2026年、ホテルは「タビナカ」で稼ぐには?Expedia買収と3つの戦略

宿泊ビジネス戦略とマーケティング
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はじめに

2026年現在、ホテルの収益構造は「宿泊(Room)」から「全収益(TRevPAR)」の最大化へと完全にシフトしました。その鍵を握るのが、宿泊客が滞在中に消費するツアーやアクティビティ、いわゆる「タビナカ(Experiences)」市場です。世界最大のOTA(オンライン旅行代理店)の一つであるExpedia Groupが、観光施設予約の「Tiqets」を約2.8億ドルで買収したニュースは、ホテル業界にとっても他人事ではありません。

本記事では、この巨大買収の背景にある「タビナカ」戦略を深掘りし、ホテルの現場がどのようにデジタルとリアルを融合させて収益を上げるべきか、具体的な手順と判断基準を解説します。ただ部屋を売るだけのビジネスモデルから脱却し、滞在体験すべてをマネタイズするヒントが見つかるはずです。

編集部員

編集部員

編集長、ExpediaがTiqetsを買収したニュース、かなり話題ですね。ホテルとしては、OTAにまた手数料を取られるだけのように感じてしまいますが……。

編集長

編集長

確かにそう見えるかもしれないね。でも、この動きはホテルが「コンシェルジュ業務をデジタル化し、かつ収益化する」ための大きなインフラが整ったとも言えるんだ。現場の負担を減らしつつ、TRevPARを底上げするチャンスだよ。

結論

2026年、ホテルが収益を最大化するには、Expediaなどのプラットフォームが強化する「デジタル・タビナカ在庫」を自社のゲストサービスに組み込むことが必須です。 宿泊客の興味関心に基づき、適切なタイミングで周辺施設のチケットやツアーをデジタル提案することで、コンシェルジュの業務負荷を削減しながら、紹介手数料(アフィリエイト収益)や顧客満足度の向上を同時に実現できます。もはや「場所を貸す」だけではなく、「地域のゲートウェイ」として体験を仲介する機能がホテルの競争力を左右します。

なぜExpediaはTiqetsを約2.8億ドルで買収したのか?

米Skiftの報道(2026年5月9日公開)によると、Expedia Groupは2025年第1四半期に、アムステルダムを拠点とする観光施設予約プラットフォーム「Tiqets」を2億7,900万ドル(約430億円)で買収しました。この買収により、Expediaは世界中の主要な美術館、テーマパーク、観光スポットのリアルタイム在庫を直接確保したことになります。

この背景には、以下の3つの狙いがあると考えられます。

  • B2B事業の強化: ホテルや他の旅行会社に対し、Tiqetsの在庫をAPI(システム連携窓口)経由で提供し、販売網を広げること。
  • Airbnbへの対抗: Tiqetsの株主であったAirbnbがこの売却で7,000万ドルの利益を得た一方、Expediaは「体験」の在庫を自社ブランドへ統合し、ユーザーの囲い込みを加速させています。
  • データドリブンな提案: 宿泊予約データとアクティビティ予約データを組み合わせることで、顧客一人ひとりに最適な「次の行動」をAIで提示するため。

ホテルのTRevPARを左右する「タビナカ」市場の現状

観光庁の「宿泊旅行統計調査」や各種市場データによると、2020年代半ば以降、宿泊客の消費行動は「モノ(土産物)」から「コト(体験)」へ顕著に移行しています。特にインバウンド客において、宿泊費以外の支出(体験・飲食・交通)が占める割合は増加傾向にあります。

ここで重要になるのが、TRevPAR(Total Revenue Per Available Room:1室あたりの全収益)という指標です。客室単価(ADR)だけに頼る経営は、周辺の競合との価格競争に巻き込まれやすいですが、滞在中の体験を販売することで、客室外の収益源を確保できます。詳しいTRevPARの定義については、以下の過去記事で解説しています。

前提理解:TRevPAR(全収益)とは何か?

現場スタッフの負担を減らし、収益を上げる3つの手順

Expediaのような巨大プラットフォームがタビナカ在庫をデジタル化したことで、ホテル側は高価な自社システムを開発することなく、以下の手順で収益化を図ることが可能になりました。

1. デジタル・コンシェルジュへの在庫統合

従来のコンシェルジュ業務では、スタッフが電話で予約を代行し、紙のバウチャーを渡すといったアナログな対応が主流でした。これを、ExpediaやTiqetsのB2Bプラットフォームと連携した客室タブレットや公式LINEに置き換えます。ゲストが自らスマホでチケットを購入すれば、ホテル側には自動的に紹介手数料が計上されます。

2. 「リアル」と「デジタル」の役割分担

福岡のコンサルティング企業などが提唱する「リアルマーケティング」の重要性(2026年5月のコラム参照)も見逃せません。単純なチケット販売はデジタルに任せ、現場スタッフは「POPの一筆メッセージ」や「常連さんとの会話」を通じて、そのゲストに本当に合った体験をレコメンドする役割に集中します。デジタルは「決済と発券」、人間は「きっかけ作り」と分担するのが正解です。

3. TRevPAR最大化のための部門統合

宿泊部門と飲食・アクティビティ部門が分断されていると、機会損失が発生します。例えば、朝食会場のデジタルサイネージで、その日の周辺施設の空き状況をリアルタイム表示するなどの連携が必要です。部門を跨いだデータ活用手順については、こちらの記事が参考になります。

次に読むべき記事:ホテルがTRevPARを30%伸ばす部門統合の手順

編集部員

編集部員

なるほど。スタッフがすべての観光知識を暗記しなくても、信頼できるプラットフォームの在庫を案内すれば、ミスも減るし収益にもなるんですね!

編集長

編集長

その通り。特に2026年の今は、AIが顧客の属性から「次に好む体験」を予測してくれる。ホテル側は、その提案をどのチャネルで、どのタイミングで出すかを設計するだけでいいんだ。

導入の課題:コストと運用リスク

メリットが多い一方で、導入には慎重な検討も必要です。以下の比較表で、自社開発とプラットフォーム活用の違いを確認してください。

比較項目 大手プラットフォーム連携(Expedia/Tiqets等) 自社独自開発・直接提携
導入コスト 低い(初期費用ゼロのモデルが多い) 高い(システム開発、契約交渉)
在庫の豊富さ 世界中の施設を網羅 提携した特定施設のみ
収益率(利益率) 低い(数%〜10%の手数料) 高い(直接卸価格でマージンを抜ける)
運用負荷 低い(予約・決済が完結) 高い(在庫管理、精算業務)
顧客体験(CX) 標準的。どこでも買える感覚。 高い。ホテル独自の限定プランが可能。

注意点: 外部プラットフォームに依存しすぎると、顧客データ(PMSへの蓄積)が不十分になるリスクがあります。どのチャネルから予約されたかを追跡し、次回の滞在提案に活かせる仕組み(CDP:カスタマー・データ・プラットフォーム)との連携を忘れてはいけません。

専門用語の解説

  • Tiqets(チケッツ): 世界各地の文化施設やアトラクションの入場券を即時予約・発券できるプラットフォーム。今回の買収でExpedia傘下へ。
  • API(Application Programming Interface): 異なるソフトウェア同士が情報をやり取りするための仕組み。ホテルの客室タブレットからExpediaの在庫を呼び出す際に使われる。
  • Experiences(体験): 単なる観光地の入場券だけでなく、現地ガイドツアーやワークショップなどの「体験型コンテンツ」の総称。

よくある質問(FAQ)

Q1:小規模なビジネスホテルでも導入するメリットはありますか?

A1:大いにあります。むしろスタッフが少ないホテルこそ、コンシェルジュ業務をデジタル化することで、人件費を抑えつつ手数料収益を得られるメリットが大きいです。

Q2:Expediaを通すと手数料が取られますが、直提携の方が良くないですか?

A2:収益率だけで見れば直提携が有利ですが、周辺10施設と個別に契約・精算を行う運用負荷は膨大です。まずは主要施設をプラットフォームでカバーし、目玉となる施設のみ直提携するハイブリッド戦略を推奨します。

Q3:ゲストが自分でスマホを使って予約してしまったら、ホテルは儲かりませんか?

A3:ホテルのWi-Fiログイン画面や、客室のQRコード経由で予約してもらう仕組み(アフィリエイト)を構築すれば、ゲストが自ら操作してもホテルに収益が入ります。

Q4:アクティビティのキャンセル対応が大変そうですが……。

A4:プラットフォーム連携の最大の利点は、キャンセル対応がシステムの規定に則って自動で行われる点です。ホテル側が返金作業を代行する必要はありません。

Q5:どのくらいの収益が見込めますか?

A5:立地や客層によりますが、インバウンド比率の高い都市部ホテルでは、TRevPARを3〜5%程度押し上げる事例が確認されています。

Q6:スタッフに販売ノルマを課すべきでしょうか?

A6:ノルマよりも、ゲストの「困りごと」を解決した結果としての利用を評価する指標を設けるべきです。無理な勧誘は顧客満足度を下げ、逆効果になります。

Q7:2026年現在のトレンドとして、どんな体験が売れていますか?

A7:オーバーツーリズムを避けた「早朝・夜間の限定入場」や、地域住民との「没入型文化体験」が、富裕層を中心に高単価で取引されています。

Q8:導入に必要な期間は?

A8:既存の客室タブレットや公式LINEがある場合、API連携のみであれば1〜2ヶ月程度で稼働可能です。

まとめ:ホテルの役割は「空間提供」から「体験編集」へ

ExpediaによるTiqetsの買収は、旅行者が「どこに泊まるか」と同じかそれ以上に「そこで何をするか」を重視している現状を象徴しています。2026年のホテル経営において、タビナカ市場を無視することは、収益の大きなパイをOTAに明け渡しているのと同じです。

デジタル技術(DX)を駆使して定型的な予約業務を効率化し、浮いた時間でスタッフがゲスト一人ひとりに寄り添った「体験の編集」を行う。これこそが、AI時代に選ばれるホテルの生存戦略となります。自社の強みと地域の魅力を再定義し、新しい収益の柱を構築していきましょう。

もし、現場の「整理・整頓」からDXを始めたいと考えているなら、こちらの記事も併せてお読みください。アナログな土台作りが、デジタル戦略の成功を左右します。

深掘り:ホテル激戦区を制す「整理整頓」とAI融合の秘策

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