脱・OTA依存。Googleマップがホテル集客の主戦場になる理由

ビジネス戦略とマーケティング

はじめに:OTA依存からの脱却という永遠の課題

ホテル業界における集客戦略を語る上で、OTA(Online Travel Agent)の存在は無視できません。多くのホテルにとってOTAは主要な集客チャネルであり、その恩恵は計り知れないものがあります。しかしその一方で、高い送客手数料、熾烈な価格競争、そして顧客データが自社に蓄積されにくいといった構造的な課題から、「OTA依存から脱却したい」という声が常に聞かれるのも事実です。特に近年、顧客のホテル探しの行動は大きく変化しており、OTAだけを見て宿泊先を決めるユーザーは減少しつつあります。

そんな中、新たな集客の主戦場として急速に重要性を増しているのが、Googleマップです。先日、株式会社カンリーが発表した調査レポートは、この変化を象徴するものでした。

【ホテル業界必見の無料レポート】出張利用者の約48%がGoogleマップでホテルを比較 OTAだけに頼らない集客戦略とは?
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000389.000037205.html

この調査によれば、出張でホテルを探すビジネス層の約半数が、OTAだけでなくGoogleマップを利用してホテルを比較検討していることが明らかになりました。これはもはや、無視できない数字です。本記事では、なぜ今Googleマップが集客において重要なのか、そしてホテルは具体的に何をすべきなのかを深掘りし、OTA依存からの脱却と、より健全な収益構造を築くためのヒントを探ります。

なぜGoogleマップがホテル集客の主戦場なのか?

ユーザーが「品川 ホテル」や「博多駅近くのホテル」といったキーワードで検索した際、検索結果の最も目立つ位置に何が表示されるでしょうか。多くの場合、それは地図情報、すなわちGoogleマップです。この時点で、ユーザーの視線はマップ上に表示された複数のホテルに注がれます。この「検索行動の変化」こそが、Googleマップの重要性を飛躍的に高めた最大の要因です。

ユーザーにとっての圧倒的な利便性

Googleマップが支持される理由は、その圧倒的な利便性にあります。ユーザーは地図上で、各ホテルの位置関係、料金、評価(クチコミスコアと件数)、そして写真を一覧で比較できます。気になるホテルをクリックすれば、詳細情報や公式サイトへのリンク、さらには直接予約するためのボタンまで表示されます。わざわざ複数のOTAサイトをタブで開いて比較検討する手間が、Googleマップ上で完結してしまうのです。このシームレスな体験は、特に時間のないビジネスユーザーや、旅先で急遽宿を探す観光客にとって非常に魅力的です。

「第三者プラットフォーム」としての信頼性

OTAサイトは広告や独自のアルゴリズムによって、特定のホテルが優先的に表示されることがあります。一方、Googleマップは比較的ニュートラルなプラットフォームと認識されており、ユーザーは「リアルなクチコミ」や「客観的な情報」を求めてアクセスする傾向があります。膨大な数のクチコミと、ユーザーが投稿した写真(ホテルの公式写真だけでなく)は、宿泊を検討する上で非常に重要な判断材料となります。ここで高い評価を得ることができれば、それは強力な信頼の証となります。

手数料を回避し、直販を強化するゲートウェイ

Googleマップ上のホテル情報(Googleビジネスプロフィール)には、公式サイトへのリンクを掲載できます。ユーザーをOTAを経由させずに直接自社の予約エンジンへ誘導できれば、OTAに支払う手数料(一般的に10%〜20%)を削減し、収益性を大幅に改善できます。これは、ホテル経営において極めて重要なポイントです。Googleホテル広告を利用する場合でも、OTA経由より低い手数料率で済むケースが多く、直販チャネルを強化する上で欠かせないツールとなっています。

今すぐ始めるべきGoogleビジネスプロフィールの最適化(MEO)

Googleマップ上で自社のホテルを魅力的に見せ、予約につなげるための施策はMEO(Map Engine Optimization)と呼ばれます。これは専門の業者に頼むこともできますが、多くの部分はホテルのDX担当者が自ら実践できる、低コストで効果の高いマーケティング手法です。

1. 基本情報の徹底的な整備

まず基本となるのが、Googleビジネスプロフィール(GBP)に登録されている情報の正確性を担保することです。ホテル名、住所、電話番号(NAP情報と呼ばれます)、公式サイトURLに間違いがないかを確認しましょう。特に、カテゴリを「ホテル」「旅館」「ビジネスホテル」など、自施設の実態に最も近いものに設定することが重要です。さらに、「属性」機能を使って、Wi-Fiの有無、駐車場の詳細、朝食提供、バリアフリー対応、プールやフィットネスセンターの有無といった詳細情報を可能な限り網羅的に入力してください。これらの情報は、ユーザーが絞り込み検索を行う際の重要なフィルターとなります。

2. 写真と動画で魅力を最大化する

宿泊施設の印象を最も左右するのは写真です。プロが撮影した高品質な写真を、外観、ロビー、客室の各タイプ、レストラン、大浴場、会議室など、あらゆる角度から十分に掲載しましょう。写真は常に最新の状態に保つことが重要です。数年前のリニューアル前の写真が残っていては、顧客をがっかりさせてしまいます。さらに、360°パノラマ写真(ストリートビュー)を導入すれば、ユーザーはバーチャルで館内を内覧でき、予約への安心感を高めることができます。

3. クチコミへの真摯な対応

クチコミは、GBPの評価を左右する最も重要な要素の一つです。良い評価には感謝の言葉を述べ、具体的な内容に触れて返信することで、他のユーザーにも良い印象を与えます。一方で、ネガティブなクチコミはホテルにとって耳の痛いものですが、これを無視するのは最悪の対応です。まずは真摯に謝罪し、指摘された問題点に対する改善策や今後の対応を具体的に示すことで、誠実な姿勢をアピールできます。このやり取りは、未来の宿泊候補者全員が見ています。ピンチをチャンスに変える重要なコミュニケーションの場と捉えましょう。

4. 「最新情報」と「Q&A」の活用

GBPには、ブログのように情報を発信できる「最新情報」という機能があります。「季節限定の宿泊プラン」「レストランの新メニュー」「近隣のイベント情報」などを定期的に投稿することで、プロフィールの鮮度を保ち、ユーザーへのアピールを強化できます。また、「Q&A」機能も重要です。ユーザーからの質問には迅速に回答しましょう。よくある質問(例:「チェックイン前に荷物を預けられますか?」など)は、自ら質問を投稿し、それに回答する形(自作自演)でFAQを整備しておくのも非常に有効なテクニックです。

まとめ:チャネルミックスの最適化が未来を創る

OTAは依然として強力な集客ツールであり、完全に排除する必要はありません。重要なのは、OTAと直販(公式サイトやGoogleマップ経由)のバランスを最適化する「チャネルミックス」の視点です。OTAで獲得した新規顧客に、次回の宿泊は公式サイトから予約するメリット(例:会員価格、レイトチェックアウト特典など)を伝え、リピーターとして囲い込んでいく。そのための入り口として、Googleマップと、その土台となるGoogleビジネスプロフィールを徹底的に強化すること。これが、OTA依存から一歩抜け出し、ホテルの収益性とブランド価値を高めるための、現代における王道のマーケティング戦略と言えるでしょう。まずは自社のGoogleビジネスプロフィールを見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました