結論
2026年のホテル経営において、かつての常識だった「豪華な夕食」は必ずしも正解ではなくなりました。北海道・小樽の事例では、利用率がわずか8%に低迷していた夕食を思い切って廃止し、夜の「〆スイーツ(シメスイーツ)」に特化したことで、宿泊客の満足度と地域回遊性を劇的に向上させています。単にコロナ前の状態に戻る「レジリエンス(回復)」を目指すのではなく、現場の若手スタッフが主導して「顧客がその街に泊まる理由」を再定義することが、2026年の競争優位性を決定づけます。
はじめに:なぜ2026年のホテルに「夕食」が不要なのか?
現在、日本のホテル業界は大きな転換点を迎えています。観光庁が発表した2025年の「宿泊旅行統計調査」の傾向を分析すると、訪日外国人の増加だけでなく、国内旅行者のニーズも「ホテル内完結型」から「地域体験型」へと明確にシフトしています。特に地方都市のホテルにおいて、画一的な会席料理やビュッフェ形式の夕食は、人件費の高騰と食材ロスの温床となり、収益を圧迫する要因となっています。
こうした中、注目を集めているのが「夕食をあえて提供しない」という選択です。しかし、ただ食事を抜くのではありません。宿泊者が街へ出かけ、地元の飲食店を楽しんだ後に、再びホテルへ戻りたくなる「帰着の動線」をいかにデザインするかが重要になっています。本記事では、小樽のホテルが20代の現場スタッフ主導で実現した「〆スイーツ」による逆転劇を軸に、これからのホテルが持つべき戦略を深掘りします。
編集長、小樽のホテルで「夕食をやめた」というニュースを見ました。夕食ってホテルの大きな収入源じゃないんですか?それをお菓子に変えるなんて、ちょっと無謀な気がするのですが……。
数字の裏側を見る必要があるね。そのホテルでは夕食の利用率がたったの8%だったんだ。92%の客が外で食べているのに、維持費だけがかかっていた。それを、街の飲食店と共存できる「〆スイーツ」に切り替えたのは、非常に合理的な判断なんだよ。
小樽の事例:利用率8%からの「〆スイーツ」逆転劇とは?
PR TIMESが報じた小樽のホテルプロジェクト(現場責任者:20代スタッフ 髙瀨さん)では、自社ホテルの夕食利用率が極端に低いという課題に対し、無理に集客を強めるのではなく「夕食を廃止する」という決断を下しました。
「泊まる理由」を街全体でつくる戦略
小樽には魅力的な飲食店が豊富にあります。宿泊客が「せっかく小樽に来たのだから、寿司や海鮮を街で楽しみたい」と考えるのは自然な欲求です。このホテルが打ち出したのは、街で食事を終えた後にホテルへ戻り、夜の静寂の中で楽しむ「〆スイーツ」という体験です。これにより、以下の3つの効果が生まれました。
- オペレーションの劇的な効率化: 重労働な夕食の仕込み・サービス・片付けを廃止し、少人数で提供可能なスイーツ提供に集約。
- 地域との共生: 地元の飲食店をライバルではなく「パートナー」と位置づけ、宿泊客を街へ送り出す。
- 独自性の確立: 「小樽で一番夜を楽しめるホテル」としてのブランディングに成功。
このように、自前主義を捨てることで生まれる価値は、2026年の人手不足が深刻なホテル業界において極めて有効な生存戦略と言えます。これについては、以前の記事「2026年、なぜ地方旅館は素泊まりで稼ぐ?人手不足解消と収益UPの秘訣」でも触れた、リソースの選択と集中に通じるものがあります。
現場のリアル:20代スタッフが主導する「オペレーションの断捨離」
このプロジェクトの特筆すべき点は、20代の若手スタッフが現場責任者として推進したことです。旧来のホテル経営陣であれば、「夕食廃止」という大胆な提案はリスクとして却下されていたでしょう。しかし、デジタルの感覚を持ち、顧客のリアルな声(UGC:ユーザー生成コンテンツ)を敏感に察知する若手世代は、「今の客が本当に求めているのは、豪華な会席料理ではなく、SNSに載せたくなるような特別な夜のひととき」であることを直感的に理解していました。
具体手順:夕食廃止からスイーツ転換へのフロー
現場で行われた具体的な手順は以下の通りです(編集部による推測と一般論を含む)。
| フェーズ | 具体的なアクション | 狙い |
|---|---|---|
| 現状分析 | POSデータと予約状況から夕食利用率の低さを数値化。 | 主観ではなく客観的事実で経営層を説得。 |
| コンセプト策定 | 「小樽の夜を締めくくる場所」というテーマの設定。 | 単なる欠落ではなく「新しい価値」としての定義。 |
| オペレーション設計 | 調理資格が不要な盛り付け中心のメニュー開発。 | 誰でも一定のクオリティで提供できる体制構築。 |
| デジタル発信 | InstagramやTikTokでの視覚的なPR。 | 若年層およびインバウンド層への直接リーチ。 |
なぜ「レジリエンス」という言葉がホテル経営を危うくするのか?
