はじめに
近年、ホテル業界は人手不足という深刻な課題に直面しており、総務人事部の役割はこれまで以上に重要になっています。しかし、具体的な対策が見えず、採用や育成、離職率の低減に頭を悩ませている担当者も少なくないでしょう。
この記事では、総務人事部の皆さんが抱えるそんな悩みを解決するために、以下のメリットを提供します。
- 採用難に打ち勝ち、ホテルに最適な人材を確保するヒントが得られます。
- 多様なバックグラウンドを持つ従業員が活躍するための育成・定着戦略が分かります。
- 離職率を下げ、従業員が長く働きたいと思える魅力的な職場を作る具体的な方法を理解できます。
ホテル業界の人材不足は「待ったなし」の課題です
2025年現在、ホテル業界では人手不足が慢性化し、多くのホテルが運営体制の維持に苦慮しています。特に現場では、「新しいスタッフが入ってきてもすぐに辞めてしまう」「研修に時間をかけても、一人前になる前に退職してしまう」といった声が日々聞かれ、既存スタッフへの負担が増大する悪循環に陥っています。総務人事部の皆さんも、効果的な採用活動の実施や、従業員の定着率向上に向けた具体的な施策の立案に頭を抱えているのではないでしょうか。
このような状況を打破するためには、従来の採用活動の枠を超え、より戦略的なアプローチで多様な人材を確保し、彼らが長く活躍できる環境を整備することが不可欠です。
戦略的なジョブフェアが、採用の「質」と「量」を両立する鍵
ホテル業界の人材不足を根本から解決するには、単なる「数集め」ではない、戦略的なジョブフェアの開催が不可欠です。従来の採用手法だけでは、現代のホテルが求める多様なスキルとバックグラウンドを持つ人材、そして潜在的なホテリエ候補に十分にアプローチできていません。求職者との直接的な接点を通じて、ミスマッチを防ぎ、ホテル業界の魅力を深く伝えることで、採用の質と量を同時に高めることができます。
クレタ島の「キャリアデー」に見る、人材確保の具体的な成功事例
2025年12月に報じられたニュースによると、ギリシャの観光大国クレタ島では、長年にわたる深刻な観光業の人材不足を解消するため、「キャリアデー」と称する大規模なジョブフェアが開催されると発表されました。このイベントは、2026年1月21日にクレタ島の主要観光拠点であるヘラクリオンとハニアの2箇所で実施され、多数のホテルやケータリング事業者が参加する予定です。
この記事によると、クレタ島では数千人規模の従業員が不足しており、特に季節労働者だけでなく、専門的なスキルを持つ人材も求められています。このジョブフェアは、ホテルやケータリング事業者が求職者と直接出会い、採用プロセスを効率化することを目指しています。
記事の要約と深掘り:
このクレタ島の事例は、ホテル業界が直面する人材不足に対し、総務人事部がどのように戦略的に取り組むべきかを示唆しています。
- 人材不足の深刻さへの対応: クレタ島が数年来の課題である数千人規模の人材不足(季節労働者から専門職まで)に、地域全体で取り組む姿勢は、日本のホテル業界が抱える課題と共通しています。ホテル単体で採用活動を行うだけでなく、地域全体でホスピタリティ産業の魅力を発信し、人材確保に動くことの重要性が分かります。
- 直接対話の機会創出: 求職者がホテルやケータリング事業者と直接顔を合わせ、疑問を解消し、互いのニーズを理解する貴重な機会を提供します。現場のスタッフからは、「履歴書や面接だけでは分からない人柄や意欲を見極めたい」という声が常に聞かれます。こうした直接のコミュニケーションは、入社後のミスマッチを大幅に減らし、定着率向上にも繋がります。
- 多様な職種の募集: フロント、料飲サービス、ハウスキーピング、技術、管理職など、ホテル運営に必要なあらゆる部門での雇用機会が提供されます。これは、特定のスキルだけでなく、幅広い経験やバックグラウンドを持つ人材を呼び込む上で非常に重要です。多様な職種を一堂に会して募集することで、求職者も自身の適性やキャリアパスを検討しやすくなります。
- 地域連携の強化: 主要観光拠点での開催は、地域の経済団体や自治体と連携し、観光業全体を盛り上げようとする意図が見えます。ホテル単体では到達できない層にもアプローチでき、地域社会におけるホテル業界の魅力を再認識させる効果も期待できます。
この事例が示すように、総務人事部は単に求人広告を出すだけでなく、能動的に大規模なイベントを企画・参加し、多様な人材との接点を作り出すことが求められます。こうした場で「ホテルで働くことの面白さ」「キャリアを築ける可能性」を具体的に伝えることが、採用の質と量を同時に高める上で非常に効果的です。
採用後の「人財」を育み、定着させる教育とキャリアパス
戦略的な採用活動で得た多様な人材を、長期的な「人財」として育成し、ホテルに定着させるためには、個別最適化された教育プログラムと明確なキャリアパスの提示が不可欠です。ホテル業界で働く人々の背景やスキルはますます多様化しています。画一的な研修だけでは個々の潜在能力を十分に引き出せず、結果としてモチベーションの低下や離職に繋がりかねません。一人ひとりが自身の成長を実感し、将来像を描ける環境を提供することで、企業へのエンゲージメントを高めることができます。
具体的な事例として、以下の施策が考えられます。
- 個別最適化されたオンボーディング:
入社時の研修では、単に業務フローを教えるだけでなく、メンター制度を導入し、OJTを通じてきめ細やかなサポートを行います。例えば、異業種からの転職者にはホテル業界の専門用語や文化を丁寧に伝え、経験者にはより高度なスキル習得の機会を提供します。現場からは「最初の数ヶ月でつまずくと、その後が続かない」という声があり、この時期の丁寧なフォローが離職率に直結します。一人ひとりの経験やスキルレベルに合わせた研修内容は、スムーズな職場適応を促し、早期離職を防ぐ上で非常に重要です。
- 継続的なスキルアップ研修:
語学研修、ITリテラシー向上、コミュニケーションスキル、リーダーシップ研修など、従業員の希望やキャリア目標に応じた多様な研修プログラムを用意します。また、外部講師を招いたり、オンライン学習プラットフォームを導入したりすることで、従業員が自主的に学び続けられる環境を整備します。これにより、従業員は自身の市場価値が高まっていることを実感でき、企業への貢献意欲も高まります。例えば、AIツールを活用した学習支援や、業務効率化ツールのトレーニングなども有効です。
- キャリアパスの可視化と面談制度:
従業員が自身の努力によってどのようなキャリアアップが可能か、具体的な例を示し、定期的なキャリア面談を通じて個別の目標設定と進捗確認を行います。例えば、「フロントデスクからゲストリレーション、そしてマネージャーへ」といった具体的なパスを提示することで、将来への希望を持たせます。現場のスタッフが「このホテルで働き続ける未来が見えない」と感じてしまうと、離職は避けられません。ホテリエのキャリア革命:専門性を武器に「ハイブリッド人材」への記事でも述べたように、専門性を磨き、多様なスキルを身につけることで、ホテリエとしての価値を最大化できます。管理職への道だけでなく、専門職としてのキャリアを深める選択肢も提示することで、より多くの従業員の意欲を引き出すことができます。
従業員エンゲージメントの強化が、離職率低減の「決め手」
人材が定着し、ホテル全体が活気にあふれるためには、従業員が「このホテルで働き続けたい」と心から思えるような、高いエンゲージメントを築き上げることが決定的な要素となります。高いエンゲージメントは、従業員が自身の仕事に誇りを持ち、組織目標への貢献意欲を高め、結果的にサービス品質の向上と離職率の低減に直結します。単に給与や待遇だけでなく、「働きがい」や「帰属意識」が、従業員の定着に深く関わっているのです。
具体的な事例として、以下の取り組みが考えられます。
- 定期的なフィードバックと評価の透明化:
上司と部下による1対1の定期面談や360度評価などを導入し、従業員が自身のパフォーマンスについて具体的なフィードバックを受けられる機会を増やします。また、評価基準を明確にし、昇進や報酬のプロセスを透明化することで、従業員の納得感と公平感を高めます。現場からは「自分の仕事が正当に評価されているか不安」という声が多く、適時適切なフィードバックが不可欠です。透明性のある評価制度は、従業員が目標を設定し、成長を実感する上で重要なモチベーションとなります。
- 柔軟な働き方の推進とワークライフバランス支援:
ホテル業界はシフト制勤務が基本ですが、可能な範囲で従業員の希望を考慮したシフト調整、有給休暇の取得推奨、産休・育休からの復帰支援などを積極的に行います。従業員のプライベートも尊重し、心身の健康をサポートすることは、長期的な定着に繋がります。例えば、デジタルツールを活用したシフト管理の最適化は、従業員の満足度向上に貢献します。育児や介護など、従業員のライフステージに合わせた柔軟な働き方を提供することは、多様な人材の確保と定着に不可欠です。
- 感謝と称賛の文化の醸成:
日々の業務の中で、従業員同士や上司から部下への「ありがとう」や「お疲れ様」といった感謝の言葉を積極的に交わす文化を育みます。月間MVPの表彰制度や、頑張った従業員を称える社内イベントなども効果的です。小さな成功を共に喜び、互いを認め合うことで、チームの一体感と帰属意識が高まります。これは、ホテル総務人事の戦略:「効率化」で挑む人手不足と定着率向上で示されているように、効率化だけではない、心の繋がりが定着には不可欠です。従業員が「自分はチームの一員として認められている」と感じられる環境は、離職率の低減に大きく貢献します。
まとめ:人財を未来への投資と捉え、総務人事が戦略の核となる
ホテル業界の持続的な成長と発展には、総務人事部が単なる管理部門ではなく、未来への「人財投資」を主導する戦略的な部門としての役割を果たすことが不可欠です。人材の採用、育成、定着を一貫した戦略として捉え、ホテル経営の核としてその責任を担うことで、競争力を高め、高品質な「おもてなし」を未来へと繋げることができます。
次のアクション:
2025年以降、ホテル業界はますます多様化するゲストのニーズに応え、変化の激しい市場で生き残っていく必要があります。そのためには、総務人事部がリーダーシップを発揮し、以下の具体的なアクションに取り組むことが求められます。
- 戦略的な採用イベントの企画・実行: クレタ島の事例のように、大規模なジョブフェアや地域と連携した採用イベントを積極的に企画・参加し、多様なバックグラウンドを持つ潜在的な人材層にアプローチしましょう。オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型のイベントも有効です。
- 個別最適化された教育プログラムの設計: 採用した人材一人ひとりの能力やキャリア目標に合わせた柔軟な研修制度やメンター制度を導入し、継続的なスキルアップとキャリアパスの明確化をサポートしましょう。これにより、従業員のエンゲージメントと定着率を同時に高めることができます。
- 従業員エンゲージメント向上のための継続的な取り組み: 定期的なフィードバック、柔軟な働き方、感謝の文化醸成を通じて、従業員が安心して長く働き続けられる、魅力的な職場環境を築きましょう。従業員満足度調査や、匿名での意見箱の設置なども有効な手段です。
これらの取り組みは、短期的なコストではなく、長期的な視点でのホテル経営における最も価値のある投資となります。総務人事部が主導する「人財戦略」こそが、2025年以降のホテル業界を支える「おもてなし」の根幹となるでしょう。


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