリマインドメール、客室内のタブレットなどを活用し、付帯サービスの予約を促す仕組みを構築します。CRMやMA(マーケティングオートメーション)ツールを用いて顧客の属性や過去の利用履歴に基づいた提案を自動化することで、機会損失を防ぎ、効率的に収益を最大化できます。

まとめ

RevPARが宿泊部門の健全性を示す重要な指標であることに変わりはありません。しかし、ホテルが提供する価値が多様化し、顧客が求める体験が複雑化する中で、ホテル全体の収益力を測るTRevPARの重要性はますます高まっています。

TRevPARを経営指標として導入することは、単に数字を追うだけでなく、部門間の壁を取り払い、ホテル全体で顧客体験を創造するという組織文化への変革を促します。データに基づき、全部門が連携して収益最大化を目指す。これこそが、これからの時代に求められるホテル経営の姿であり、真のホテルDXがもたらす価値と言えるでしょう。

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