ホテルは客室を削るべき?宴会拡張で収益を最大化する新戦略

宿泊ビジネス戦略とマーケティング
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結論

ホテル開発において「客室数」を削り「宴会場(バンケット)」を拡張する動きが加速しています。インドの「ザ・パーク・ホテルズ」は、新プロジェクトで客室数を約13%削減し、そのスペースをMICEやウェディング施設に充てる決断を下しました。宿泊単価(ADR)だけに頼るのではなく、地域需要と高利益率なイベント需要を組み合わせることで、総収益と利益率の最大化を狙う「アセットアロケーション(資産配分)の転換」が、今後のホテル経営の鍵となります。

はじめに

ホテルの資産価値を測る際、長らく「客室数」は最も重要な指標の一つでした。しかし、建設費の高騰と人件費の上昇が続く2026年現在、画一的に客室を増やす戦略は、必ずしも収益の最適解ではなくなっています。特にアジア圏や新興国において、ホテルは単なる「宿泊施設」から、大規模なウェディングや国際会議を受け入れる「ソーシャルインフラ」としての役割を強めています。

本記事では、2026年2月に報じられたインドの「ザ・パーク・ホテルズ(Apeejay Surrendra Park Hotels)」の事例を紐解き、なぜ今、プロフィットセンターとしての「宴会場」が再評価されているのか、そのビジネス的背景と現場運用の視点を解説します。

客室を減らし「宴会場」を優先する経営判断の背景

結論から言えば、客室を減らして宴会場を増やす理由は「面積あたりの収益性と利益率の向上」にあります。

2026年2月9日のSkiftの報道によると、インドのザ・パーク・ホテルズは、コルカタで計画していた新ホテル「The Park at EM Bypass」の設計を変更しました。当初250室を予定していた客室数を218室に減らし、生み出された余剰スペースをすべて宴会場や会議施設(MICE)に割り当てました。同社の専務取締役、Vijay Dewan氏は「市場環境を鑑み、客室よりもバンケット(宴会)とカンファレンスに多くのスペースを配分した」と明言しています。

この判断の根底には、インドにおける「ウェディング市場」と「企業イベント(MICE)」の圧倒的な成長があります。宿泊は1室あたりの利用人数が限られますが、宴会は1つの空間で数百人から数千人の消費を一度に生み出すことができ、飲食(F&B)を伴うことで付加価値を劇的に高めることが可能です。

なぜ「宴会場重視」が合理的なのか?3つの理由

客室数を絞り、宴会機能を強化する戦略には、以下の3つの明確な理由があります。

1. 宿泊需要のボラティリティ(変動)を補完する

宿泊需要は季節性や国際情勢に左右されやすく、特にビジネス特化型の場合、平日の稼働は高くても週末に落ち込む傾向があります。一方で、大規模な宴会場を持つことで、週末のウェディング需要や、数年前から予約が入る国際会議を誘致でき、カレンダー全体の収益を平準化できます。宿泊と宴会の「需要の波」を組み合わせることが、キャッシュフローの安定に寄与します。

2. 飲食(F&B)による利益率の底上げ

客室販売は一度提供できる上限が決まっていますが、宴会は料理のアップグレードや演出、音響照明の追加など、付帯収入の幅が非常に広いです。特にMICE需要においては、会議室利用料だけでなく、滞在中の全食事をホテル内で提供するため、宿泊単体よりも1人あたりの消費額(LTV)が格段に高くなります。関連する戦略として、F&Bをコストセンターから脱却!ホテル収益を伸ばす戦略についても、併せて理解しておく必要があります。

3. 建設・維持コストの効率化

客室を1室増やすためには、ユニットバス、ベッド、エアコン、各種配線、そして清掃スタッフの稼働が必要です。これに対し、大きな1つの大広間(ボールルーム)は、空間あたりの設備密度が客室よりも低く、内装の工夫次第で多様な用途に転用可能です。建設費が高騰する中で、メンテナンスコストがかさむ「水回り」を伴う客室を減らすことは、長期的なLCA(ライフサイクルコスト)の削減にも繋がります。

客室販売 vs 宴会販売の収益構造比較

以下の表は、一般的な都市型ホテルにおける、客室と宴会場のビジネス特性を比較したものです。

比較項目 客室部門(Rooms) 宴会部門(Banqueting/MICE)
収益源 室料のみ(一部ミニバー等) 会場費 + 飲食費 + 演出/機材費
利益率 高い(ただし清掃人件費が変動) 極めて高い(特に飲食のアップセル)
人件費の性質 固定的な清掃・フロント業務 イベント時のみのスポット人件費(調整可)
リードタイム 短い(当日〜3ヶ月前) 長い(6ヶ月〜3年前)
リピート率 個人に依存 企業・団体による定期的開催

