はじめに
近年、ホテル業界のビジネスモデルは「アセットライト(資産を保有せず運営に特化)」へと大きくシフトしています。この流れの中で、ホテルブランドやオーナーから運営を委託される「マネジメント会社」の役割と実力が、資産価値を左右する最も重要な要素となっています。
本記事では、米国の巨大マネジメント会社であるHEI Hotels & Resortsが、オーランドの主要なマリオットブランドホテル群(合計1,590室)の運営を受託したニュースを基に、アセットライト時代に運営会社がどのように「不動産の価値」を高めているのか、その具体的な戦略と独自技術(プロプライエタリ・ソフトウェア)による収益最大化のメカニズムを深掘りします。
単なるオペレーション代行に留まらない、次世代のホテルマネジメント会社の真価を知りたいオーナー、投資家、そして経営者にとって、保存版となる内容です。
結論(先に要点だけ)
- 米国のHEI Hotels & Resortsが、オーランドの主要マリオットブランド4施設(1,590室)の運営受託を完了しました。(出典:公式発表)
- 運営受託の決め手は、HEIが持つ「プロプライエタリ(独自開発)なソフトウェアツール」を駆使した、実証ベースの収益管理(RM)と資産価値創造力です。
- アセットライトモデルにおいて、運営会社の役割は単なる現場運営ではなく、データと技術力を活用して物件のキャッシュフローと収益性を高め、結果として不動産価値を向上させることにシフトしています。
- 特に複数ブランドを統合して運営する場合、共通プラットフォーム上での効率的なデータ分析と、個々のブランド基準を維持する現場の「調整力」が成功の鍵となります。
今回のニュース:HEI Hotels & Resortsが担う「1,590室の巨大ポートフォリオ」とは?
2026年1月、米国の主要なホスピタリティ投資およびマネジメント会社であるHEI Hotels & Resorts(以下、HEI)は、オーランドのレイク・ブエナ・ビスタ地区にあるマリオットブランドの4ホテル、合計1,590室のポートフォリオ運営を引き受けました。(出典:公式発表)
このポートフォリオは、世界的なテーマパークに近い一等地であり、オーナーであるL&R Hotelsが、より専門的かつ収益性の高い運営体制を求めた結果です。
運営受託の対象となった4つのホテルは?
HEIが運営を開始したのは、以下の4つのマリオットブランドホテルです。
- シェラトン・オーランド・レイク・ブエナ・ビスタ・リゾート(Sheraton Orlando Lake Buena Vista Resort)
- コートヤード・バイ・マリオット(Courtyard by Marriott)
- スプリングヒル・スイーツ・バイ・マリオット(SpringHill Suites by Marriott)
- フェアフィールド・イン&スイーツ・バイ・マリオット(Fairfield Inn & Suites by Marriott)
シェラトン・リゾートでは、客室やパブリックスペース、約3,700平方メートル(約40,000平方フィート)の会議スペースを含む大規模な改修作業が進行中であり、物理的な資産価値向上と運営による収益力向上の両方を同時並行で進めることが求められています。
オーナー側(L&R Hotels)がHEIを選んだ背景にある狙いは何か?
オーナー側がHEIを選択した最大の理由は、HEIが持つ「実績」と「技術力」です。
HEIは、マリオット、ヒルトン、ハイアットなど大手ブランドと連携しながら、約100の高級・アップスケールホテルを所有または運営している実績があります。特に注目すべきは、彼らが持つ「プロプライエタリ(独自開発)なソフトウェアツール」です。
公式発表によれば、HEIは独自のソフトウェアを駆使し、収益管理、利益貢献、そして「実証ベースの不動産価値創造」を目指すことで知られています。
オーナーが運営会社に求めるのは、単に客室を清潔に保ち、ゲストをチェックインさせることではありません。彼らが求めるのは、市場環境が変動する中でも、収益(GOPPARやNOI)を最大化し、結果としてキャピタルゲインに直結する不動産全体の評価額を高めることです。
ホテルマネジメント会社が「プロプライエタリな独自技術」を持つ必要性は?
なぜ巨大なマネジメント会社は、数百万ドルをかけて独自のソフトウェアを開発し、運用するのでしょうか。これは、既存の汎用的なホテルシステム(PMSやRMS)だけでは、現在の複雑な市場要求に応えられないという構造的な課題があるためです。
なぜ既製のRMSやPMSだけでは限界があるのか?
