結論(先に要点だけ)
- 2026年の旅行トレンド:エクスペディアの調査(Unpack ’26)によると、1度の旅行で複数の宿泊施設を渡り歩く「意図的なホテルホッピング」が急増しています。
- 背景:マリオット・ボンヴォイ等の大手チェーンが「宿泊ブランド数」をステータス条件に加えたことや、消費者の「1回で多様な体験をしたい」という欲求が合致した結果です。
- 運営側の課題:チェックイン・アウトの回転数が増えるため、清掃コストの増大とフロント業務の圧迫が深刻化します。
- 対策:モバイルキーやAIによる清掃管理などの「摩擦ゼロ(フリクションレス)」なインフラ構築が、ホッピング需要を取り込むための必須条件となります。
はじめに
2026年、ホテル業界は大きな転換点を迎えています。これまで宿泊施設にとって理想とされてきた「連泊による安定稼働」という前提が、消費者の行動変化によって揺らぎ始めているからです。観光庁やエクスペディア・グループが発表した最新の市場データでは、2泊以上の旅行において、あえて初日と2日目で異なるホテルを予約する「ホテルホッピング」を選択する層が、前年比で20%以上増加していることが示されました。
この変化は、単なる気まぐれではありません。大手ホテルチェーンのロイヤリティプログラムのルール変更や、SNSでの「宿泊体験の切り売り」を重視するZ世代・ミレニアル世代の価値観が根底にあります。本記事では、この「ホテルホッピング」という新潮流がホテルの現場運営にどのようなインパクトを与え、経営者はどのような判断を下すべきかを深掘りします。
なぜ2026年に「ホテルホッピング」が急増しているのか?
結論から言えば、消費者が「効率的なステータス獲得」と「体験の最大化」を同時に求めているからです。
理由1:ロイヤリティプログラムの「ブランド数」重視へのシフト
2026年第1四半期にマリオット・インターナショナルが発表したプロモーションは業界に衝撃を与えました。従来の「宿泊日数(Night)」だけでなく、「滞在したブランド数」に応じてボーナスポイントや宿泊実績を付与する仕組みを導入したのです。これにより、同じ都市に滞在しながら毎日ホテルを変える「修行層」が爆発的に増加しました。
理由2:SNS経済と「体験のキュレーション」
現代の旅行者は、1つの場所に長く留まることよりも、異なるデザイン、異なる朝食、異なる景色をSNSに投稿することを好みます。2泊の旅行で「2つの異なる世界観」を楽しめるホテルホッピングは、彼らにとってコストパフォーマンス(タイパ)の高い選択肢となっています。
理由3:リモートワークと「ホッピング」の親和性
「ワーケーション」が定着した2026年、平日はビジネス特化型のホテルで集中し、週末はラグジュアリーホテルでリラックスするという、目的別の住み分けが1度の旅行内で行われるようになっています。
ホテルホッピングが運営側に与える「収益」と「コスト」の真実
ホッピング客の増加は、ホテルにとって「諸刃の剣」です。売上(ADR)が向上する一方で、目に見えないコストが収益を圧迫します。
| 項目 | メリット(収益・機会) | デメリット(コスト・リスク) |
|---|---|---|
| 販売単価(ADR) | 連泊割引を適用せずに済むため、1泊あたりの単価が維持されやすい。 | 週末のみのスポット予約が増え、平日の稼働率が不安定になる。 |
| 清掃コスト | なし(メリットではない) | 「滞在清掃」がなくなり、すべて「アウト清掃」となるため、リネン交換や消耗品コストが1.5倍〜2倍に跳ね上がる。 |
| 現場負荷 | 新規顧客との接点が増え、リピーター獲得のチャンスが増える。 | 15時のチェックイン集中が激化。フロントの行列がゲスト満足度(GSS)を著しく低下させる。 |
| 収益性(RevPAR) | 高単価な1泊予約をパズルのように組み合わせることで最大化が可能。 | キャンセル発生時の空室リスクを埋めるための手数料コストが増加する。 |
※ADR:Average Daily Rate(客室平均単価)。RevPAR:Revenue Per Available Room(販売可能客室数あたりの客室売上)。これらはホテルの収益性を測る最重要指標です。
現場スタッフへの負荷:チェックイン・アウトの増加をどう乗り切るか?
ホテルホッピングが定着すると、現場のオペレーションは「1泊ゲスト」の波に飲み込まれます。従来のオペレーションでは、14時から16時の間に全予約客の半数が入れ替わる事態に耐えられません。ここで重要になるのが、テクノロジーによる「摩擦の除去」です。
特にフロントの物理的な混雑は、ホッピング客が最も嫌うポイントです。彼らは「移動の多さ」を許容していますが、「待ち時間」には非常に厳しい傾向があります。スマートな入退室管理を実現するためには、物理的な鍵の受け渡しを廃止し、ゲストのスマートフォンを鍵にする仕組みが不可欠です。
たとえば、Wi-Fi接続型の電子錠であるRemoteLOCKのようなソリューションは、フロントを介さないチェックインを可能にし、ホッピング客の利便性と現場の省力化を両立させます。
この分野の詳細は、過去の記事「モバイルキーはインフラへ!ホテル運営を激変させるAI統合の真実」で解説した通り、2026年においては単なる便利ツールではなく、運営の継続性を左右する「生命線」となっています。
ホテリエが取るべき「選ばれるホッピング先」になるための戦略
ホッピング客は「浮気性」だと思われがちですが、実は「お気に入りのブランドの組み合わせ」を持っています。そのリストに残るための具体的な判断基準を提示します。
1. 荷物移動のストレスを解消する「ロジスティクス支援」
隣接するホテルや、同系列のホテル間での「荷物転送サービス」を公式に提供することは、ホッピング客にとって強力な選定基準となります。2026年時点では、自治体や配送業者と提携し、1,000円程度で当日配送を行うホテルが増えています。
2. 「ショートステイ」プランの戦略的活用
ホッピング客は、次のホテルへの移動時間を考慮し、早朝のチェックアウトや早めのチェックインを好みます。15時イン・11時アウトという画一的な時間枠を崩し、AIによる清掃完了通知と連動した「アーリーイン確約プラン」は、彼らのニーズに合致し、追加収益(アップセル)を生みます。
3. 朝食の「特化型」シフト
「このホテルの朝食だけは外せない」という一点突破の魅力が、ホッピングの目的地(Destinations)としての地位を確立します。株式会社movの2026年調査でも、朝食の口コミ評価とホッピング客の指名予約率には強い相関が見られました。
導入の課題とリスク:ADR追求の裏にある落とし穴
ホテルホッピングを歓迎し、1泊予約ばかりを詰め込むことにはリスクも伴います。経済産業省のDXレポートでも触れられている通り、過度な回転率向上は、スタッフの疲弊(バーンアウト)を招きます。
- 清掃品質の低下:「アウト清掃」が連続することで、細部の清掃(ディープクリーニング)の時間が確保できなくなり、中長期的に資産価値を損なう恐れがあります。
- 顧客データ管理の断片化:1泊ずつの滞在では、ゲストの嗜好を十分に把握できず、パーソナライズされたサービスを提供しにくいという課題があります。
- 変動費の増大:リネンサプライ代やゴミ処理費用、アメニティ消費量が、連泊客中心の運営に比べて20〜30%高くなる可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q. ホテルホッピング客は、どのような層が多いですか?
A. 2026年現在は、マリオットやヒルトン等の上級会員を目指す「ステータス修行層」に加え、特定のライフスタイル(サウナ、建築、カフェなど)を目的とした「推し活旅行者」が中心です。年齢層は20代後半から40代まで幅広く分布しています。
Q. 連泊客の方が利益率が高いのではないでしょうか?
A. 基本的には連泊客の方が清掃コストが低いため、利益率は高くなります。しかし、現在はOTA(オンライン旅行代理店)の競合が激しく、連泊割引を適用せざるを得ないケースが多いため、ホッピング客を高単価(ラックレートに近い価格)で取り込む方がRevPARが高くなる逆転現象も起きています。
Q. ホッピング客向けの「荷物預かり」の負担が重いです。
A. 物理的なスペース不足を解消するため、セルフ式のスマートロッカーを導入し、スタッフの介入をゼロにするホテルが増えています。また、放置スーツケース問題への対策も同時に講じる必要があります。
Q. 小規模なブティックホテルでも対応可能ですか?
A. むしろ小規模なホテルほど、「特定の体験」に特化できるため、ホッピングの目的地になりやすいと言えます。大手チェーンにはない独自の個性を打ち出すことが鍵です。
Q. ホッピング需要を止める(連泊を促す)べきですか?
A. 需要を止めることは困難です。2026年の市場は「変化を好む」層が主導しています。無理に連泊を強いるよりも、1泊でも満足度を上げ、次回の旅行で再び「ホッピングの1館」に選ばれることを目指すべきです。
Q. 現場の清掃スタッフが足りません。
A. ホッピング客の増加でアウト清掃が増える場合、清掃ロボットの導入や、清掃完了をリアルタイムで共有するPMS(プロパティマネジメントシステム)への刷新を検討してください。清掃の効率化が収益に直結します。
まとめ:2026年の勝者は「変化を厭わないホテル」
ホテルホッピングという現象は、単なる一過性のブームではなく、人々の「移動」と「滞在」の価値観が細分化された結果です。消費者はより多くの体験を求め、より効率的にステータスを稼ごうとしています。
ホテル経営者が取るべき次のアクションは以下の3点です。
- インフラの刷新:モバイルキーや自動チェックイン機を導入し、1泊ゲストの回転に耐えうる「摩擦ゼロ」のフロント環境を構築すること。
- コスト構造の再定義:清掃コストの増加分をADRで回収できているか、データに基づいた価格設定(ダイナミックプライシング)を精査すること。
- 独自体験の尖鋭化:「ホッピングしてでも泊まりたい」と思わせる、ブランド特有の体験(朝食、ウェルネス、デザイン等)にリソースを集中させること。
時代の変化に抵抗するのではなく、ホッピング客の動線を自社の利益構造の中に組み込んだホテルこそが、2026年以降の厳しい競争を勝ち抜くことができるでしょう。


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