現場運用における課題と解決策

宴会重視の設計にシフトする場合、避けて通れないのが「オペレーションの複雑化」です。客室清掃はルーティンワーク化しやすいですが、宴会は毎回設営やメニューが異なるため、高度な現場管理能力が求められます。

1. スタッフの確保とマルチタスク化

宴会が重なる日とそうでない日の人員配置の差が激しくなります。これを解消するためには、フロントスタッフが宴会の誘導を兼任したり、F&Bスタッフが客室のミニバー管理を行うといった、職種を越えた「マルチタスク化」が不可欠です。最近では、急なイベント需要に対応するため、採用代行サービスを活用して、必要な時に質の高い外部スタッフを確保する体制を整えるホテルも増えています。

2. テクノロジーによる在庫管理

「客室」と「宴会場」の在庫をバラバラに管理していては、MICE需要を最大化できません。200名の会議が入った際に、その200名分の宿泊枠を自動でブロックし、最適なパッケージ料金を算出するRMS(レベニューマネジメントシステム)の導入が必須です。これを怠ると、安い室料で一般客が埋まってしまい、高単価な会議団体を断らざるを得ない「機会損失」が発生します。

3. 施設老朽化への対応

宴会場は、客室以上に「見た目の鮮度」が重視されます。壁紙の剥がれや絨毯のシミは、高額なウェディングを検討するゲストにとって致命的なマイナス要因となります。常にリノベーションの優先順位を判断する必要があり、詳細はホテル建設費高騰で採算崩壊!新築を避けて利益を出す開発戦略とはを参考に、計画的な投資判断が求められます。

よくある質問(FAQ)

Q. 客室を減らすと、団体予約の際に「部屋が足りない」と言われませんか?

A. 確かにそのリスクはあります。しかし、近隣の提携ホテル(競合他社であっても)と連携し、自社で宴会を行い、溢れた宿泊分を近隣に流す「オーバーフロー契約」を結ぶことで、地域全体で需要を飲み込む戦略が有効です。自社ですべてを抱え込むよりも、固定費を抑えるメリットが上回る場合が多いです。

Q. 宴会需要が冷え込んだ時のリスクはどう考えればいいですか?

A. 宴会場を「可動式パーティション」で細分化できるように設計しておくことが重要です。大規模な国際会議がない時期でも、小規模な企業の研修や、コワーキングスペース、地元の習い事教室など、地域コミュニティに開放することで、遊休資産化を防ぐことができます。

Q. インドの事例は日本でも通用しますか?

A. 日本では人口減少によりウェディング市場は縮小傾向ですが、一方で「インバウンドMICE」の需要は高まっています。特に地方都市において、質の高い大型宴会場を持つホテルが不足しているため、あえて客室を絞り、希少性の高い「国際会議が可能な施設」として差別化する戦略は非常に有効です。

Q. 宴会場の拡張にはどの程度の投資が必要ですか?

A. 新築時であれば客室からの転換コストは比較的抑えられますが、既存ホテルの改修は構造(柱の位置や天井高)に大きく依存します。まずは現在の客室稼働率と、断っている宴会案件の損失額を比較する「機会損失分析」から始めるべきです。

Q. 宴会スタッフの教育はどうすべきですか?

A. 宴会は失敗が許されない「一発勝負」の要素が強いため、マニュアルのデジタル化と動画教育が効果的です。特にスポットスタッフを多用する場合、タブレット端末でその日の配膳手順を即座に確認できる仕組みが、クオリティの均一化に寄与します。

Q. DXは宴会部門でどう役立ちますか?

A. 宴会指示書(BEO)のデジタル共有や、AIによる必要食材の正確な発注予測などが挙げられます。これにより、宴会部門の最大の弱点である「食材ロス」と「過剰な人件費」を抑制できます。

まとめ:今後のホテル開発に求められる「引き算」の視点

ホテルの成功を「客室数 × 稼働率 × ADR」という単純な計算式で考えていた時代は終わりつつあります。インドのザ・パーク・ホテルズが見せたように、あえて客室を「引き算」し、地域の核となる宴会機能を「足し算」する戦略は、建設費高騰時代の極めて合理的な資産運用術です。

次に取るべきアクション:

  • 自社の「面積あたりの収益」を、客室部門と宴会部門で比較算出する。
  • 過去1年間に「会場不足」や「設備不足」で断ったイベントの総額を可視化する。
  • 固定的な客室清掃スタッフを、イベント運営に回せる「多能工化」の研修計画を立てる。

「宿泊のための箱」から「集いのための舞台」へ。資産配分の見直しこそが、2026年以降のホテル経営における最大のレバレッジポイントとなるでしょう。

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