従来のレベニューマネジメントシステム(RMS)やプロパティマネジメントシステム(PMS)は、主に単一施設の予約管理や価格設定を効率化するために設計されてきました。しかし、以下のような現代のホテル運営の課題に対応するには限界があります。
- データ統合の複雑性: 複数ブランド、複数ロケーションのデータを横断的に比較分析し、共通の戦略を立てるには、個別のシステムでは対応できません。
- 総収益管理(Total Revenue Management)への対応: 宿泊収益だけでなく、飲食(F&B)、ミーティングスペース、スパ、そして現地改修費用や人件費などの「コスト要因」も考慮に入れた総合的な収益予測が必要です。既存システムは部屋売上中心になりがちです。
- 資産価値の最適化: 運営効率を高めるだけでなく、リノベーションのタイミング、予算配分、資本的支出(CapEx)の判断を、収益予測と連動させる技術が求められます。
HEIのような運営会社が独自ツールを持つ目的は、これらの断片的なデータを統合し、「収益性(Profit)」を軸とした意思決定を、経験則ではなく「実証データ」に基づいて迅速に行うためです。
HEIが実現する「実証ベースの不動産価値創造」とは具体的に何を指すのか?
「実証ベースの不動産価値創造」とは、単なる稼働率の向上ではなく、データに基づいた経営判断を通じて、物件の売却価値(Cap Rateに基づく評価)そのものを高める戦略です。
1. 資本的支出(CapEx)の最適化
大規模な改修(リノベーション)は多額の費用を伴います。HEIの独自ツールは、どの設備に、いつ、どれだけの費用を投じれば、RevPAR(売上)やゲスト満足度、あるいは長期的なメンテナンスコスト削減に最も効果的かをデータで予測します。例えば、「この会議スペースに$100万投資することで、3年間のミーティング収益が平均〇〇%向上する」といった予測を可能にします。
2. クロスセリングとアップセリングの自動化
4つの異なるマリオットブランドが近接している場合、顧客層は異なりますが、その予約データや滞在履歴を統合的に分析することで、顧客が別の施設でのF&B利用や、より高いグレードの部屋へのアップグレードを受け入れる可能性をAIが予測します。この複合的な収益機会を逃さず捉えるのが独自ソフトウェアの役割です。
3. コスト構造の透明化と効率化
人件費やエネルギーコスト、清掃コストなど、運営にかかる費用(NOI)をリアルタイムで追跡し、ベンチマークと比較します。特に人手不足が深刻な現在、採用コストや育成コストが収益を圧迫していないかを厳密に監視します。もしコスト効率が悪い部門があれば、技術導入やアウトソーシングなど、具体的なアクションプランを提案し実行に移します。
(参考:ホテル現場の採用・育成に関するコスト削減と収益化については、なぜ採用した人材は辞める?ホテル育成投資を回収する3つの人事戦略もご覧ください。)
複数ブランド・大規模ポートフォリオ運営を成功させる「統合戦略」の難易度
オーランドの事例では、単一の運営会社が、シェラトン、コートヤード、スプリングヒル、フェアフィールドという異なる4つのマリオットブランドを同時に運営します。これは見た目以上に難易度が高いミッションです。
ブランドホテルには、各ブランドが定める厳格なサービス基準やデザイン基準(Brand Standards)が存在します。これらを遵守しつつ、運営効率を統合・最大化するには、高度な戦略が必要です。
異なるブランドの顧客体験とオペレーションをどう標準化するのか?
統合運営における最大の課題は、効率化とブランド基準維持のバランスです。HEIは以下の2軸でこの課題を解決しようとします。
1. バックオフィスと技術インフラの統一(効率化)
収益管理、会計システム、購買管理、人事管理といったバックオフィス機能は、4施設すべてで共通のHEIプラットフォーム上で動かすことで、スケールメリット(規模の経済)を追求します。ここでプロプライエタリなソフトウェアが生きます。共通データ基盤の上で、4つのブランドの特性に応じた分析やレポートを一元化します。
2. 現場スタッフのトレーニングと調整力(体験維持)
ゲストの目に触れるフロントやハウスキーピングの業務は、各ブランドの基準を最優先します。例えば、コートヤードのゲストに求める効率的な対応と、シェラトンのゲストに求めるゆったりとした体験は異なります。
HEIは、共通の採用・育成プロセスで優秀な人材を確保しつつ、各ブランドの現場責任者が、ブランドが要求する「情緒的な体験」を維持できるようトレーニングを徹底します。この「技術による効率化」と「人による体験提供」の切り分けが、統合運営の成功を分けます。
採用に関する課題解決のためには、外部サービスの活用も視野に入れる必要があります。
運営受託契約でオーナーが評価すべき「運営会社の実力」の判断基準は?
資産を保有するオーナーや投資家にとって、運営会社を選ぶことは投資の成否を分ける決定です。このオーランドの事例から、運営会社を見極めるための3つの視点が導かれます。
| 判断基準 | 問い(何を重視すべきか) | HEIの事例からの示唆 |
|---|---|---|
| 1. 技術的負債の有無 | 自社システムは外部環境(OTA、ブランド)の変化に迅速に対応できるか? | 独自開発のプロプライエタリソフトウェアは、既製品の限界を超え、最新の市場ニーズに合わせたカスタマイズやデータ統合が可能。 |
| 2. 収益計算の深度 | RevPARだけでなく、GOPPARやNOIを最大化する戦略を持っているか? | 「実証ベースの不動産価値創造」を謳っている点。コスト要因(人件費、CapEx)まで含めて意思決定できるかが鍵。 |
| 3. 統合管理能力 | 複数施設・複数ブランドを運営する場合、オペレーションの重複を排し、規模の経済を成立させられるか? | 単なる管理代行ではなく、共通のバックオフィスプラットフォームとデータ分析基盤を敷くことで、運営効率を飛躍的に高められる。 |
特に、運営会社の実力を見極める際の詳細なチェックポイントについては、過去記事「ホテル資産価値を倍増させた運営戦略!成功する代行会社の見極め方」でも詳しく解説しています。
結論と次のアクション:アセットライト時代に運営会社を選ぶためのチェックリスト
2026年以降のホテル業界において、運営会社は単なるサービスの提供者ではなく、「資産価値を高めるためのテクノロジー・金融パートナー」としての側面を強く持ちます。HEIの事例は、データ駆動型の意思決定と独自技術こそが、その競争力の源泉であることを示しています。
オーナー・投資家が取るべきアクション
あなたがホテル資産のオーナーまたは投資家である場合、現在の運営体制が以下の基準を満たしているかを確認してください。
- 独自の技術・データ基盤の有無: 契約している運営会社が、市販のシステムだけでなく、自社独自のデータ分析ツールやRMS統合レイヤーを持っているかを確認する。
- GOPPAR最大化へのコミットメント: 売上(RevPAR)だけでなく、営業利益(GOPPAR)をKPIの最上位に置いているか、そのための具体的なコスト管理戦略があるかを検証する。
- 人材育成と定着の仕組み: 優秀な現場スタッフ(ホテリエ)が辞めないための育成プログラムや、キャリアパスの仕組みがデータに基づいて運用されているかを確認する。
技術とデータによって裏打ちされたマネジメント力こそが、アセットライト時代において、安定したキャッシュフローと高い売却価値を実現するための必須条件となるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: アセットライトとは何ですか?
A: アセットライト(Asset-Light)とは、「資産が軽い」という意味で、ホテルブランドや運営会社が、不動産(建物や土地)自体を保有せず、ブランド力や運営ノウハウのみを提供して収益を得るビジネスモデルです。これにより、多額の固定資産を持つリスクを避け、より迅速な多店舗展開が可能になります。
Q2: プロプライエタリ・ソフトウェアとは、具体的にどのような機能を持つシステムですか?
A: プロプライエタリ・ソフトウェア(Proprietary Software)とは、特定の企業が独自に開発・所有するソフトウェアです。ホテルの文脈では、既製のPMSやRMSでは扱えない、複数の施設・ブランドを横断した高度なデータ統合、資本的支出(CapEx)の予測とRMの連携、あるいは独自の市場セグメンテーションに基づく価格決定ロジックなどを実装していることが多いです。
Q3: 運営会社が独自技術を持つメリットは、オーナーにとって何ですか?
A: オーナーにとっての最大のメリットは、収益と効率の最大化です。独自技術により、既存の汎用システムよりも精度の高い需要予測、リアルタイムのコスト分析、そしてリノベーションなど投資判断の最適化が可能となり、結果として不動産全体の評価額を高めることに繋がります。
Q4: 複数ブランドを統合運営する際に、ゲスト体験が低下するリスクはありませんか?
A: リスクはありますが、それを回避するのが運営会社の腕です。バックオフィスの管理や技術インフラは効率化のために統合しますが、フロントライン(ゲストと接する部門)では各ブランドの定める厳格なサービス基準(Brand Standards)を維持するための教育と調整が求められます。技術の効率化が、現場スタッフがゲストに集中できる環境を生み出すことが理想です。
Q5: HEI Hotels & Resortsは具体的にどの地域に強いのですか?
A: HEI Hotels & Resortsは主に米国全土で事業を展開しており、特に主要な都市部やリゾート地(オーランド、ニューヨーク、ロサンゼルスなど)において、高級からアッパーアップスケール帯のホテル運営に強みを持っています。
Q6: 今回のポートフォリオは、なぜマリオットブランドで構成されているのですか?
A: ポートフォリオが特定のブランドで構成されるのは、元の不動産投資家(この場合はL&R Hotels)がマリオットとのフランチャイズ契約を結んでいたためです。HEIはマリオットの承認を得た運営会社として、ブランド基準を遵守しながらオーナーの代わりに運営を行います。


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