2025年ホテル採用の切り札:ブランドパートナーシップが拓く「人材獲得力」と「従業員体験」

宿泊業での人材育成とキャリアパス
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はじめに

2025年、ホテル業界はかつてないほどの人材獲得競争に直面しています。インバウンド需要の回復と多様化するゲストニーズに対応するため、質の高いホテリエの確保は喫緊の課題です。しかし、少子高齢化による労働人口の減少、他業界との人材獲得競争の激化、そしてホテル業務に対する従来のイメージが、総務人事部にとって大きな壁となっています。

従来の採用戦略、例えば給与や福利厚生の改善、求人媒体への掲載だけでは、もはや優秀な人材を惹きつけ、長く定着させることは困難です。そこで今、総務人事部が注目すべきは、ホテルの「ブランド価値」を最大化し、それを採用力に繋げるという新たなアプローチです。ホテルのブランドは、単にゲストを惹きつけるだけでなく、潜在的な従業員にとっても「ここで働きたい」という強い動機付けとなるからです。

本稿では、ホテルブランド戦略が人材採用、育成、そして離職率低減にどのように寄与するのかを深く掘り下げ、具体的な施策について考察します。特に、外部との戦略的なブランドパートナーシップが、採用ブランディングに与える影響に焦点を当てていきます。

ブランド戦略が「採用力」を左右する時代

ホテル業界におけるブランド戦略は、これまで主にゲストの獲得やロイヤルティ向上を目的としてきました。しかし、現代においてその影響は顧客体験に留まらず、従業員のエンゲージメントや、ひいては新たな人材の獲得にも深く関わっています。魅力的なブランドを持つホテルは、単に宿泊施設としてだけでなく、「働く場所」としても輝きを放ちます。

総務人事部が認識すべきは、潜在的な従業員もまた、消費者と同じように企業のブランドイメージに敏感であるという点です。ホテルのブランドが持つ「物語」や「価値観」は、求職者にとってそのホテルで働くことの意義や誇りを感じさせる重要な要素となります。例えば、サステナビリティに力を入れているホテルであれば、環境意識の高い人材を惹きつけやすくなりますし、革新的なテクノロジーを積極的に導入しているホテルであれば、ITスキルを持つ人材からの注目を集めるでしょう。

ホテルが提供する「体験」は、ゲストだけでなく、そこで働く従業員の日常にも直結します。洗練された空間、質の高いサービス、そしてゲストとの感動的な出会いは、ホテリエにとっての「働く面白み」そのものです。これらの要素をブランドとして明確に打ち出し、企業文化や働く環境を積極的に可視化することが、採用ブランディングの根幹となります。ホテルブランドの真価は、現場の「泥臭い努力」が築く「記憶と物語」に宿りますが、その物語が従業員によって語られ、新たな人材を惹きつける力となるのです。ホテルブランドの真価:現場の「泥臭い努力」が築く「記憶と物語」

VERTU Hotels and Resortsの事例から学ぶ「ブランドパートナーシップ戦略」

ブランド価値を向上させるための戦略は多岐にわたりますが、特に効果的なのが、外部の著名人やブランドとのパートナーシップです。これは、ホテルのブランドイメージを刷新し、広範な層にアピールする強力な手段となります。

2025年10月16日、Hospitality Netは、VERTU Hotels and ResortsがFrédérique Viauroux氏をセレブリティ&ブランドパートナーシップコンサルタントに任命したことを報じました。この任命は、同グループの国際的なポートフォリオ全体の戦略的コミュニケーションと可視性を強化することを目的としています。VERTU Hotels and Resortsは、既にStella McCartneyとのグローバルパートナーシップ(国際女性デーを祝うミニーマウス初のパンツスーツデザインで3,500件以上の国際的なメディア露出を獲得)や、Zinedine Zidane、Neymar、John Legend、Diane Kruger、Rafael Nadalといった著名人との高レベルなコラボレーションを通じて、広範なメディア露出とブランドストーリーテリングを強化してきました。Viauroux氏のミッションは、映画、音楽、ファッション、スポーツ界のアンバサダーとホテルの間で意味のあるパートナーシップやイベントを構築し、ラグジュアリーホスピタリティにおけるブランドの魅力、メディアへの共鳴、文化的関連性を高めることです。

