ホテルサービス「場所の解放」:モバイルPOSが創る「パーソナル体験」と「業務革新」

ホテル事業のDX化
この記事は約9分で読めます。

はじめに

ホテル業界において、ゲストへのサービス提供は常に進化を続けています。かつてはフロントデスクや固定されたPOS端末の前でしか完結できなかった多くの業務が、テクノロジーの進化によってその場所と形態を変えつつあります。特に、モバイルテクノロジーの活用は、ホテルの運用効率とゲストエクスペリエンスを劇的に向上させる可能性を秘めています。2025年現在、この流れはさらに加速しており、ホテルスタッフが固定されたワークステーションから解放され、より柔軟かつパーソナルなサービスを提供できる環境が整いつつあります。

固定概念を打ち破るモバイルPOS:Shiji Infrasys POS Moveの衝撃

この変革を象徴する最新の動きとして、ホスピタリティテクノロジーのグローバルリーダーであるShijiが、そのモバイルPOSソリューション「Infrasys POS Move」の進化を発表しました。これは、ホテルのサービスをカウンターの向こう側、つまり従来の固定された場所からゲストのいるあらゆる場所へと拡張するというビジョンに基づいています。

参照ニュース記事:Shiji introduces Infrasys POS Move to take hotel service beyond the workstation – Hospitality Net

2025年11月18日に発表されたこのソリューションは、ホテルスタッフが固定されたワークステーションに戻ることなく、ロビー、プールサイド、レストラン、スパ、バー、イベントスペースなど、施設内のどこからでもゲストにサービスを提供できる柔軟性を与えるものです。ShijiのCEOであるKevin King氏は、「テクノロジーは人々を力づけ、プロセスを促進するべきだ」と述べ、「私たちはもはや、ゲストがフロントデスクに立っているときに一度だけ彼らと繋がるわけではない。代わりに、彼らがホテルに到着した瞬間から関わり、多くの場合、彼らはすでに準備ができています」と、ゲストエンゲージメントの新たな形を強調しています。

この「Infrasys POS Move」の導入は、単に決済端末がモバイルになるという話に留まりません。これは、ホテルのサービス提供モデルそのものを再定義し、ゲストとスタッフの関係性を根本から変える可能性を秘めているのです。

ホテルで実現できるようになること:運用効率とゲスト体験の劇的な向上

モバイルPOSソリューションの導入は、ホテル運営に多岐にわたる具体的なメリットをもたらします。ここでは、その主要な実現事項を深く掘り下げていきます。

1. ゲストエクスペリエンスの飛躍的向上

モバイルPOSは、ゲストが求める場所で、求めるタイミングでサービスを提供する「パーソナルなホスピタリティ」を可能にします。従来のホテルでは、ゲストはサービスを受けるために特定の場所(フロント、レストランのレジなど)に移動し、列に並び、待つ必要がありました。しかし、モバイルPOSがあれば、その制約はなくなります。

  • チェックイン/チェックアウトの柔軟性:ゲストはロビーのソファでくつろぎながら、あるいは空港への送迎車を待つ間に、スタッフが持つタブレットでチェックイン/アウト手続きを完了できます。これにより、フロントデスクでの混雑が緩和され、ゲストは到着から出発までストレスなく過ごせるようになります。
  • レストラン・バーでの迅速なサービス:混雑時でも、スタッフはテーブルサイドで直接オーダーを受け、その場で決済まで完了できます。これにより、オーダーミスが減り、提供までの時間が短縮され、ゲストはよりスムーズに食事やドリンクを楽しめます。特にプールサイドや屋外テラスなど、固定端末が設置しにくい場所でのサービス提供が格段に向上します。
  • スパ・アクティビティでのシームレスな体験:スパの受付やアクティビティの集合場所で、その場で予約確認や追加料金の決済が可能です。ゲストはわざわざフロントに戻る必要がなく、体験の興奮を途切れさせずに次の行動に移れます。
  • イベント会場での利便性:ホテルで開催される会議や宴会、ウェディングなどのイベントにおいて、追加の飲食オーダーや物販をその場で対応できます。これにより、イベント参加者の満足度が向上し、ホテルの収益機会も拡大します。

これは、ホテル滞在の「小さな不満」を解決:テクノロジーが導く「未来のホスピタリティ」と「ブランド価値」という過去の記事でも触れた、ゲストの不満を解消し、ブランド価値を高める重要な要素となります。

2. 運用効率の劇的な改善とコスト削減

モバイルPOSは、スタッフの業務フローを最適化し、日々の運用効率を大幅に向上させます。

  • スタッフの移動時間短縮:オーダーや決済のために固定端末の場所まで移動する手間がなくなるため、スタッフはより多くの時間をゲストとの対話やサービス提供に集中できます。これにより、スタッフ一人あたりの対応可能ゲスト数が増加し、人件費の最適化にも繋がります。
  • リアルタイムな情報共有:モバイル端末を通じて、在庫状況、客室情報、ゲストの過去の履歴などがリアルタイムで確認できます。これにより、オーダーミスや重複予約などのヒューマンエラーが減少し、よりパーソナルな提案が可能になります。
  • トレーニング期間の短縮:直感的なインターフェースを持つモバイルPOSは、新しいスタッフでも比較的短期間で操作を習得できます。これにより、新人教育の負担が軽減され、即戦力化を促進します。
  • インフラコストの削減:多数の固定POS端末や専用の配線が不要になることで、初期導入コストやメンテナンスコストを削減できる可能性があります。特に、季節によってレイアウトを変更するレストランやバー、イベントスペースなどでは、そのメリットは大きいでしょう。

