ホテルは客室以外で稼ぐ?独立系ブランドが挑む3つの新収益源とは?

宿泊ビジネス戦略とマーケティング
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  1. 結論(先に要点だけ)
  2. はじめに:高級ホテル市場の変化と独立系ブランドの挑戦
  3. なぜWorldHotelsは急成長したのか?富裕層が求める「体験」への集中
    1. 2025年、100軒近いホテルが加盟:公式発表から読み解く事実
    2. 高級旅行者が「独立性」と「柔軟性」を求める理由
  4. 収益の柱を増やす戦略:「レジデンス、グランピング、ウェルネス」への拡大
    1. 1. ブランデッド・レジデンス:ホテル運営会社が住宅市場に参入する真の狙い
      1. なぜホテルはレジデンス事業に進出するのか?(業界構造の視点)
    2. 2. エクスペリエンシャル・トラベルの強化:グランピング
      1. グランピング参入がもたらす現場の課題と収益性
    3. 3. 心身の回復を求める旅:ウェルネスリゾート
  5. 独立系オーナーが取るべき戦略的判断基準
    1. 【判断基準】あなたのホテルはどの収益多角化戦略に適しているか?
  6. 現場運営の視点:サービスレベルの「摩擦」を解消する
    1. レジデンス顧客と宿泊顧客のサービス境界線
  7. まとめ:ホテルは「ライフスタイル・プラットフォーム」へ進化する
  8. よくある質問(FAQ)
    1. Q1. ブランデッド・レジデンスと通常のホテルコンドミニアムの違いは何ですか?
    2. Q2. WorldHotelsに加盟する独立系ホテルのメリットは何ですか?
    3. Q3. グランピング事業に参入する際の最大のデメリットは何ですか?
    4. Q4. ウェルネスリゾートの「回復(Restorative)と変容(Transformative)」とは具体的に何を指しますか?
    5. Q5. ブランデッド・レジデンスはホテルの稼働率向上に貢献しますか?
    6. Q6. 今後、ホテルブランドはどこまで事業領域を拡大していくと考えられますか?

結論(先に要点だけ)

独立系高級ホテルブランドのWorldHotelsは、2025年の急成長を背景に、従来の客室提供ビジネスを超えた3つの新領域(ブランデッド・レジデンス、グランピング、ウェルネス)へ戦略的に事業を拡大しています。この多角化は、富裕層旅行者が「モノ消費」から「体験(エクスペリエンス)と生活様式」へと求める価値が変化したことに対応するものです。これにより、ホテル事業は客室収入に依存しない安定した収益源(レジデンス販売、管理費)を確保し、ブランドの提供価値を最大化する「ライフスタイル・プラットフォーム」へと進化しています。この戦略は、独立系ホテルがブランドの独自性を保ちながら、大規模ブランドの持つ安定性と多様性を享受するための、2026年以降の明確な指針となります。

はじめに:高級ホテル市場の変化と独立系ブランドの挑戦

旅行市場が回復し、特に富裕層によるラグジュアリートラベルの需要が高まる中、ホテル業界の競争は激化しています。かつての高級ホテルは「最高のサービスと設備」を提供すれば事足りましたが、現代の富裕層旅行者は、さらにパーソナライズされた、Authentic(本物志向)な体験、そして彼らのライフスタイル全体に溶け込むような「柔軟性」を求めています。

このような市場環境において、独立系高級ホテル(インディペンデント・ラグジュアリー・ホテル)は、その独自の歴史や個性を強みとしながらも、大規模なチェーンホテルが持つ集客力や安定した予約システムにアクセスする必要がありました。この課題に対し、WorldHotels™(BWH Hotels傘下)は、独立性を尊重しつつグローバルなプラットフォームを提供する戦略によって、目覚ましい成長を遂げています。

本記事では、WorldHotelsが2025年に達成した具体的な成長実績(出典:公式発表)と、彼らがなぜ今、ブランデッド・レジデンス、グランピング、ウェルネスという3つの新領域に事業を拡大しているのか、その背景にあるホテル業界の構造変化と、現場のビジネスへの影響を深掘りします。

なぜWorldHotelsは急成長したのか?富裕層が求める「体験」への集中

2025年、100軒近いホテルが加盟:公式発表から読み解く事実

WorldHotels™は、2026年1月12日付の公式発表(出典:Hospitality Net)の中で、2025年が画期的な年であったと報告しています。具体的な成長の証として、以下の点が挙げられています。

