観光地でない商店街で年1万泊?「まちごとホテル」の驚くべき収益構造とは

宿泊ビジネス戦略とマーケティング
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  1. はじめに:観光地ではない商店街が年間1万人の宿泊者を集めた秘密
  2. 結論(先に要点だけ)
  3. 「まちごとホテル」SEKAI HOTELとは?ビジネス構造の事実確認
    1. SEKAI HOTELはどこにある?観光地ではない「商店街」を選んだ理由
    2. 客室を地域全体に分散させる「ドミナント運営」とは?
  4. なぜ観光地ではない場所で年間1万人宿泊を実現できたのか?(成功の理由)
    1. 成功要因1:高コストを回避する「変動費化」戦略
    2. 成功要因2:地域のリアルをコンテンツに変える「体験の独占」
    3. 成功要因3:地域との共創が生んだ「安全・安心」という付加価値
  5. SEKAI HOTELモデルは既存のホテル経営にどう応用できるか?
    1. 応用可能性1:遊休資産の収益化と初期投資の低減
      1. 判断基準:遊休資産を活用すべきかどうか?
    2. 応用可能性2:F&B部門の課題解決と収益多角化
  6. ホテル事業者が今後注目すべき「地域インフラ化」という新潮流
  7. よくある質問(FAQ)
    1. SEKAI HOTELの客室はどこにあるのですか?
    2. 宿泊者が地域店舗を利用するメリットは何ですか?
    3. このモデルは初期投資をどれくらい抑えられますか?
    4. 観光地ではない場所で集客するマーケティング戦略は何ですか?
    5. セキュリティや安全面での課題はありませんか?
    6. このビジネスモデルは、他の地方都市でも応用可能ですか?
    7. このモデルは通常のホテル(一棟型)にとって脅威となりますか?

はじめに:観光地ではない商店街が年間1万人の宿泊者を集めた秘密

ホテル経営において、立地は収益を決定づける最重要要素とされてきました。特にインバウンド需要が回復する中、集客力の高い「観光地」や「都心一等地」に投資が集中するのは自然な流れです。しかし、大阪の特定の商店街では、従来の常識を覆すビジネスモデルが成功を収めています。

クジラ株式会社が展開する「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」は、観光地ではない、むしろ過去に治安の課題があった地域を「まちごとホテル」と見立て、年間10,000人もの宿泊者を集めています(出典:クジラ株式会社プレスリリース)。

これは単なるユニークな宿泊施設の話ではありません。客室を分散させ、地域全体のインフラをホテルの機能として活用するこのモデルは、高騰する建設コストや、人手不足に悩むホテル業界にとって、既存資産の活用、収益性、運営効率の面で、新しい光を投げかけるものです。

この記事では、SEKAI HOTELの事例を一次情報に基づき詳細に分析し、なぜ観光地ではない場所で収益が生まれるのか、その独自のビジネス構造と、既存のホテル事業者がこの戦略から何を学ぶべきかを深掘りします。

結論(先に要点だけ)

  • SEKAI HOTELは、客室を商店街の空き家や空き店舗に分散配置し、地域全体を一つのリゾートとして機能させる「分散型ホテル」モデルです。
  • このモデルの核は、地域の店舗(パン屋、銭湯、居酒屋など)をホテルのサービス機能(朝食、大浴場、ラウンジなど)として組み込む「地域共創」と「コストの変動費化」です。
  • 成功の鍵は、建設費や人件費といった固定費を抑え、代わりに観光地では得られない「地域のリアルな暮らし」という高付加価値な体験を独占的に提供した点にあります。
  • 既存ホテル事業者は、F&B部門の外部委託による変動費化、そして地域の遊休資産を活用したドミナント戦略を、収益構造改善のヒントとして取り入れるべきです。

「まちごとホテル」SEKAI HOTELとは?ビジネス構造の事実確認

SEKAI HOTELは、従来のホテルが持つ「一つの箱」の中で全てのサービスを完結させる形態とは根本的に異なります。このモデルは、地域全体を宿泊体験のキャンバスとして捉えています。

SEKAI HOTELはどこにある?観光地ではない「商店街」を選んだ理由

SEKAI HOTELが展開する場所は、大阪市西成区や東大阪市など、一般的に観光客が目的として訪れる場所ではありません。特に初期の展開地は、地域課題を抱えていたエリアです(出典:クジラ株式会社プレスリリース)。

彼らが観光地ではない商店街を選んだ背景には、以下の二つの事業合理性があります。

  1. 物件調達コストの抑制と遊休資産の活用:
    都心の一等地に新築ホテルを建設する場合、莫大な土地取得費と建設費がかかります。一方、商店街にはシャッターが降りた空き店舗や空き家が多く存在します。これらをリノベーションして客室やフロント機能として活用することで、初期投資を大幅に抑えることができます。
  2. 体験の差別化:
    京都や大阪の中心部にあるホテルは「観光の拠点」ですが、商店街のホテルは「日常の体験」そのものが提供価値になります。観光客に「暮らすように泊まる」という、競合他社が簡単に真似できない独自の価値を提供できるのです。

客室を地域全体に分散させる「ドミナント運営」とは?

SEKAI HOTELの運営モデルは、小売業界で用いられる「ドミナント戦略」に類似しています。これは、特定エリアに集中して店舗を展開することで、物流やマーケティングの効率を高める手法です。

このモデルにおいて、ホテルの機能は物理的に分散しています。

  • 客室: 商店街内の空き家や空き店舗を改修。
  • フロント: 専用のチェックイン施設(または提携店舗)に集約。
  • 飲食(F&B): 朝食は地域のパン屋、夕食は地元の居酒屋など、提携店舗のクーポンやチケットで賄う。
  • アメニティ/大浴場: 地域の銭湯や理髪店などを活用。

これにより、ホテルの運営側は、本来固定費となるはずだったF&B施設や大浴場といった設備投資、およびそれらを運営する人件費を抱える必要がなくなります。地域店舗への支出は、宿泊客数に応じた「変動費」となり、ホテル経営の財務安定性が高まります。

従来のホテル経営における多拠点運営の難しさは、申請業務の煩雑さや標準化の課題にありました。この点に関して、より広域な多拠点運営における課題解決については、ホテル多拠点運営の申請地獄をどう脱却?標準化が収益向上の鍵にの記事で詳細に解説しています。

なぜ観光地ではない場所で年間1万人宿泊を実現できたのか?(成功の理由)

年間10,000人という集客実績は、立地のアドバンテージがない中で見れば驚異的な数字です。この成功は、従来のホテル経営の常識から逸脱した、戦略的な設計に基づいています。

成功要因1:高コストを回避する「変動費化」戦略

日本のホテル業界は、土地・建設コストの高さと、人手不足による人件費の高騰という二重の課題に直面しています。SEKAI HOTELはこれを根本的に解決しました。

課題 従来のホテル経営 SEKAI HOTELモデル
設備投資(F&B, 浴場) 高額な初期投資(固定費) 地域店舗を活用し投資ゼロ
運営コスト(F&B人件費) 専属スタッフの採用・育成(固定費) 地域店舗への支払い(変動費)
集客コンテンツ ホテル内の施設や豪華な客室 商店街の「リアルな日常」
キャッシュフロー 初期の借入金返済負担が大きい 初期投資が抑えられ早期の黒字化に貢献

この変動費化戦略は、RevPAR(客室一室あたりの売上)を追うだけでなく、GOPPAR(一室あたりの営業総利益)やEBITDA(税引前利益)を最大化する上で非常に強力です。稼働率が変動しても、固定費が低いため、急激な収益悪化リスクを抑えられます。

成功要因2:地域のリアルをコンテンツに変える「体験の独占」

ラグジュアリーホテルが「非日常」を売るのに対し、SEKAI HOTELは「日常の没入感」を売ります。

旅行者は、単なる宿泊施設ではなく、地元の人しか知らないような体験を求めています。SEKAI HOTELでは、朝、地域のおばちゃんが作るパンを食べ、昼は商店街の店主に話しかけ、夜は地元の銭湯で汗を流す――これらすべてが、予約したパッケージに含まれる「サービス」です。

これにより、宿泊者は「観光地を巡る旅」ではなく「商店街の一員になる旅」を体験します。この深い地域への関与は、SNSでの発信を促し、強力な口コミマーケティングとなり、結果的に高い客室単価と稼働率を支える要因となっています。

単なる宿泊ではない体験型事業への参入は、独立系ホテルがOTA依存から脱却し、収益を多角化する上で必須の戦略です。独立系ホテルは体験型事業でどう成長する?収益多角化の鍵も合わせてご参照ください。

成功要因3:地域との共創が生んだ「安全・安心」という付加価値

選定された地域が過去に治安の問題を抱えていたという事実は、逆説的に大きな価値を生んでいます。ホテルが地域課題解決の核となることで、行政や地域住民との連携が深まります。

宿泊客が増え、商店街に活気が戻り、地域店舗が収益を得る。この循環こそが、物理的な防犯カメラや警備員よりも強力な「安全」を生み出します。

ホテル運営会社は単なる施設管理者ではなく、地域を編集し、価値を再定義する「地域インフラの拠点」として機能します。これにより、宿泊客は「治安が改善した商店街」という社会的インパクトまで含めたストーリーを購入することになるのです。これは、サステナビリティ(持続可能性)や地域貢献(ESG/SDGs)を重視する現代の旅行トレンドに完全に合致しています。

SEKAI HOTELモデルは既存のホテル経営にどう応用できるか?

分散型ホテルモデルは、全ての大規模ホテルが採用できるわけではありませんが、そのビジネス設計思想は、既存ホテルの収益改善とコスト構造改革に重要なヒントを提供します。

応用可能性1:遊休資産の収益化と初期投資の低減

既存のホテルが都市部に集中していても、運営会社が周辺地域の遊休資産(老朽化したビル、空き家、元々オフィスだった物件など)をリースし、自社ブランドの別棟(アネックス棟)や長期滞在用客室として改修することは可能です。

これにより、高額な土地取得なしに客室数を増やし、稼働率が低迷しがちなオフシーズンでも安定した収益源(長期滞在需要など)を確保できます。特に、リノベーション費用は新築と比較して格段に安く抑えられます。

判断基準:遊休資産を活用すべきかどうか?

判断基準 Yes(すぐに取り組むべき) No(慎重に検討すべき)
周辺地域に遊休資産があるか? 徒歩10分圏内に活用可能な物件がある 物件が点在しており、運営効率が悪い
既存ホテルのF&Bに課題があるか? F&B部門が赤字または利益率が低い F&Bがホテルの中核収益源である
地域コミュニティの協力度 商店街組合や自治体が協力に前向きである 地域に排他的なムードがある
ターゲット顧客の志向 体験消費・地域交流を求める層が多い 利便性・ブランドの安心感のみを求める

応用可能性2:F&B部門の課題解決と収益多角化

多くのホテルにとって、F&B部門(レストラン・バー)は、顧客体験を構成する重要な要素である一方で、人件費と食材ロスの問題から、利益率の低い部門となりがちです。

SEKAI HOTELモデルは、F&Bを外部の地域店舗に委託し、自社の固定費負担をゼロにしました。これは、既存ホテルが自社のF&B部門を大胆に縮小または外部委託し、その代わりとして周辺の高品質な飲食店と提携して「地域共通チケット」のような仕組みを導入するヒントになります。

これにより、ホテルのスタッフは本来の宿泊サービスに集中でき、コスト削減と、地域への収益還元(サステナビリティ)を同時に実現できます。

また、F&B部門を単なるコストと見なすのではなく、物語や体験を提供する場として捉え直すことで収益性を高める手法については、ホテルバーはコストか利益か?F&Bを収益に変える物語の力の記事でさらに詳しく解説しています。

ホテル事業者が今後注目すべき「地域インフラ化」という新潮流

SEKAI HOTELの成功事例は、ホテルが単なる「宿泊施設」ではなく、「地域の社会インフラ」として機能する新潮流を明確に示しています。

このモデルは、特に地方や観光地ではないエリアにおける遊休資産問題と、宿泊業の人手不足という二つの大きな社会課題を同時に解決するソリューションです。従来のホテルが、客室稼働率(OCC)やADR(平均客室単価)の追求に終始していたのに対し、この新潮流は、地域全体の経済効果や持続可能性(サステナビリティ)をKPIに組み込みます。

ホテル業界において、投資の対象が「箱」としての建物から、「地域を編集し、体験価値を生み出す運営プラットフォーム」へと移行しつつある証拠と言えるでしょう。今後は、自社の収益を最大化しつつ、地域に最大の便益をもたらす「共創型運営モデル」の設計能力こそが、ホテル資産価値を左右する重要な要素となるでしょう。

よくある質問(FAQ)

SEKAI HOTELの客室はどこにあるのですか?

客室は、商店街の空き店舗や空き家をリノベーションして作られており、地域に分散しています。フロントから離れた場所に点在しているのが特徴です。

宿泊者が地域店舗を利用するメリットは何ですか?

地域店舗での飲食やサービス(朝食、銭湯など)が宿泊プランに含まれているため、宿泊者は地元のリアルな暮らしに深く触れる体験ができます。また、店舗側にとっては安定した顧客獲得と収益向上に繋がります。

このモデルは初期投資をどれくらい抑えられますか?

新築のホテルを建設する場合と比較して、土地取得費や大規模な共用施設の建設費がかからないため、初期投資は大幅に抑えられます。リノベーション費用と運営システムの導入費用が主となります(出典のプレスリリースより、具体的な金額は地域や物件によります)。

観光地ではない場所で集客するマーケティング戦略は何ですか?

従来の「観光名所」ではなく、「地域のリアルな日常」をコンテンツとして打ち出しています。体験のユニークさと地域共創のストーリー性がSNSなどで拡散され、感度の高い旅行者を集めています。

セキュリティや安全面での課題はありませんか?

客室が分散しているため、セキュリティ対策は重要です。しかし、地域全体が宿泊客を迎え入れる意識を持つこと、そして地域店舗がホテルの機能の一部として機能することで、自然な「見守り」体制が構築され、地域全体の安全性の向上に貢献しています(出典:クジラ株式会社プレスリリース)。

このビジネスモデルは、他の地方都市でも応用可能ですか?

はい、応用可能です。重要なのは、地域の商店街やコミュニティが維持されており、活用できる遊休資産(空き家、空き店舗)が存在することです。画一的なチェーン展開よりも、地域ごとの個性を最大限に活かした運営編集力が必要とされます。

このモデルは通常のホテル(一棟型)にとって脅威となりますか?

競合というよりは、新しい市場の開拓者と捉えるべきです。SEKAI HOTELは「地域体験」というニッチな高付加価値市場を開拓しており、既存ホテルは、この「地域の資源をサービスに組み込む」発想を、自社の収益多角化戦略のヒントとして活用できます。

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