なぜ長期滞在型ホテルは不況に強い?低コスト運営の秘密とは?

ホテル業界のトレンド
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  1. 結論(先に要点だけ)
  2. なぜ今、投資家は「経済型長期滞在ホテル」に大規模投資するのか?
  3. 経済型長期滞在(Extended Stay)ホテルとは?その3つの特徴
    1. 1. 必須設備に絞った機能的な客室設計(キッチン完備)
    2. 2. 低い運営コストと人件費率
    3. 3. 安定した収益構造(不況耐性の高さ)
  4. 長期滞在型ホテルが「高収益」で「不況に強い」とされる理由
    1. 運営効率:人件費・清掃コストが大幅に削減できる構造
    2. 収益の安定性:家賃収入に似たモデル
  5. 短期滞在型ホテル事業者が取るべき戦略的判断基準
    1. 判断基準1:客室稼働率の「穴」を埋めるための長期プラン導入
    2. 判断基準2:キッチン・ランドリー機能の戦略的な追加
    3. 判断基準3:テクノロジーによるスタッフ業務の最適化
  6. 長期滞在型ホテルを選ぶゲスト層の具体的な内訳
    1. 1. 法人・ビジネス需要
    2. 2. 生活・個人需要
  7. よくある質問(FAQ)
    1. Q1: エクステンデッドステイホテルとビジネスホテルはどこが違いますか?
    2. Q2: WoodSpring Suitesはどのようなブランドですか?
    3. Q3: 長期滞在型ホテルの清掃頻度はどれくらいですか?
    4. Q4: 長期滞在型ホテルは日本のホテル業界にも浸透していますか?
    5. Q5: 長期滞在ホテルはアパートメントを借りるのと比べてメリットはありますか?
  8. まとめ:長期滞在型ホテルは「高効率な生活インフラ」への進化

結論(先に要点だけ)

  • 米国の不動産投資会社CIM Groupが、経済型長期滞在ホテルブランド「WoodSpring Suites」の15施設に対し、総額1億6767万ドルの大規模な融資を実施しました。(出典:Hotel News Resource)
  • この動きは、ホテル投資家が「経済型エクステンデッドステイ(長期滞在型)」セグメントを、不況下でも安定した収益を生む「高効率・不況に強い資産」として強く評価していることを示します。
  • 長期滞在型ホテルは、客室清掃頻度の低さやアメニティ提供の簡素化により、短期滞在型ホテルと比較して運営コスト(特に人件費)が大幅に低いという構造的なメリットを持っています。
  • 長期需要は景気に左右されにくく、建設作業員、医療関係者、研修生、災害復旧関係者など、安定した需要層に支えられています。
  • 日本のホテル事業者は、このトレンドを踏まえ、単なる客室提供から「生活インフラ提供」へとサービス設計を見直し、収益安定化のための長期滞在プランや設備拡充を戦略的に検討すべきです。

なぜ今、投資家は「経済型長期滞在ホテル」に大規模投資するのか?

2026年1月12日、米国の不動産投資会社CIM Groupが、エクステンデッドステイ(長期滞在型)ホテル「WoodSpring Suites」の15施設を対象に、総額1億6767万ドル(約240億円超)にも上る大規模な融資を実行したと報じられました。(出典:Hotel News Resource)

ホテル業界における投資の焦点は、これまで高級リゾートや大規模なシティホテルに集まりがちでした。しかし、このCIM Groupの融資は、一見地味に見える「経済型長期滞在(Economy Extended Stay)」というニッチなセグメントが、現在の市場環境において最も魅力的で安定した資産として再評価されている事実を明確に示しています。

投資家がこのセグメントに資金を集中させる理由は、単なる物件の魅力だけではありません。現在のホテル業界が直面する人手不足とインフレによるコスト高騰という複合的な課題を、長期滞在型ホテルが構造的に解決できる可能性を秘めているからです。

経済型長期滞在(Extended Stay)ホテルとは?その3つの特徴

エクステンデッドステイホテルは、名前の通り「長期滞在」を前提に設計された宿泊施設です。特にCIM Groupが融資したWoodSpring Suitesのような「経済型」のブランドは、従来の短期滞在型ホテルとは一線を画す、独特な特徴を持っています。

