これからのホテリエに必須の「企画力」とは?キャリアを拓くスキルの磨き方

人材育成とキャリアパス

ひとこと要約

これからのホテリエには、伝統的な接客スキルに加え、お客様を惹きつける「企画力」が不可欠です。本記事では、ホテル業界で企画力を磨く重要性と、そのための具体的なアクションプランを、就活生や若手ホテリエの皆さんに向けて、一歩踏み込んで解説します。

ホテルという職場は、日々多くのお客様と出会い、その大切な時間を彩る、非常にやりがいの大きい仕事です。丁寧な言葉遣いや美しい所作、お客様の気持ちを先読みするおもてなしの心。これらはホテリエとして働く上で、時代を問わず求められる普遍的なスキルです。

しかし、現代のホテル業界で一歩抜きん出た存在となり、自身のキャリアを豊かにしていくためには、もう一つの重要なスキルが求められています。それが「企画力」です。本日は、これからのホテリエにとってなぜ企画力が必要なのか、そしてそのスキルをどのように磨いていけば良いのかについて、少し先輩の視点からお話しさせていただければと思います。

なぜ今、ホテリエに「企画力」が求められるのか?

かつてホテルは「宿泊する場所」としての機能が主でした。しかし、お客様の価値観は大きく変化し、「モノ消費」から「コト消費」へとシフトしています。つまり、ただ泊まるだけでなく、そこでしか得られない特別な「体験」を求めてホテルを訪れる人が増えているのです。

最近のニュースを見ても、「水族館とコラボしたアフタヌーンティー」や「地元の食材をふんだんに使った特別なディナーコース」、「季節限定の充実したラウンジサービス」など、ホテルがユニークな企画を打ち出している例を数多く目にします。これらは単なる追加サービスではありません。お客様に「このホテルに泊まりたい」と思わせる、強力な動機付けとなる「企画」なのです。

このような変化の背景には、いくつかの要因があります。

1. 顧客ニーズの多様化と「体験価値」の重視

お客様は、単に快適なベッドや美味しい食事だけを求めているわけではありません。「そのホテルだからこそ体験できること」に価値を感じます。例えば、地域の文化に触れるワークショップ、ホテル内で完結するウェルネスプログラム、あるいは特定のテーマに沿ったコンセプトルームなど、記憶に残る体験を創造する力が、ホテルの競争力を左右します。

2. 競争環境の激化

オンライン・トラベル・エージェント(OTA)の普及により、お客様は価格や口コミを簡単に比較できるようになりました。また、民泊のような新しい宿泊形態も登場し、ホテル業界の競争はますます激しくなっています。こうした中で、価格競争に陥るのではなく、独自の魅力=企画力で選ばれる存在になることが不可欠です。

3. 収益源の多角化

ホテルの収益は、宿泊部門(客室売上)と料飲部門(レストランやバー)が大きな柱ですが、これだけに頼る経営は不安定です。宴会、イベント、スパ、アクティビティなど、宿泊以外の部分でいかに収益を上げていくかが重要になります。魅力的な企画は、新たな収益の柱を生み出す原動力となるのです。

ホテリエの「企画力」とは?5つの要素に分解する

「企画力」と聞くと、何か壮大なイベントを考え出すような、一部の特別な才能のように聞こえるかもしれません。しかし、実際には日々の業務に紐づいた、いくつかのスキルの集合体です。具体的には、以下の5つの力に分解できます。

1. 課題発見力

お客様との会話の中で「もっとこうだったら良いのに」という隠れたニーズを感じ取ったり、「平日のレストラン利用が少ない」「若年層の宿泊客が少ない」といったホテルの課題を見つけ出したりする力です。すべての企画は、何らかの課題解決からスタートします。

2. 情報収集・分析力

世の中のトレンド、競合ホテルの動向、自社の顧客データなどを集め、そこから企画のヒントを見つけ出す力です。なぜあそこのホテルは人気があるのか?自社の顧客はどんなことに興味を持っているのか?といった問いを立て、情報を集め、分析することが企画の精度を高めます。

3. アイデア創出力

集めた情報や発見した課題をもとに、「では、具体的に何をすべきか?」というアイデアを形にする力です。既存のサービスの組み合わせを変えたり、異業種の成功事例を参考にしたりと、自由な発想でユニークなアイデアを生み出します。

4. プレゼンテーション・交渉力

どんなに素晴らしいアイデアも、他者に伝わらなければ意味がありません。企画の目的や魅力を上司や他部署のメンバーに分かりやすく説明し、「面白そう、やってみよう」と思わせる力が必要です。また、予算を獲得したり、他部署の協力を取り付けたりするための交渉力も含まれます。

5. 実行・推進力

企画を絵に描いた餅で終わらせず、関係者を巻き込みながら最後までやり遂げる力です。詳細なスケジュールを立て、各担当者の役割を明確にし、進捗を管理する。地道なプロジェクトマネジメント能力が、企画の成否を分けます。

若手ホテリエが「企画力」を磨くための具体的なアクションプラン

では、これらの企画力を身につけるために、明日から何ができるでしょうか。特別な研修を受けなくても、日々の仕事の中に成長の機会はたくさんあります。

Step 1: 現場の「なぜ?」をメモする

まずは、お客様や同僚の言動、ホテルの仕組みに対して「なぜだろう?」と疑問を持つ癖をつけましょう。「なぜお客様はこのプランを選んだのだろう?」「なぜこの備品はこの場所にあるのだろう?」「もっとこうすれば、お客様は喜ぶのではないか?」こうした小さな気づきを、スマートフォンや手帳にメモする習慣から始めてみてください。それが課題発見の第一歩です。

Step 2: 小さな改善提案から始める

いきなり大きな企画を立てる必要はありません。例えば、「フロントに置くウェルカムドリンクの種類を季節ごとに変えてみてはどうか」「客室に置くレターセットに、近隣のおすすめ散歩マップを添えてはどうか」など、自分の持ち場でできる小さな改善案を考え、上司に提案してみましょう。提案が通る・通らないに関わらず、自分の頭で考えて行動する経験そのものが重要です。

Step 3: 「消費者」としての視点を磨く

休日は、ぜひ話題のホテルやレストラン、商業施設に足を運んでみてください。その際、「作り手」の視点で観察することが大切です。「なぜこの空間は心地よいのだろう?」「どんな客層をターゲットにしているのだろう?」「どんな工夫でリピーターを増やしているのだろう?」と分析しながら体験することで、情報収集力とアイデア創出力が鍛えられます。もちろん、当ブログのような業界情報サイトをチェックするのも有効です。

Step 4: A4一枚の企画書を書いてみる

温めているアイデアがあれば、パワーポイントなどを使わなくても構いませんので、A4用紙一枚にまとめてみましょう。以下の項目を埋めるだけでも、立派な企画書になります。

  • 企画のタイトル(仮)
  • 目的(誰の、どんな課題を解決するのか?)
  • ターゲット(どんなお客様に来てほしいか?)
  • 具体的な内容(いつ、どこで、何をするのか?)
  • 期待される効果(売上向上、顧客満足度アップなど)

これを信頼できる先輩や上司に見せてフィードバックをもらうことで、アイデアはより具体的で実現可能なものに磨かれていきます。

Step 5: 他部署の同僚と積極的に話す

良い企画は、一つの部署だけでは完結しません。レストランの企画であればフロントの協力が、宿泊プランの企画であればマーケティング部門の協力が必要です。普段から他部署のスタッフとコミュニケーションを取り、彼らがどんな仕事をしていて、どんな課題を持っているのかを理解しておくことが、いざという時にスムーズな連携を生み、企画の実現可能性を大きく高めます。

企画力が拓く、ホテリエとしての未来

企画力を磨くことは、あなたのキャリアパスを大きく広げることにつながります。

最初は現場のスペシャリストとして、お客様を喜ばせる小さな企画を次々と実現できる存在になるでしょう。やがてその実績が認められれば、ホテル全体の集客戦略を考えるマーケティング部門や広報部門へ異動する道も開けます。さらに、宿泊部門や料飲部門のマネージャー、そしてホテル全体の経営を担う総支配人(GM)へとステップアップしていく上で、収益を生み出しホテルの価値を高める企画力は、絶対に欠かせないスキルとなります。

おもてなしの心という「守り」のスキルと、新たな価値を創造する「攻め」のスキルである企画力。この両方を兼ね備えた人材こそが、これからのホテル業界をリードしていく存在になるはずです。

ホテル業界は、変化の激しい、挑戦しがいのあるフィールドです。日々の業務に真摯に取り組む中で、ぜひ「自分なら何ができるか?」という視点を持ち続けてください。その探求心が、あなたを唯一無二のホテリエへと成長させてくれると信じています。

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