  • 新規加盟:12カ国で約100軒の高級およびアップスケールホテルを新規に迎え入れ、フットプリントを大幅に拡大。
  • 需要の背景:Authentic(本物志向)でExperiential(体験型)な旅行に対する需要増加が成長の原動力。
  • ブランド哲学:各施設が持つ「独立した魂(independent soul)」と独自の提供価値が、現代のゲストに響いている。

WorldHotelsのRon Pohl社長は、この成長は単なるポートフォリオの拡大ではなく、変わりゆく高級旅行者のニーズに対応するためのイノベーションと変革の結果であると述べています。富裕層旅行業界は2032年までに1.7兆ドルに達すると予測されており、この層は特にパーソナライズされた、唯一無二の体験を強く求めていることが、戦略の根拠となっています。

高級旅行者が「独立性」と「柔軟性」を求める理由

なぜ富裕層は大規模チェーンの一律な体験ではなく、独立系ホテルが持つ個性を求めるのでしょうか。これは、彼らがすでにモノを十分に所有しており、次の段階として「質の高い時間」や「個性的な記憶」を求めているからです。

  • パーソナライゼーションの追求:チェーンホテルの標準化された体験では満たされない、その土地ならではの文化や歴史に根ざしたサービスを望んでいます。
  • 柔軟な滞在形態:単発の旅行だけでなく、仕事(ワーケーション)、ウェルネス、長期滞在など、様々な目的や期間に柔軟に対応できる施設を求めています。
  • 「人間力」の再評価:画一的なマニュアルを超え、ゲストの状況に応じて適切に判断し行動できるホテリエによる、本質的なホスピタリティが評価されています。(※関連テーマとして、AI時代、ホテリエは「人間力」で輝く?キャリアと成長の秘訣とは?もご参照ください。)

収益の柱を増やす戦略:「レジデンス、グランピング、ウェルネス」への拡大

WorldHotelsが成長をさらに加速させるために選んだのは、従来の宿泊事業の枠を超えた「3つの多様化戦略」です。これらは、変動の激しい宿泊市場において、収益の安定化とブランド価値の最大化を両立させるための重要な一手です。

1. ブランデッド・レジデンス:ホテル運営会社が住宅市場に参入する真の狙い

WorldHotelsは、新たにWorldHotels™ Residencesポートフォリオを立ち上げました。ベトナムのホーチミン市で「Essensia Sky」や「Parkway Saigon WorldHotels Residences」といった物件の建設が進められています。

なぜホテルはレジデンス事業に進出するのか?(業界構造の視点)

ホテルブランドがレジデンス事業を開発する主な目的は、単なるブランド拡張ではなく、安定した収益源の確保アセットライト戦略の進化にあります。

  1. 安定したフィー収入:レジデンスの販売自体はデベロッパーが行いますが、ホテルブランドは売却後も「管理・運営フィー」を得ることができます。住居者(オーナー)は、客室清掃やコンシェルジュサービス、ジムなどのホテル付帯施設を享受できる代わりに、ブランド側へ継続的に管理費用を支払います。これにより、宿泊需要の波に左右されない安定的な収入源が生まれます。
  2. アセットライト戦略の進化:多くの大規模ホテルブランドは、自ら資産(不動産)を保有せず、運営のみを行う「アセットライト」戦略を推進しています(なぜホテルは「所有と運営の分離」へ?ハイアットの戦略から学ぶこと)。レジデンス事業は、資産売却益を通じてデベロッパーの投資回収を助けつつ、ブランド側は運営契約とフィーを得る、より進化・強化されたアセットライトモデルと言えます。
  3. 超富裕層顧客の囲い込み:レジデンスオーナーはブランドの熱心な支持者となり、長期的なロイヤリティ構築につながります。

レジデンスは、豪華で柔軟な住居と、ホテルレベルの充実したアメニティを組み合わせたものであり、「長期的なラグジュアリー・ライフスタイル」を求める現代の富裕層のニーズに完全に合致しています。

2. エクスペリエンシャル・トラベルの強化:グランピング

WorldHotelsは、2025年の最初のグランピングリゾートの成功を土台に、ノースカロライナ州、ホンジュラス、ブラジルなど、自然に焦点を当てたリトリート(隠れ家)への展開を加速しています。

グランピング参入がもたらす現場の課題と収益性

グランピングは、都会の喧騒から離れ、自然との調和を求めるトレンド「ネイチャー・フォーカス・トラベル」を捉えています。しかし、これを高級ホテルブランドが手掛ける場合、通常のホテル運営にはない特有の課題とメリットがあります。

  • 現場運用の課題:テントやキャビンといった非恒久的な施設は、通常のホテル建物よりもメンテナンスや清掃の負担が大きくなります。特に自然環境が厳しい場所では、虫害対策や冬季のインフラ維持、そして高級ホテルレベルのF&B(飲食)サービスをどのように提供するかが、現場の重要な課題となります。
  • 高収益性の可能性:グランピングは、建設コストが従来の高級ホテルよりも低く抑えられる傾向にあり、高単価(ADR)を設定しやすい特徴があります。自然環境という「非日常的な体験」自体が差別化要因となるため、高い利益率を達成しやすいビジネスモデルです。
  • ターゲット層の拡大:ホテルに馴染まない、よりアドベンチャー志向やサステナビリティ志向の富裕層を取り込むことが可能になります。

3. 心身の回復を求める旅:ウェルネスリゾート

ブランドのコミットメントとして、ウェルネスへの注力も強化されています。メキシコのカボで2つ目のウェルネス施設「Soul Spring Sanctuary, WorldHotels™ Luxury」を開業予定であり、回復(Restorative)と変容(Transformative)をテーマにした旅のニーズに対応します。

コロナ禍を経て、旅行者は単なるリラクゼーションではなく、「心身の根本的な回復」や「人生を変える体験」を旅行に求めるようになりました。ウェルネスリゾートは、単にスパやジムを提供するだけでなく、食事、睡眠(なぜホテルは「スリープテック」で顧客体験UP?「究極の休息」戦略とは)、瞑想、リトリートプログラムなど、包括的なサービスを提供することで、通常の宿泊とは桁違いの単価を設定できます。

収益性強化の視点:ウェルネスプログラムはパッケージ化され、数日間〜数週間の長期滞在を促します。これにより、稼働率(Occupancy Rate)よりも平均客室単価(ADR)を大幅に引き上げ、高い利益率を実現します。

独立系オーナーが取るべき戦略的判断基準

WorldHotelsの事例が示すように、2026年以降のホテルビジネスにおいて、独立系ホテルが生き残るためには、自社の「個性」を活かした収益多角化が不可欠です。しかし、全てのホテルがレジデンスやグランピングに参入すべきではありません。ここでは、オーナーや経営者が取るべき判断基準を提示します。

【判断基準】あなたのホテルはどの収益多角化戦略に適しているか?

戦略 適合するホテルの特性 初期投資とリスク 実現性の判断軸
ブランデッド・レジデンス 一等地、景観の優位性がある都市型・リゾート型。ブランドの認知度が高いこと。 非常に高い(土地取得・開発費)。開発パートナー(デベロッパー)の確保が必須。 周辺の高級不動産市場の動向と、ブランドの管理能力(フィー徴収)を総合的に評価する。
グランピング/ネイチャーリトリート 広大な敷地、美しい自然景観、独自のアクセスルートがあること。 中程度。通常の建設よりは抑えられるが、インフラ(水道・電気・通信)整備に費用がかかる。 現場の運用負荷(清掃・保守)を許容できるか。高単価を正当化できる「唯一無二の体験」を提供できるか。
ウェルネス特化 静かで癒やされる環境。既存の付帯施設(スパ、レストラン)の改修で対応可能。 中〜低程度。専門家(ヨガ、栄養士、セラピスト)の採用/提携コストが主な投資。 既存顧客の平均滞在日数と平均単価(ADR)を引き上げられるか。プログラム設計と人材確保が鍵。

重要な判断ポイント:

ホテル経営者は、自社の「独立した魂」をどこまで維持できるかを常に考える必要があります。WorldHotelsの成功は、個々の独立性を活かしつつ、グローバルな集客力とノウハウを提供する「ハイブリッド戦略」にあります。単なるブームに乗るのではなく、自社の強み(立地、文化、既存顧客層)と、富裕層が求める体験が一致するかを慎重に見極めることが、失敗しない多角化戦略の鍵です。

現場運営の視点:サービスレベルの「摩擦」を解消する

収益源を多様化すると、現場のオペレーションには新たな課題が生じます。特に「ホテル滞在」と「レジデンス滞在」が混在する場合、サービスレベルの摩擦を防ぐことが重要です。

レジデンス顧客と宿泊顧客のサービス境界線

ブランデッド・レジデンスでは、オーナーは「住居者」であり「ゲスト」でもあります。現場ホテリエは、この二重の役割を持つ顧客に対し、異なるレベルのサービスを提供する必要があります。