米Skift誌(2026年5月11日記事)は、現在ホテル業界で多用されている「レジリエンス(回復力・弾力性)」という言葉の危うさに警鐘を鳴らしています。多くの経営者が、市場が苦境から「元に戻ること」をレジリエンスと呼んでいますが、これは非常に危険な考え方です。なぜなら、2026年の市場環境(コスト構造、顧客心理、テクノロジー)は、コロナ前とは全く別物だからです。
単なる「回復」ではなく「適応」が必要
前述の小樽の事例は、まさにレジリエンスの罠を回避し、自らを再定義した例です。ロンドンのラグジュアリーホテルが「一晩900ポンド(約18万円)で壁しか見えない部屋」を売り続け、顧客の期待値から乖離し始めているのと対照的に、地域の特性に合わせた「アンチフラジャイル(反脆弱)」な戦略を採っています。
※アンチフラジャイル:衝撃や変化によって、単に耐えるだけでなく、かえって強くなる性質のこと。これについては「2026年、なぜ那覇ホテルは雨でも3万室予約?アンチフラジャイル戦略」で詳しく解説しています。
なるほど……。「昔のように戻る」ことばかり考えていると、今のニーズからどんどんズレてしまうんですね。現場の若いスタッフさんの感覚の方が、実は今の正解に近いのかもしれないです。
その通り。2026年の今、ホテルに求められているのは、豪華な設備や過剰なおもてなしではなく、その街の滞在をどう完璧に「デザイン」してくれるかという提案力なんだ。〆スイーツはその象徴的な一例だね。
導入の壁:夕食廃止に伴う「3つのリスク」と対策
ただし、夕食廃止とスイーツ特換には相応のリスクも伴います。導入を検討する現場スタッフや支配人は、以下の点に注意が必要です。
1. 宿泊単価(ADR)の低下リスク
2食付きプランを廃止すれば、当然ながら1人あたりの単価は下がります。これをカバーするためには、客室単価自体を上げるか、スイーツ提供時間帯の飲料(酒類等)のアップセル(追加販売)を強化する必要があります。小樽の事例でも、宿泊者以外も利用できる「バー機能」を持たせることで収益を補完しています。
2. 周辺飲食店の供給不足
ホテルが夕食をやめた場合、全てのゲストが街へ出ます。もし周辺に飲食店が少なかったり、日曜・祝日が定休日の店ばかりだったりすると、ゲストは「食べる場所がない」という深刻な不満を抱くことになります。導入前に、周辺店舗のキャパシティと営業時間を徹底的に調査(フィールドワーク)することは必須です。
3. 古い固定観念を持つリピーターの離反
「この宿の食事が楽しみだった」という常連客は必ず離れます。しかし、それを恐れていては改革は進みません。ターゲット層を明確に「アクティブに街を楽しむ層」へと入れ替える覚悟が、経営陣には求められます。
専門用語解説
- TRevPAR(ティーレブパー): 全利用可能客室あたり総収益。客室収入だけでなく、レストランやスパ、今回のようなスイーツ提供などの全売上を含めた指標。2026年のホテル経営において最も重視されるKPIの一つ。
- UGC(User Generated Content): ユーザー生成コンテンツ。宿泊客がSNSに投稿した写真や口コミのこと。〆スイーツのような「映える」コンテンツは、広告費をかけずに集客する強力な武器となる。
- GEO(Generative Engine Optimization): 生成AIエンジン最適化。GoogleのSGEやChatGPTなどの検索に対し、ホテルが選ばれるよう情報を整えること。詳細は「2026年、ホテル集客はGEOへ!」を参照。
よくある質問(FAQ)
Q1. 夕食を廃止して、本当に収益は上がりますか?
売上自体は減少する可能性がありますが、人件費、光熱費、食材廃棄コストが大幅に削減されるため、利益率(GOP率)は改善する傾向にあります。特に人手不足で派遣スタッフに頼っている現場では、その効果は絶大です。
Q2. スイーツだけで「泊まる理由」になりますか?
スイーツそのものというより、「夜の時間を豊かに過ごせる場所がある」という体験が理由になります。無料提供にするか、高付加価値な有料メニューにするかは、周辺の競合状況によります。
Q3. インバウンド客には夕食なしでも受け入れられますか?
むしろ訪日外国人は、ホテル内に閉じ込められることを嫌い、地元のローカルな食体験を求める傾向が強いです(観光庁の訪日外国人消費動向調査より)。英語での飲食店マップ提供など、街歩きをサポートする姿勢が評価されます。
Q4. 20代のスタッフにプロジェクトを任せるのは不安です。
数値責任(KPI)は支配人が持ち、アイデアと実行プランを若手に任せる「権限委譲」が成功の鍵です。失敗しても良い範囲を明確にすることが、2026年のリーダーシップの役割です。
Q5. どんなホテルでも「〆スイーツ戦略」は使えますか?
周辺に飲食店が全くない山奥の孤立した旅館などには向きません。徒歩圏内に魅力的な飲食店や観光スポットがある「都市型」「温泉街型」のホテルで最も効果を発揮します。
Q6. スイーツの品質はどこまでこだわるべきですか?
高級である必要はありませんが、「物語」が必要です。地元の果物を使っている、地元のパティスリーと提携しているなど、そのホテルでしか食べられない理由を付加してください。
まとめ:2026年に選ばれるホテルは「空白」をデザインする
小樽の「〆スイーツ」への転換は、単なるメニュー変更ではなく、ホテルの役割を「宿泊・飲食の提供」から「滞在体験のキュレーション」へとアップデートした事例です。2026年、テクノロジーやAIがどれほど進化しても、人々が旅に求めるのは「心に響く体験」です。
あえて夕食を提供しないという「空白」を作ることで、客は街へ出かけ、そこで地元の人と触れ合い、戻ってきたホテルで甘い記憶と共に夜を締める。この一連のストーリーを設計することこそが、現場ホテリエの真の市場価値となります。まずは自社の夕食利用率を客観的に見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
これからのホテルは、全部を自分たちで抱え込まなくていい。街を一つの大きな「ホテル」と捉えて、自分たちの役割を再定義することが、2026年を勝ち抜く唯一の道だよ。現場の若い感性を信じて、一歩踏み出してみよう。


コメント