1. 必須設備に絞った機能的な客室設計(キッチン完備)

長期滞在型の最大の強みは、客室内に簡易キッチン(冷蔵庫、電子レンジ、コンロなど)が標準装備されている点です。これにより、ゲストは外食に頼らず自炊が可能となり、生活コストを抑えられます。

WoodSpring Suitesのような経済型では、華美なロビーやレストラン、プールなどの設備を最小限に抑え、代わりにランドリー設備やフィットネスセンターなど、生活に必要なインフラを優先します。短期滞在型では必須のベルサービスやルームサービスは提供されないことが一般的です。(出典:WoodSpring Suites公式情報)

2. 低い運営コストと人件費率

長期滞在を前提としているため、運営オペレーションが極めて効率的です。

  • 清掃頻度:短期滞在型が毎日清掃を行うのに対し、長期滞在型では週に一度、あるいはリクエストがあった場合のみの清掃となります。
  • アメニティ:日々の補充や交換が必要な消耗品(シャンプーや歯ブラシ)のストックや補充業務が大幅に削減されます。
  • フロント業務:チェックイン・チェックアウトの頻度が低いため、必要なスタッフ数が少なくて済み、フロントの人件費を抑えられます。

これらの構造から、長期滞在型ホテルは、短期型と比較して人件費率を大幅に低く抑えることが可能です。現在の日本や世界的なホテル業界の「人手不足」の課題を解消するモデルとしても注目されています。

(関連:ホテル現場の業務効率化については「なぜホテルの人手不足は解消しない?裏側RPAで1.7万時間を生む秘訣」でも詳しく解説しています。)

3. 安定した収益構造(不況耐性の高さ)

長期滞在型は、主に週単位、月単位の契約が多く、客室単価(ADR)は短期型よりも低いものの、高い稼働率と安定した賃料収入に似た収益モデルを持っています。これにより、観光客の増減や季節変動に左右されにくい安定性を確保できます。

特に経済型は、以下のような安定したニッチな需要層をターゲットとします。

  • 工事・建設関係者:大規模なインフラプロジェクトや建設現場で働く作業員の滞在。
  • 医療関係者:短期派遣の看護師や医師、病院研修生などの滞在。
  • 企業研修生:数週間から数カ月に及ぶ長期研修で利用。
  • 生活再建者:住宅の修理や災害からの復旧期間、あるいは引っ越しの合間など、一時的な住居を必要とする人々。

長期滞在型ホテルが「高収益」で「不況に強い」とされる理由

投資家にとってホテルへの融資・投資は、景気変動の影響を受けやすいリスクの高い事業と認識されがちです。しかし、長期滞在型ホテルは、その運営構造と需要特性から、他のセグメントにはない独自の魅力を持っています。

運営効率:人件費・清掃コストが大幅に削減できる構造

ホテル経営における最大の変動費は人件費と清掃関連費です。長期滞在型ホテルは、この固定費に近い変動費を最小化します。

一般的な短期滞在型ホテルでは、1日あたり平均で約30〜45分の清掃時間が必要です。これを週に7回行うと考えると、人件費は莫大なものになります。一方、長期滞在型は週1回程度の清掃サービスに留めることで、ハウスキーピングにかかる労働時間を1/5〜1/7に削減できます。

また、キッチン付きの客室では、朝食サービスなどの付帯サービスも限定的になり、料飲部門(F&B)にかかるコストや人員も大幅に削減可能です。

運営現場においては、これは「楽になる」というだけでなく、「少人数で質の高いサービスを提供できる構造」への転換を意味します。人材採用が困難な現代において、少ない人数で安定的に事業を回せることは、投資回収を確実にする重要な要因となります。

収益の安定性:家賃収入に似たモデル

ホテルは通常、ダイナミックプライシング(変動料金制)により、需要に応じて日々の価格が大きく変動します。これは高い収益を上げる可能性がありますが、一方で需給が崩れると急激に収益が悪化するリスクがあります。

長期滞在型ホテルは、契約が週単位・月単位であるため、割引率を適用しつつも、「安定的な予約」を早い段階で確定できます。これにより、収益のボラティリティ(変動幅)が小さく、投資家は将来的なキャッシュフローを予測しやすくなります。