  1. プライバシーの保護:レジデンスオーナーは長期滞在であり、ホテルゲスト以上のプライバシーを求めます。ハウスキーピングの頻度やタイミング、セキュリティ対策は、ホテルとは異なる厳格な基準が必要です。
  2. カスタマイズされたサービス:レジデンス顧客は、例えば特定の食材の定期配送、家具の入れ替え、ホームパーティーの手配など、ホテルゲストには提供されない生活密着型のカスタマイズサービスを要求します。
  3. ホテリエのスキルセット:レジデンスの管理部門のホテリエは、通常のホスピタリティスキルに加え、不動産管理、テナント対応、長期的なコミュニティ形成といったスキルが求められます。これは、従来のホテルスタッフとは異なる専門性です。

WorldHotelsのようなブランドは、これらの「摩擦」を最小限に抑えるための厳格なサービスプロトコルと、スタッフの専門教育をセットで提供することが、独立系ホテルオーナーにとって最大のメリットとなります。

まとめ:ホテルは「ライフスタイル・プラットフォーム」へ進化する

WorldHotelsの戦略的な成長は、現代の高級ホテルビジネスの方向性を明確に示しています。それは、客室の販売者としてではなく、「多様なライフスタイル体験のプラットフォーム」としての役割を確立することです。

高級旅行市場の成長が続く中、成功の鍵は、「独立した個性」を「グローバルな安定性」と「多様な収益源」で裏打ちするハイブリッドな構造にあります。ブランデッド・レジデンス、グランピング、ウェルネスといった拡張領域は、客室収入の変動リスクを緩和し、ブランドの顧客接点と生涯価値(LTV)を飛躍的に高めるための戦略的な投資です。

ホテル経営者は、自社のブランドの「魂」を失うことなく、どの領域に拡張することで収益の安定化と顧客体験の最大化を実現できるか、このWorldHotelsの事例を参考に、慎重に検討する必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. ブランデッド・レジデンスと通常のホテルコンドミニアムの違いは何ですか?

A. ブランデッド・レジデンスは、WorldHotelsやIHGなどの有名ホテルブランドの名称とサービスレベルが完全に組み込まれた高級マンションです。通常のコンドミニアムと異なり、ホテル基準のコンシェルジュ、清掃、セキュリティ、付帯施設(スパ、プール)が提供され、ブランドが運営・管理を行います。これにより高い資産価値とサービス品質が維持されます。

Q2. WorldHotelsに加盟する独立系ホテルのメリットは何ですか?

A. 独立した運営と個性を保ちつつ、WorldHotelsが持つグローバルな販売網、予約システム、そして世界中の富裕層に向けたマーケティング力を利用できる点です。また、レジデンスやウェルネスといった新しい事業展開に関するノウハウの共有も受けられます。

Q3. グランピング事業に参入する際の最大のデメリットは何ですか?

A. 最大のデメリットは、天候や自然環境への依存度の高さと、通常のホテルとは異なる厳しいメンテナンスコストです。ラグジュアリーな体験を提供するためには、テントやキャビンの品質維持、冬季や豪雨時のインフラ保守に多大な労力と費用が必要となります。

Q4. ウェルネスリゾートの「回復(Restorative)と変容(Transformative)」とは具体的に何を指しますか?

A. これは、単なる休息(リラクゼーション)を超え、ゲストの心身の健康を根本から改善し、人生観や習慣を変えるきっかけを提供するプログラムを指します。例として、専門家による個別指導の食事療法、デトックスプログラム、デジタルデトックス、深い瞑想や自然の中での活動などが含まれます。

Q5. ブランデッド・レジデンスはホテルの稼働率向上に貢献しますか?

A. 直接的な稼働率向上には貢献しませんが、間接的なメリットがあります。レジデンスオーナーやその訪問者がホテルのレストランやスパなどの付帯施設を利用するため、客室以外の二次収入(Non-Room Revenue)を安定的に増加させ、全体の収益性を高めます。

Q6. 今後、ホテルブランドはどこまで事業領域を拡大していくと考えられますか?

A. ホテルブランドは今後、「旅行」と「生活」の境界線を曖昧にする方向へ拡大すると考えられます。レジデンスやグランピングはその一環であり、将来的にはプライベートジェット、カスタムメイドの旅行体験、教育プログラムなど、富裕層の「時間」と「ライフスタイル」全般をマネジメントするプラットフォームへと進化する可能性が高いです。

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