2025年、ホテル業界のDXは新たな段階に突入しています。これまでの「施設内最適化」から、「街全体のデータエコシステム」への参画という、より戦略的なアプローチが本格化してきました。その象徴的な出来事が、NTTコミュニケーションズによる客室制御システム「Smart All in」の提供開始と、業界標準化を推進する「日本ホスピタリティーテクノロジー協議会(JHTA)」の設立です。
スマートシティ連携の幕開け:NTTコミュニケーションズ「Smart All in」
2025年4月1日、NTTコミュニケーションズが宿泊業界向け客室制御/情報管理システム「Smart All in」の提供を開始しました。この発表で特に注目すべきは、単なる客室システムの提供にとどまらず、街区全体のデータプラットフォームとの連携を前提とした設計が行われている点です。
「Smart All in」の革新性
従来の客室制御システムが施設内の効率化に焦点を当てていたのに対し、「Smart All in」は以下の特徴を持ちます:
施設横断型のデータ統合
- 宿泊者の在室状況のリアルタイム把握
- 照明・空調制御による省エネルギー化
- 清掃タイミングの最適化
- 館内設備の混雑状況可視化
街区レベルでの価値創出
- NTTコミュニケーションズの「Smart Data Platform for City」との連携
- dポイントクラブ(1億会員超)との連携による利用シーン拡大
- 大規模複合開発案件での他施設との相乗効果創出
このアプローチの背景には、ホテルとオフィスビル、商業施設、MICE施設などが一体化した大規模複合開発案件の増加があります。施設間の連携と相乗効果による高付加価値化が、新たな競争優位性の源泉となっているのです。
業界標準化の大きな転換点:JHTA設立の意義
2025年3月、「日本ホスピタリティーテクノロジー協議会(JHTA)」が設立されました。これは単なる業界団体の設立ではなく、日本のホテル業界がグローバル標準への本格的な参入を決断した歴史的な瞬間と言えるでしょう。
データ標準化がもたらす変革
JHTAの最重要課題は、PMSと周辺システムのデータ連携標準化です。従来、日本のホテル業界では:
課題の現状
- PMSと周辺機器の連携ルールが統一されていない
- 汎用性・互換性の低さが導入障壁となっている
- システム導入・運用コストが高止まりしている
解決への道筋
- 国際基準「HTNG Express」の採用
- 必要最低限のデータ開示による効率的連携
- 数週間単位での開発期間短縮を実現
観光庁の支援のもと、宿泊4団体(日本ホテル協会、全日本ホテル連盟、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、日本旅館協会)、PMSベンダー、テクノロジーベンダーが一堂に会する体制が整ったことで、業界全体での生産性向上が現実的なものとなりました。
先進事例に見るスマートシティ連携の実現
NTTコミュニケーションズのロボット連携システム
2024年から提供されているサービスロボット連携機能では、「Smart Data Platform for City」を活用した階をまたいだ自律走行が実現されています:
ルームサービス業務
- インルームダイニング配送の自動化
- 客室制御システムとの連携による到着通知
- チャイム鳴動とディスプレイメッセージの自動表示
ポーター業務
- 荷物運搬の自動化
- 宿泊客随行型・時間指定型の柔軟対応
- 音声認識による多言語対応
これらの機能は、単一施設内の効率化を超えて、街区全体のロボット配送網への参画を見据えた設計となっています。
顔認証プラットフォーム「FreeiD ホテル」
2025年5月には、DXYZ株式会社とUSEN-ALMEXが共同開発した「FreeiD ホテル」が実用化されました。常石グループの複合施設「せとのおか」での導入事例では:
シームレスな宿泊体験
- チェックイン後の全館顔認証アクセス
- ルームキー不要の客室入退室
- 共用部利用の完全自動化
社員寮併設による新たなモデル
- 企業の福利厚生向上と地域経済活性化の両立
- 従業員向けホテル機能との複合運用
- 地域貢献型の施設運営モデル
データ統合がもたらす新たな収益機会
需要予測の高度化
生成AI活用により、PMSデータとDMOデータの統合分析が実現しています。北海道の実証事例では:
販売戦略立案の効率化
- 従来半日の作業が15分に短縮
- 戦略立案頻度の大幅向上
- データ量増加による分析精度向上
多角的な顧客分析
- 国籍別消費傾向の自動把握
- パーソナライズされた商品推奨
- 需要予測に基づく動的価格設定
地域全体での相乗効果創出
豊岡市の実証事例では、地域DMOの需要予測データとPMSデータを組み合わせることで:
売上最適化施策
- 売上低下日の自動検出
- シフト状況に応じた販売施策提案
- 「アグレッシブ」「標準」「控えめ」の3段階提案システム
作業効率化
- 従来30分の分析作業を10分に短縮
- ボタン操作による即時施策生成
- 多言語対応の自動化
2025年下半期に向けた戦略的示唆
データプラットフォーム参画の重要性
今回の動向から明らかになったのは、個別最適化から全体最適化への転換です。ホテル単体でのDX推進ではなく、街区・地域レベルでのデータエコシステムへの参画が、新たな競争優位性の源泉となっています。
検討すべき投資領域
- 国際標準準拠のPMSへの移行 – HTNG Express対応システムの導入検討
- スマートシティプラットフォームとの連携 – 地域DMOや自治体データ基盤との接続
- 生成AI活用基盤の構築 – 需要予測・顧客分析の高度化
業界標準化への積極参画
JHTAの設立は、日本のホテル業界がグローバル競争に本格参入する転換点です。標準化プロセスへの早期参画により:
競争優位性の確保
- 新技術導入コストの削減
- システム連携の迅速化
- 海外展開時の技術的障壁の除去
人材育成の加速
- 国際標準に準拠したスキル習得
- グローバルベンダーとの直接対話機会
- 最新技術動向のキャッチアップ
まとめ:街づくりと一体化するホテル経営
2025年のホテル業界は、「施設運営の効率化」から「街づくりへの能動的参画」へとパラダイムシフトしています。NTTコミュニケーションズの「Smart All in」とJHTAの設立は、その象徴的な出来事です。
成功のカギは、データプラットフォームを通じた価値創出にあります。単なる業務効率化ツールとしてのDXではなく、地域経済活性化と顧客体験向上を同時に実現する戦略的投資として位置づけることが重要です。
今後、補助金制度も充実している今こそ、スマートシティ連携を見据えたホテルDX投資の最適なタイミングと言えるでしょう。街づくりと一体化したホテル経営モデルの確立により、持続可能な競争優位性の構築を目指しましょう。
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