こうした業務効率の改善は、ホテル業務の「隠れたレバー」:ワークフロー自動化が拓く「未来のホスピタリティ」でも論じたように、ホテルの持続的な成長に不可欠な要素です。

3. スタッフの働きがいとエンゲージメント向上

テクノロジーの導入は、ゲストだけでなく、ホテルで働くスタッフにとっても大きなメリットをもたらします。モバイルPOSは、スタッフの働きがいとエンゲージメントを高める重要なツールとなり得ます。

  • 能動的なサービス提供:固定された場所から解放されることで、スタッフはより積極的にゲストに近づき、ニーズを先読みしたサービスを提供できるようになります。これにより、スタッフは「作業者」から「ホスピタリティの提供者」へと役割をシフトさせ、仕事の満足度を高めることができます。
  • 業務負荷の軽減:手書きのオーダー伝票や、固定端末への入力作業が不要になることで、単純作業によるストレスが軽減されます。これにより、スタッフはより創造的で価値の高い業務に集中できるようになります。
  • プロフェッショナル意識の向上:最新のテクノロジーを使いこなすことで、スタッフは自身のスキルアップを感じ、プロフェッショナルとしての意識を高めることができます。これは、未来型PMSが拓くホテル:スタッフの「価値創造」と「パーソナル体験」で述べたように、スタッフが自身の価値を創造する機会を増やすことにも繋がります。

4. 新たな収益機会の創出

モバイルPOSは、これまでサービス提供が難しかった場所や状況で、新たな収益機会を生み出します。

  • 屋外スペースの活用:ホテルの庭園、ルーフトップ、プライベートビーチなど、これまでサービスが行き届きにくかった屋外スペースでも、飲食や物販の提供が可能になります。これにより、既存施設の価値を最大限に引き出し、新たな顧客体験と収益源を創出できます。
  • ポップアップイベントの開催:期間限定のポップアップバーやショップを、ホテルの様々な場所で柔軟に展開できます。モバイルPOSがあれば、場所を選ばずに決済が可能となり、イベントの企画・運営の自由度が格段に向上します。
  • パーソナルなアップセル/クロスセル:ゲストの滞在履歴や好みに基づき、モバイル端末でその場でパーソナルなアップセル(例:より高級なワインの提案)やクロスセル(例:スパトリートメントの予約)を提案できます。これにより、ゲスト単価の向上に繋がります。

現場のリアルな声(想定)

このようなモバイルPOSの導入は、現場のスタッフとゲスト双方に具体的な恩恵をもたらすでしょう。

ゲストの声:

  • 「プールサイドでゆっくりしている時に、わざわざバーカウンターまで行かなくても、スタッフが注文を取りに来てくれて、その場で決済までできたのは本当に便利だった。リラックスした時間を邪魔されずに過ごせた。」
  • 「チェックインがとてもスムーズでした。ロビーでウェルカムドリンクをいただきながら、スタッフの方がタブレットで手続きしてくれたので、列に並ぶストレスが全くなかったです。」

スタッフの声:

  • 「以前はオーダーを取ってからレジまで戻り、入力して、またお客様のところへ戻るという手間がありましたが、今はその場で全て完結できるので、お客様と向き合う時間が増えました。よりきめ細やかなサービスを提供できるようになったと感じています。」
  • 「宴会会場で追加のドリンクオーダーが入った時、以前はキッチンに走って伝票を書いていましたが、今はモバイルPOSで直接オーダーを通せるので、提供までの時間が格段に短縮されました。お客様をお待たせすることが減り、クレームも少なくなりました。」
  • 「新人スタッフのトレーニングも楽になりました。直感的に操作できるので、すぐに現場で活躍できるようになります。」

導入における課題と対策

モバイルPOSの導入は多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかの課題も存在します。これらを事前に認識し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。

  • ネットワークインフラの整備:ホテル全体、特に屋外やイベントスペースなど、あらゆる場所で安定したWi-Fi接続が不可欠です。電波の死角がないか、通信速度は十分かなど、事前の詳細な調査と整備が必要です。
  • スタッフのトレーニングと意識改革:新しいシステムへの移行には、スタッフへの十分なトレーニングと、従来の業務習慣からの意識改革が求められます。単なるツールの使い方だけでなく、モバイル化によって可能になる新たなサービス提供の価値を理解させることが重要です。
  • セキュリティ対策:モバイル端末での決済や個人情報の取り扱いには、厳重なセキュリティ対策が必須です。端末の紛失・盗難時のデータ保護、決済情報の暗号化など、多層的なセキュリティプロトコルの確立が求められます。
  • システム統合:モバイルPOSは、PMS(Property Management System)や在庫管理システム、会計システムなど、他のホテルシステムとのシームレスな連携が求められます。データの一貫性を保ち、業務フローを円滑にするための統合戦略が必要です。

まとめ

ShijiのInfrasys POS MoveのようなモバイルPOSソリューションは、ホテル業界におけるサービス提供のあり方を根本から変える可能性を秘めています。これは単なるテクノロジーの導入に留まらず、ゲストに対してよりパーソナルで、より迅速なサービスを提供し、結果としてゲストエクスペリエンスとブランドロイヤルティを向上させる戦略的な投資です。同時に、スタッフの業務効率を改善し、働きがいを高めることで、ホテルの持続可能な成長にも貢献します。

2025年現在、ホスピタリティの未来は、固定されたカウンターの向こう側ではなく、ゲストのすぐそばにあります。モバイルテクノロジーを賢く活用し、ホテルのあらゆる場所をサービス提供の舞台に変えることで、私たちは新たなホスピタリティの価値を創造できるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました