結論(先に要点だけ)
2026年のホテル業界は、物件数や客室総数が減少する一方で、1室あたりの収益(ADR/RevPAR)を最大化する「高付加価値化」が生き残りの絶対条件となっています。最新の市場調査では、低価格帯の3つ星ホテルが減少する一方、ラグジュアリーな体験を提供する4つ星以上のセグメントが拡大。ただ泊まる場所を提供する「装置産業」から、地域の文化や特別な体験を編纂(へんさん)する「キュレーション産業」への構造転換が、持続可能な収益モデルを構築する鍵となります。
なぜ今、ホテルの「供給数」が減り、「単価」が上がっているのか?
世界的な観光地や国内の主要都市において、ホテルのプロパティ(物件)数および客室供給数が減少傾向にあります。これは一見、衰退に見えますが、実態は「質の低い供給の淘汰」と「ラグジュアリーへの格上げ」による市場の健全化です。
Point:供給を絞り、体験の濃度を上げる戦略
2026年現在のホテル経営において、客室数を追う戦略は限界を迎えています。建築費の高騰と人手不足により、多くの部屋を安く売るモデルは収益を圧迫するからです。代わりに、客室数を減らしてでも1部屋の価値を高め、地域のヘリテージ(遺産)やストーリーと結びついた体験を提供することが、唯一の勝路となっています。
Reason:HVSレポートが示す「3つ星の減少と4つ星の台頭」
HVS(ホテル専門のコンサルティング会社)が2026年2月に発表した「タオルミーナ・マーケット・パルス(シチリア島)」の調査データによると、2017年から2024年にかけてホテルの総供給物件数は80から71へと約11%減少しました。特に顕著なのが3つ星セグメントの減少(23軒から17軒)です。一方で、4つ星セグメントは29軒から31軒へと増加しています。
このデータは、単なる物件の閉館ではなく、既存の古いホテルが改装を経てハイエンドなブランドへリブランド、あるいは統合されていることを示唆しています。日本国内でも、老朽化したビジネスホテルが「ライフスタイルホテル」や「ブティックホテル」へと生まれ変わる動きが加速しており、市場の二極化が鮮明になっています。
Example:移動と宿泊が融合する「キュレーション型」の体験
ラグジュアリー化の具体例として、2025年に運行を開始した「オリエント・エクスプレス・ラ・ドルチェ・ヴィータ」のような事例が挙げられます。これは単なる豪華列車ではなく、ローマ、ベネチア、シチリアなどの歴史的な目的地を現代的な視点でつなぐ「動くホテル」です。宿泊客は「どこに泊まるか」ではなく、「どのような物語を体験するか」に高額な料金を支払っています。
こうした「体験のキュレーション」は、日本の地方ホテルでも応用可能です。例えば、地域の伝統工芸品を客室で使い、気に入れば購入できる仕組みなどは、宿泊以外の収益(付帯収入)を底上げします。この戦略については、こちらの記事(客室を文化のショールームに!ホテルADRを3割増やす工芸品販売戦略)で詳しく解説しています。
高付加価値化を阻む「3つの課題」と現実的な対策
ラグジュアリー化や高単価戦略への移行は、口で言うほど容易ではありません。現場が直面する具体的な壁とその乗り越え方を整理します。
| 課題の種類 | 具体的なリスク | 2026年版の対策案 |
|---|---|---|
| 人財の質 | 高単価に見合う接客スキルを持つスタッフが不足する。 | 「作業」をAIで自動化し、スタッフを「地域の専門家」として再教育する。 |
| 初期投資の重荷 | リノベーションや設備導入のコストが回収できない。 | 全電化によるコスト削減やPPP(公民連携)による公的資金活用を検討する。 |
| 顧客の期待値 | 単価に見合う「特別な理由」が見当たらないと評価が急落する。 | 「見えない快適性」や独自の宿泊体験(香り、音、触感)を設計する。 |
特に、インバウンドの富裕層や国内の「価値重視層」をターゲットにする場合、スタッフの語学力や文化理解は必須です。現場スタッフのスキル底上げには、隙間時間で効率的に学べる学習ツールの導入が効果的です。例えば、スタディサプリENGLISHのような法人向け研修サービスを活用し、おもてなしの「言語化能力」を高めることも一つの手段でしょう。
「選ばれるホテル」になるための判断基準
あなたのホテルが2026年以降も生き残るために、以下のチェックリストで現状を確認してください。
- 地域のストーリーを語れるか?:その土地ならではの歴史、食、工芸をゲストに提案できているか。
- 「引き算」ができているか?:過剰なアメニティや、誰も使わない施設を廃止し、本質的な快適さ(睡眠や食事)に投資できているか。
- データに基づいた運用か?:稼働率だけでなく、RevPAR(販売可能客室1室あたりの収益)やLTV(顧客生涯価値)を指標にしているか。
もし、客室の設備を見直すことで収益を上げたいと考えているなら、こちらの深掘り記事(なぜ2026年、ホテル客室の「小さな設備」が収益を左右するのか?)がヒントになります。大規模な改装ができなくても、ゲストの満足度に直結するポイントは細部に宿ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 物件数が減ることで、ホテル業界の雇用は失われませんか?
A. 物件数は減っても、1施設あたりのスタッフ配置の「質」が求められるようになります。単純作業はAIやロボットが担いますが、ゲストへの個別提案や情緒的なケアを行う専門職の需要はむしろ高まっており、賃金水準も上昇傾向にあります。
Q. 中小規模のビジネスホテルがラグジュアリー化するのは無理がありませんか?
A. 全てを「5つ星」にする必要はありません。「特化型(ブティックホテル)」への転換が有効です。例えば「サウナ特化」「睡眠特化」など、特定のニーズに対して圧倒的な価値を提供することで、設備が古くても高いADRを維持することが可能です。
Q. インバウンド需要はいつまで続くと予想されますか?
A. 2026年現在も日本の観光資源に対する評価は高く、リピーター層の地方分散が進んでいます。ただし、「中国依存」からの脱却は必須であり、欧米豪や東南アジアの富裕層を取り込める多国籍戦略が、安定収益の鍵となります。
Q. 建築費が高すぎてリノベーションに踏み切れません。
A. 3Dプリント技術の活用や、居抜き物件を活用した「ブランド転換」など、工期とコストを抑える手法が登場しています。また、客室数を減らしてスイートルームを増設するなど、投資対効果の高い箇所に絞った「部分改装」から始めるのが定石です。
Q. DX(デジタルトランスフォーメーション)は高単価ホテルでも必要ですか?
A. はい、不可欠です。ただし「無人化」のためではなく、スタッフがゲストと向き合う時間を生み出すための「業務の可視化・自動化」として導入すべきです。IT化によってゲストの好みをデータ化し、次回の宿泊でパーソナライズされた体験を提供することが、真のラグジュアリーにつながります。
Q. 朝食を豪華にすれば、宿泊単価は上げられますか?
A. 朝食は強力な武器になりますが、コスト高騰のリスクも孕んでいます。最近では「無料朝食」を廃止し、有料で質の高い「選べる朝食」に切り替えることで、満足度と収益を両立させるモデルが主流になりつつあります。
まとめ:次のアクションの提示
2026年のホテル市場は、「量から質へのシフト」という大きな転換点にあります。供給数が減少している事実は、市場が「本物」を求めている証拠です。経営者が取るべき次のステップは、自社の立ち位置を再定義し、地域の文脈に基づいた独自の価値を設計することです。
まずは、自社のRevPARを競合と比較し、どのセグメントへの「格上げ」が可能か検討してください。システム面での基盤強化が必要な場合は、こちらの解説(「使いやすいPMS」はなぜ現場を疲弊させる?2026年のシステム選定基準とは?)を参照し、戦略的な投資判断を行いましょう。


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