参照元:Frédérique Viauroux has been appointed Celebrity and Brand Partnerships Consultant at VERTU Hotels and Resorts – Hospitality Net

この戦略が人材採用に与える影響

VERTU Hotels and Resortsの事例は、総務人事部にとって非常に示唆に富んでいます。このようなブランドパートナーシップ戦略は、直接的に採用活動を行うものではありませんが、間接的に、そして非常に強力に採用力に影響を与えます。

  1. ブランド認知度と魅力の飛躍的向上: 著名人や影響力のあるブランドとのコラボレーションは、ホテルのブランドを一般のメディアやSNSで広く露出させます。これは、従来の広告ではリーチできなかった層にもホテルの存在を知らしめ、「あの有名人が関わるホテル」という強い印象を与えます。結果として、ホテルで働くことの「魅力」や「ステータス」が向上し、潜在的な候補者がそのブランドに惹きつけられやすくなります。
  2. 企業文化と従業員の誇りの醸成: 高レベルな外部コラボレーションは、従業員にとって自社ブランドへの誇りと帰属意識を高めます。自分たちのホテルが社会的に注目され、価値ある活動をしているという認識は、従業員のエンゲージメントを向上させ、離職率の低減にも寄与します。現場のホテリエからは、「有名人が関わるイベントの準備は大変だが、成功した時の達成感は大きい」「自分のホテルがメディアで取り上げられると、友人や家族に誇らしく話せる」といった声が聞かれます。このようなポジティブな感情は、働くモチベーションの源泉となり、長期的な定着に繋がります。長期勤続が育む「ホテルの心」:総務人事が挑む「泥臭い定着戦略」の全貌
  3. 多様なスキルセットとキャリアパスの需要創出: セレブリティ対応、大規模なブランドイベントの企画・運営、メディアリレーションズの強化など、ブランドパートナーシップは従来のホテル業務にはなかった新たなスキルや専門知識を現場に求めます。これは、ホテリエのキャリアパスを多様化し、専門性を高める機会を提供します。例えば、イベントマネジメント、PR、デジタルマーケティングといった分野での経験を積むことができ、「普段関われないような分野の専門家と一緒に仕事ができるのは刺激になる」といった現場の声も聞かれます。総務人事部は、これらの新たな役割に対応できる人材の育成や、外部からの専門人材の採用を検討する必要が出てきます。

ブランドパートナーシップがもたらす「従業員体験」の向上

ブランドパートナーシップは、単に外部へのアピールだけでなく、従業員自身の体験を豊かにする効果も持ちます。これは、総務人事部が人材定着戦略を考える上で非常に重要な視点です。

  • 誇りとエンゲージメントの向上: 従業員が自社のブランドに強い誇りを持てることは、エンゲージメントを高める上で不可欠です。有名ブランドや著名人との協業は、従業員に「自分たちは特別な場所で働いている」という感覚を与え、日々の業務へのモチベーションを向上させます。
  • キャリアパスの多様化と成長機会: 新しいタイプのイベントやプロジェクトに関わることで、ホテリエは従来の業務の枠を超えたスキルを習得できます。これは、個人のスキルアップだけでなく、ホテル業界全体のキャリアパスをより魅力的で多様なものに変える可能性を秘めています。例えば、イベント企画、メディア対応、ブランドコミュニケーションなど、新たな専門性を身につける機会が生まれます。
  • 「人間力」ではない「具体的なスキル」の向上: 曖昧な「人間力」という言葉ではなく、例えば、交渉力、プロジェクトマネジメントスキル、危機管理能力、異文化コミュニケーション能力など、具体的なビジネススキルが現場で磨かれます。外部のプロフェッショナルとの協業は、これらのスキルを実践的に学ぶ絶好の機会となります。

このような従業員体験の向上は、結果として離職率の低減に繋がり、ホテル全体の生産性向上に貢献します。総務人事は、ブランド戦略が従業員に与える影響を深く理解し、それを人材戦略に組み込む必要があります。ホテルの人財戦略の新潮流として、総務人事が「従業員体験」を創出し、「持続可能な成長」を築くことが求められているのです。ホテル人財戦略の新潮流:総務人事が創る「従業員体験」と「持続可能な成長」

総務人事が取り組むべき具体的な戦略

ブランドパートナーシップが採用力と従業員体験に与える影響を踏まえ、総務人事部が具体的に取り組むべき戦略は以下の通りです。

  1. 採用ブランディングの再構築:

    ホテルの企業ブランドと採用ブランドを密接に連携させ、一貫性のあるメッセージを発信することが重要です。単に業務内容を伝えるだけでなく、ホテルの持つユニークな価値、ブランドが目指すビジョン、そしてブランドパートナーシップを通じて得られる特別な経験を、採用メッセージに落とし込みます。ウェブサイトの採用ページ、SNS、採用イベントなど、あらゆるタッチポイントでブランドの魅力を最大限に伝える工夫が必要です。特に、ブランドパートナーシップによる華やかな活動の裏にある、現場の具体的な仕事内容や、そこで得られるスキルを具体的に示すことで、求職者の期待と現実のギャップを埋めることができます。

  2. キャリアパスの明確化と多様化:

    伝統的な部門縦割りのキャリアパスだけでなく、ブランド戦略部門、イベント企画部門、広報部門など、新たな専門職の創設や育成を検討します。ブランドパートナーシップによって生まれる新しい業務領域は、ホテリエにとって魅力的なキャリアパスとなり得ます。総務人事は、これらの新しい役割に必要なスキルセットを定義し、従業員がそれらのスキルを習得できるような研修プログラムやOJTの機会を提供する必要があります。例えば、外部のPR会社やイベント制作会社との協業を通じて、現場のスタッフが実践的なスキルを学ぶ機会を設けることも有効です。

  3. 従業員エンゲージメントの強化と情報共有:

    ブランド戦略への従業員の参加を促し、成功体験を組織全体で共有することが重要です。社内報やイントラネット、定期的な全体会議などで、ブランドパートナーシップの進捗や成果、それに貢献した従業員の活躍を積極的に情報発信します。これにより、従業員は自分たちの仕事がブランド価値向上に貢献していることを実感し、エンゲージメントを高めることができます。また、ブランドパートナーシップの企画段階から現場の意見を取り入れることで、従業員の主体性を育み、より実効性の高い戦略を構築することが可能になります。

  4. 「知識の資産化」と「学び直し」の促進:

    ブランドパートナーシップを通じて得られた新たな知見やノウハウは、ホテルの貴重な「知識資産」となります。総務人事は、これらの知識を組織全体で共有し、継続的な学習機会を提供する仕組みを構築する必要があります。例えば、プロジェクト終了後にナレッジ共有会を開催したり、成功事例をドキュメント化して社内データベースに蓄積したりすることが考えられます。これにより、特定の個人に依存せず、組織全体の能力向上に繋がります。2025年ホテル人事の挑戦として、総務人事が「知識の資産化」と「未来のホテリエ」を築くことが求められています。2025年ホテル人事の挑戦:総務人事が築く「知識の資産化」と「未来のホテリエ」

まとめ

2025年、ホテル業界における人材獲得と定着は、従来の枠組みを超えた戦略的アプローチを求めています。ブランド戦略、特に外部との戦略的なパートナーシップは、単なるマーケティング活動に留まらず、人材採用、育成、そして離職率低減に不可欠な要素となりつつあります。

VERTU Hotels and Resortsの事例が示すように、著名人や影響力のあるブランドとの協業は、ホテルのブランド価値を飛躍的に高め、それが結果として「ここで働きたい」という潜在的な求職者の意欲を刺激します。さらに、従業員にとっては、自社ブランドへの誇り、新たなスキル習得の機会、そして多様なキャリアパスの可能性をもたらし、エンゲージメントと定着率の向上に貢献します。

総務人事部は、ホテル全体のブランド戦略と密接に連携し、採用ブランディングの再構築、キャリアパスの多様化、従業員エンゲージメントの強化、そして知識の資産化と学び直しの促進に積極的に取り組むべきです。ブランド価値の最大化は、優秀な人材を獲得し、長く定着させるための強力な武器となり、2025年以降のホテル業界において持続的な成長を実現するための鍵となるでしょう。

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