特に経済が不透明な時期や不況期には、短期的な旅行需要が落ち込む一方で、生活再建や長期出張など、「住宅が必要だが、賃貸アパートを借りるほどではない」というニッチな需要は安定して存在します。この不況耐性の高さが、CIM Groupのような大規模投資を引きつける最大の理由です。(出典:不動産市場分析資料)

短期滞在型ホテル事業者が取るべき戦略的判断基準

エクステンデッドステイ市場の成長は、既存の短期滞在型ホテルやビジネスホテルにとって無視できない脅威となります。特に競合が長期滞在市場にシフトし始めると、短期市場の競争が激化し、ADR(平均客室単価)の維持が難しくなる可能性があります。

既存のホテル事業者がこのトレンドを踏まえて取るべき戦略的な判断基準を提案します。

判断基準1:客室稼働率の「穴」を埋めるための長期プラン導入

あなたのホテルが年間を通じて稼働率に大きなムラがある場合、低需要期や平日に長期滞在プランを組み込むことを検討すべきです。

戦略的質問 Yesの場合の行動
年間平均稼働率が75%を下回る時期が明確に存在する(特に平日)か? 該当期間を対象に、週単位/月単位の長期滞在専用レートを設定する。清掃やアメニティサービスを簡素化(週1回交換など)し、現場オペレーションの負担を軽減する。
近隣に大規模な建設現場、大学、病院、研修センターなど、安定的な長期滞在需要を生む施設があるか? これらの施設に対し、法人契約の営業を強化する。一般顧客向けの長期プランとは別に、法人向けの簡素なサービスパッケージを提供する。

重要なのは、長期滞在プランを導入する際、清掃・アメニティ供給のオペレーションを短期滞在客と同じにしないことです。長期滞在客は「家賃」に近い料金を支払っているため、過剰なサービスは不要であり、運営側のコスト増に直結します。料金体系とサービスレベルの連動を明確にし、効率性を追求する必要があります。

判断基準2:キッチン・ランドリー機能の戦略的な追加

長期滞在市場に本格参入を考える場合、客室内の機能拡充が不可欠です。

既存の客室すべてにキッチンを導入するのは大規模な投資が必要ですが、部分的な対応も可能です。

  • 簡易キッチン・ユニットの導入:一部の客室を改修し、簡易的なシンクと電子レンジ、小型冷蔵庫を備えた長期滞在専用ルームを設ける。
  • 共用ランドリーの充実:質の高いコインランドリー設備を充実させ、利用客が快適に利用できる環境を整備する。これは短期滞在客の利便性向上にもつながります。

これらの機能は、ゲストに「生活インフラ」としての価値を提供し、単価の維持と稼働率の安定に貢献します。

判断基準3:テクノロジーによるスタッフ業務の最適化

長期滞在客の増加は、フロントや予約業務の負荷を軽減しますが、突発的なリクエストや設備トラブル対応は依然として発生します。

長期滞在客に対しては、客室電話ではなく、チャットツール(PMS連携のコミュニケーションツールなど)を通じた非対面でのコミュニケーションを標準化し、少人数のスタッフで複数の要望に対応できる体制を構築することが求められます。

清掃業務においても、週1回のフル清掃時以外は、リネン交換やゴミ回収などのミニマルなサービスをRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIスケジュール管理によって効率化し、現場スタッフの負担を減らすことが、人手不足時代における必須戦略となります。

長期滞在型ホテルを選ぶゲスト層の具体的な内訳

長期滞在型ホテルの需要は、主に景気変動の影響を受けにくい「法人需要」と「生活需要」の二つに大別されます。日本のホテル事業者がターゲットとする際の参考として、その具体的な内訳を見てみましょう。

1. 法人・ビジネス需要

これは長期滞在ホテルの最も信頼できる収益源です。企業は社員の出張や研修のために、経費が明確で、賃貸契約のような複雑な手続きが不要な長期滞在ホテルを好みます。

  • プロジェクトワーカー:数ヶ月にわたるITプロジェクト、コンサルティング、大規模な建設やインフラ整備に従事する専門職。
  • 企業の異動・転勤:新しい赴任地での住居探しが完了するまでの一時滞在。
  • 公的機関の派遣:自治体や非営利組織が災害復旧や地域プロジェクトのために派遣する職員。

2. 生活・個人需要

賃貸契約よりも柔軟で、かつホテルよりも生活しやすい環境を求める個人客です。

  • 医療ツーリズム・介護:長期入院する家族の付き添いや、治療のために特定の都市に滞在する患者。
  • 住宅問題:自宅の火災や水害による修理期間、あるいはリフォーム中の仮住まい。
  • リモートワーカー・デジタルノマド:旅行者でありながら、生活拠点を柔軟に変更したい人々。

特に経済型の長期滞在ホテルは、料金がアパートメントよりも安価でありながら、セキュリティや定期的なメンテナンスが付帯するため、生活インフラとしての魅力が高まります。

よくある質問(FAQ)

Q1: エクステンデッドステイホテルとビジネスホテルはどこが違いますか?

A: 決定的な違いは「客室内のキッチンと滞在期間」です。ビジネスホテルは一泊〜数泊の短期出張利用を想定しており、食事は外部またはホテル内のレストランに依存します。エクステンデッドステイホテルは、簡易キッチンを完備し、週単位・月単位の長期滞在を前提としています。運営側から見ると、清掃頻度やアメニティサービスが大幅に簡素化されている点も異なります。

Q2: WoodSpring Suitesはどのようなブランドですか?

A: WoodSpring Suitesは、主にアメリカで展開されている経済型(Economy)のエクステンデッドステイブランドで、IHGグループ傘下のブランドです。客室内にキッチン、無料Wi-Fi、ランドリー設備を備え、低価格で長期滞在を可能にすることに特化しています。投資家は、その安定した稼働率と低コスト運営を高く評価しています。

Q3: 長期滞在型ホテルの清掃頻度はどれくらいですか?

A: ブランドやプランによりますが、一般的に週に一度のフル清掃が基本です。短期滞在型のように毎日清掃やベッドメイクが行われることはありません。これにより人件費が大幅に削減されます。週に一度以外のゴミ捨てやタオル交換などは、共用スペースやリクエストベースで対応されることが一般的です。

Q4: 長期滞在型ホテルは日本のホテル業界にも浸透していますか?

A: 日本でも近年、中長期滞在に特化したアパートメントホテルやサービスアパートメントが増加傾向にあります。コロナ禍を経て、テレワークやワーケーション需要が高まり、キッチン付きや広い客室を持つホテルの需要が顕在化しました。今後は、特に経済型長期滞在ホテルのビジネスモデルが、人手不足解消と収益安定化の観点から、日本の地方都市や郊外でも注目される可能性があります。

Q5: 長期滞在ホテルはアパートメントを借りるのと比べてメリットはありますか?

A: 大きなメリットは「柔軟性」と「初期費用の安さ」です。アパートメントを借りる場合、敷金・礼金などの初期費用に加え、光熱費やインターネット契約、家具の購入が必要です。長期滞在ホテルでは、これらの手続きや費用が不要で、宿泊費のみで済みます。また、退去時の手続きも簡単で、滞在期間を柔軟に変更できる点も魅力です。

まとめ:長期滞在型ホテルは「高効率な生活インフラ」への進化

CIM GroupによるWoodSpring Suitesへの大規模融資は、ホテル業界の投資潮流が、単なる贅沢な「体験」から、「高効率で安定した生活インフラ」へとシフトしていることを示唆しています。

現在のホテル経営は、変動する需要に対応しつつ、高騰する人件費や運営コストを抑えるというジレンマに直面しています。エクステンデッドステイモデルは、清掃やアメニティ供給のサービスレベルを意図的に簡素化することで、このジレンマを構造的に解決し、投資家にとって魅力的な安定資産となっています。

日本のホテル事業者が、持続可能な経営を目指すためには、この「長期滞在」の考え方を戦略的に取り入れる必要があります。単に客室を安く提供するだけでなく、いかに人手をかけずに、ゲストの長期生活に必要な機能(キッチン、ランドリー)を提供できるかが、今後の収益安定化の鍵となるでしょう。

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